背中のツボ⑯―背中のツボのまとめ

背中のツボ、16回目です。今回は、復元した頭のツボの各主治症を比較して、背中のツボに関してまとめをしたいと思います。
背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪
背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪
背中のツボ⑪―上髎・次髎
背中のツボ⑫―中髎・下髎・会陽
背中のツボ⑬―附分・魄戸・神堂
背中のツボ⑭―譩譆・膈関・魂門・陽綱
背中のツボ⑮―意舍・胃倉・肓門・志室・胞肓・秩辺
2023.05.24
「肝兪」の「眉頭痛」を頭部から面部に移動。
主治症の比較
頭のツボのまとめのときと同様に、復元した主治条文の各症状を身体の各部位に分類して、表を作成し、比較します。部位は全身、精神、頭、面、頸、項、上肢、胸脇、腹、背、腰臀、下肢としました。咽喉、胸腔、腹腔の症状はそれぞれ頸、胸脇、腹に、熱病、瘧、痙攣は全身に分類しています。狂、癲疾はおそらく高熱で脳に影響が出ていると考えられますが、精神に分類しました。その他適宜分類しています。
また、下線を引いているものは、複数の部位の記載があるものです。各部位に記しておき、着目する部位に下線を引いています。
ひとつひとつの主治条文をみて、どんな病態なのかを考えるのも大事だと思いますが、このように症状を部位ごとに分類することで、どのツボを使うかは、どこの症状なのかによって決まる傾向にあることがわかるのではないかと思います。
もっとわかりやすくできたらいいのですが、すみません、思いつかないのでとりあえずこの表で。どこの部位の記述が多いかで、だいたいの傾向だけでも把握はできると思うので。
背自第一椎循督脈行至脊骶凡十一穴第七
大椎 | 陶道 | 身柱 | 神道 | 至陽 | |
---|---|---|---|---|---|
全身 | 傷寒熱盛 | 悽厥寒熱 汗不出 | 身熱 瘈瘲 | 身熱 㾬瘧 | 寒熱解爛 淫濼 四肢重痛 少気難言1 |
精神 | 狂走譫言 見鬼 癲疾 怒欲殺人 | 悲愁恍惚 | |||
頭 | 頭重 | 頭痛進退往来 | |||
面 | 目瞑 | ||||
頸 | |||||
項 | 項強難以顧 | ||||
上肢 | 肩痛 | ||||
胸脇 | 煩嘔 | ||||
腹 | 腹満 | ||||
背 | 背急強 | ||||
腰臀 | |||||
下肢 | 脛酸 |
筋縮 | 脊中 | 懸樞 | 命門 | |
---|---|---|---|---|
全身 | 瘈瘲 | 黄疸 | 身熱如火汗不出瘈瘲 | |
精神 | 小児驚癇 狂走癲疾 | |||
頭 | 頭痛如破 | |||
面 | 目転上挿 | |||
頸 | ||||
項 | ||||
上肢 | ||||
胸脇 | ||||
腹 | 腹満不能食 | 腹中積気上下行不仁 | 裏急 腰腹相引痛 | |
背 | 脊急強 | |||
腰臀 | 腰脊強不得俛仰 | 腰腹相引痛 | ||
下肢 |
腰兪 | 長強 | |
---|---|---|
全身 | 寒熱 | 寒熱 痓反折瘈瘲 |
精神 | 癲疾発如狂 小児癇 | |
頭 | (虚則)頭重 | |
面 | (面皮敦敦厚者不治) | |
頸 | ||
項 | ||
上肢 | ||
胸脇 | 心痛 短気 | |
腹 | 乳子下赤白 引小腹控䏚 | 洞泄癃痔大小便難 小便黄閉 |
背 | 脊強互引反折汗不出 | (實則)脊急強 脊強互相引 |
腰臀 | 腰痛 不可俛仰 腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙 | 腰痛上寒 腰尻重難起居 尻䐈清 |
下肢 | 腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙 |
1 少気難言:呼吸が浅く、話すことができないほど全身状態が悪いことの表現と判断。
背自第一椎両傍侠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八
大杼 | 風門 | 肺兪 | 心兪 | 膈兪 | |
---|---|---|---|---|---|
全身 | 振寒瘈瘲 熱汗不出 痓 悪風時振慓 身熱 寒熱 身不安席㾬瘧 | 肺寒熱 振慄脈鼓 汗不出 憎風時振寒不得言得寒益甚 身熱 瘈瘲 | 寒熱 汗不出如瘧状 㾬瘧 | 寒熱 皮肉骨痛 汗不出 嘿嘿然嗜卧怠堕不欲動 身常湿 悽悽振寒数欠伸 周痺身皆痛無可大汗出 痓 大風汗出 | |
精神 | 僵仆不能久立 癲疾 | 癲疾 狂走欲自殺目反盲見 死不知人 | 悲傷 | 癲狂 | |
頭 | 頭痛 | 風眩頭痛 | |||
面 | 目𥇀𥇀 | 鼻鼽不利時啑清涕自出 | 涙出 | 目𥇀𥇀涙出 | |
頸 | 頸項痛不可以俛仰 喉痺 | 喉痺 | |||
項 | 頸項痛不可以俛仰 項強 | ||||
上肢 | |||||
胸脇 | (気實則)脇満 大気満 喘息 胸中欝欝 煩満 | 呼吸不得卧 欬上気欧沫 喘気相追逐 胸満 背膺急 息難 気隔胸中有熱支満 | 心痛循循然 胸中邑邑不得息 欬唾血多涎 煩中善噎 | 欬 鬲寒 少気不得卧 胸満支 両脇鬲上兢兢 脇痛 上気 心痛無可揺者 | |
腹 | 裏急 | 不嗜食 | 飲食不下嘔逆 | 嘔 食飲不下 腹䐜胃管暴痛 腹中痛 積聚 | |
背 | 夾脊有并気 腰背痛 脊強互引 | 背膺急 | 与背相引而痛 | 肩背寒痛 | |
腰臀 | 腰背痛 | 腰脊痛 | |||
下肢 |
肝兪 | 胆兪 | 脾兪 | 胃兪 | 三焦兪 | 腎兪 | |
---|---|---|---|---|---|---|
全身 | 筋寒熱 痓筋痛急互引 | 黄癉善欠 身重不欲動 四肢急 熱痓 | 風厥 | 熱痓 寒熱 熱 身熱振慄 腰中四肢淫濼 脈鼓大 骨寒熱互引 | ||
精神 | 驚狂 癲狂 | |||||
頭 | 眩目中循循然 | 頭痛 | 風頭痛如破 頭重 | |||
面 | 目上視 眉頭痛 衂 目𥇀𥇀生白瞖 鼻酸 | 口苦舌乾 | 面黒 目𥇀𥇀 | |||
頸 | ||||||
項 | ||||||
上肢 | ||||||
胸脇 | 欬而脇満急不得息不可反側 掖脇下与臍相引筋急而痛反折 欬引胸痛 唾血短気 | 胸満 | 脇下満 煩不嗜食 | 胸脇榰満 | 両脇難以息 喘欬少気 | |
腹 | 掖脇下与臍相引筋急而痛反折 少腹満 | 欧無所出 飲食不下 | 腹中気脹 飲食多身羸痩 食不下 欲吐 大腸転気按之如覆坏 熱引胃痛 脾気寒 | 胃中寒脹 食多身羸痩 腹中満而鳴 腹䐜 欧吐 食不下 | 食飲不下 腸鳴臚脹欲欧時泄注 | 食多身羸痩 心下䐜堅痛 心如懸下引臍少腹急痛 溺善濁出赤 欲欧 寒中洞泄 食不化 溲難 腹▢▢ |
背 | 引脊痛 | 脊急痛筋攣 | 引背不得息 | |||
腰臀 | 腰痛不可俛仰反側 腰中四肢淫濼 | |||||
下肢 | 足寒如氷 |
大腸兪 | 小腸兪 | 膀胱兪 | 中膂兪 | 白環兪 | |
---|---|---|---|---|---|
全身 | 熱痓互引汗不出反折 似癉瘧状 | 寒熱 痓反折互引 | |||
精神 | |||||
頭 | |||||
面 | 面腫2 | 舌乾 | |||
頸 | |||||
項 | |||||
上肢 | |||||
胸脇 | 上衝心 | 掖攣 引脇痛 内引心 | |||
腹 | 大腸転気按之如覆坏 食飲不下 善噎 腸中善鳴腹䐜 暴泄 | 少腹痛熱控嚢 疝痛 小腸切痛 溺難黄赤 | 引背少腹 溺赤 | 腹脹 | 小便赤黄 |
背 | 引背少腹俛仰難不得仰息 | 背中怏怏 | |||
腰臀 | 腰痛 | 引腰脊 腰脊強 | 腰脊痛強 脚痿重尻不挙 腰以下至足清不仁不可以坐起 尻臀内痛 | 腰痛不可以俛仰 | 腰脊痛不得俛仰 尻重不能挙 |
下肢 | 腰以下至足清不仁不可以坐起 |
上髎 | 次髎 | 中髎 | 下髎 | 会陽 | |
---|---|---|---|---|---|
全身 | 熱病汗不出 㾬瘧 寒熱 痓 | ||||
精神 | |||||
頭 | |||||
面 | |||||
頸 | |||||
項 | |||||
上肢 | |||||
胸脇 | |||||
腹 | 陰睾跳騫 女子絶子 陰挺出不禁白瀝 | 女子赤白淫心下積脹 | 大便難 飧泄 少腹脹 女子赤淫時白気癃月事少 男子癃 | 女子下蒼汁不禁赤淫陰中痒痛引少腹控眇不可以俛仰 腸辟泄注 | 五蔵腸中有寒 泄注 腸辟便血 |
背 | 善傴 脊反折 | 脊腰背寒 | |||
腰臀 | 腰脊痛而清 | 腰痛怏怏不可以俛仰 腰以下至足不仁 脊腰背寒 要[ ] | 腰痛 腰尻中寒 | 腰痛不可反側 尻䐈中痛 | |
下肢 | 腰以下至足不仁 |
2 面腫:而腫の間違いか
背自第二椎両傍侠脊各三寸至二十一椎下両傍凡二十六穴第九
附分 | 魄戸 | 神堂 | 譩譆 | 膈関 | |
---|---|---|---|---|---|
全身 | 悽厥悪寒 | 洒沂 | 痓互引 身熱 㾬瘧 風 | 悪寒 | |
精神 | |||||
頭 | 背痛引頭 | 小児食晦頭痛 | |||
面 | 鼽衂 | ||||
頸 | 項背痛引頸 | ||||
項 | 項背痛引頸 | ||||
上肢 | 肩痛 | ||||
胸脇 | 欬逆上気 煩満 | 胸腹満 | 掖痀攣 引脇而痛 内引心肺 欬逆上気 喘逆 | ||
腹 | 欧吐 | 胸腹満 | 䏚季脇引少腹而痛脹 小児食晦頭痛 | 食不下 欧呃 多㵪 | |
背 | 背痛引頭 | 肩髆間急 項背痛引頸 | 脊背強急 | 暴脈急 肩甲内廉痛不可俛仰 | 背痛 脊強俛仰難 |
腰臀 | |||||
下肢 |
魂門 | 陽綱 | 意舍 | 胃倉 | 肓門 | 志室 | |
---|---|---|---|---|---|---|
全身 | 悪風寒 | 身熱 | 悪寒 | 婦人乳余疾 | ||
精神 | ||||||
頭 | ||||||
面 | 面目黄 | |||||
頸 | ||||||
項 | ||||||
上肢 | ||||||
胸脇 | 胸脇脹満 | 脇下満 | ||||
腹 | 食飲不下 欧吐不留住 | 食飲不下 腹中雷鳴 大便不節 小便赤黄 | 腹中満臚脹 大便泄 消渇 | 臚脹水腫 食飲不下 不能俛仰 | 心下大堅 | 少腹中堅急 |
背 | 背痛 | 脊急 | ||||
腰臀 | 腰痛 | |||||
下肢 |
胞肓 | 秩辺 | |
---|---|---|
全身 | 悪寒 | |
精神 | ||
頭 | ||
面 | ||
頸 | ||
項 | ||
上肢 | ||
胸脇 | ||
腹 | 少腹満堅 癃閉下重 不得小便 | 陰痛下重不得小便 |
背 | ||
腰臀 | 腰脊痛 | 腰痛骶寒俛仰急難 |
下肢 |
3 消渇:脾胃の内熱によるものと解釈して腹部に分類
上記の表をPDFにしたものです↓ 印刷して見た方が見やすいかも
いわゆる足太陽膀胱経の一行線や腰兪、長強に記述量が多いです。それらがよく使われたということだと思いますが、長強は少なくとも現在では使いづらい・・・。
上背部のツボは熱病や癲癇等によく使われています。
膈兪の高さより上は胸部症状(呼吸器、循環器、上部消化管を含む)が主です。
大杼は首に近い分、頸部、項部の症状がみられ、肺兪は呼吸器、心兪は循環器症状がみられます。膈兪は呼吸器症状、消化器症状の両方みられますが、とにかく全身状態が悪く、衰弱しています(参照 膈兪と膏肓)。肝兪は、肝が筋や目と関係しているからか、筋のひきつりや目の症状がありますが、それ以外には呼吸器症状がみられます。
肝兪を除けば膈兪以下になってきますと、消化器症状が主になってきます。
腎兪以下になると腰痛や泌尿器生殖器症状がみられます。腎兪は腰痛はもちろんのこと、熱病や消化器症状、泌尿器症状、下肢の冷えにも使われています。大腸兪は消化器症状が主ですが、小腸兪以下になりますと下腹部の症状が主になります。
八髎穴で比較しますと、いずれも腰痛、生殖器症状が共通してありますが、上髎には熱病、次髎には下肢症状、中髎、下髎には下部消化器症状が特殊にみられます。
小結
このようにみてみますと、背中のツボは局所、近位の症状に対して使わていることがわかります。膈兪より上は呼吸器、循環器、上部消化管などの胸部症状、膈兪から腎兪にかけては消化器症状が主になっていき(肝兪は除く。肝についてはまた考えたいと思います)、腎兪以下になっていきますと、腰痛や泌尿器生殖器などの下腹部の症状が主になっています。
現代の解剖学や自律神経系とそう大きな違いはないと思われます。
以下に参考として自律神経系の分布図を載せます(『ネッター解剖学アトラス』原書第7版から引用)


以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
コメント