背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮

大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮

今回から背中のツボです。今回は督脈のツボである大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

目次

背自第一椎循督脈行至脊骶凡十一穴第七

大椎

各書の主治条文

医心主治条文
 傷寒熱盛煩欧也

甲乙主治条文
 傷寒熱盛煩嘔●大椎主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 痓脊強互引悪風時振慓喉痺大気満喘胸中欝欝身熱𥉂𥉂項強寒熱僵仆不能久立煩満裏急身不安席●大顴[1]主之(大杼の主治条文)(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)

外台主治条文
 寒熱以年爲壮数傷寒熱盛煩嘔

[1] 頭注:顴乃椎字誤 大杼の誤り 『医心』『外台』「大杼」の主治症、『甲乙』のツボの配列原則とも合う

主治条文の比較

医心傷寒熱盛煩欧也
甲乙傷寒熱盛煩嘔
外台傷寒熱盛煩嘔 寒熱以年爲壮数
復元傷寒熱盛煩欧

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①傷寒、熱盛、煩、欧。

傷寒(外感熱病)による症状。「煩欧」を「煩」(胸部が熱っぽい、悪心)と「欧」(嘔吐あるいは吐き気)と分けて考えるか、あるいは「煩」が「欧」に修飾すると考えて欧が甚だしいと考えるか(参照 長沢元夫『康治本傷寒論の研究』p102, p112, 1982年初版)。ここでは前者を採りました。

陶道

各書の主治条文

医心主治条文
 頭重目瞑悽厥寒熱項強難以顧汗不出

甲乙主治条文
 頭重目瞑悽厥寒熱汗不出●陶道主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 頭重目瞑悽厥寒熱項強難以反顧汗不出

主治条文の比較

医心頭重目瞑悽厥寒熱項強難以 顧汗不出
甲乙頭重目瞑悽厥寒熱      汗不出
外台頭重目瞑悽厥寒熱項強難以反顧汗不出
復元頭重目瞑悽厥寒熱項強難以 顧汗不出

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭重、目瞑、悽厥寒熱、項強難以顧、汗不出。

傷寒(外感熱病)による症状。「悽」は「凄」と同音。「悽厥」は悪寒がはげしいさまを言っていると解釈します。

身柱

各書の主治条文

医心主治条文
 身熱狂走閻[1]言見鬼瘈[2]瘲癲疾怒欲煞人

甲乙主治条文
 身熱狂走譫語見鬼瘈瘲●身柱主之(巻之七 足陽明脈病発熱狂走第二)
 癲疾怒欲殺人●身柱主之〈千金云瘈瘲身熱狂走譫語見鬼〉(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)

外台主治条文
 癲疾怒欲殺人身熱狂走讇言見鬼瘈瘲

[1] 原文:間 傍注に従う
[2] 原文:瘛 傍注に従う

主治条文の比較

医心身熱狂走閻言見鬼瘈瘲癲疾怒欲煞人
甲乙身熱狂走譫語見鬼瘈瘲癲疾怒欲殺人
外台身熱狂走讇言見鬼瘈瘲癲疾怒欲殺人
復元身熱狂走言見鬼瘈瘲癲疾怒欲
  • 譫:「譫」はたわごと、多言。「讇」はへつらう。「閻」と「讇」は同音。意味から『甲乙』の「譫」を採ります。
  • 殺:「煞」は「殺」の異体字。常用漢字の「殺」を採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①身熱、狂走、譫言、見鬼、瘈瘲。

②癲疾、怒欲殺人。

①身体が熱して、異常行動をし、たわごとを言い、幻覚をみる、痙攣。高熱、炎症が中枢神経に影響したために起こった症状。

②てんかん発作。「怒欲殺人」は異常行動の一種と思われます。

神道

各書の主治条文

医心主治条文
 身熱痛進退往来疾痎悲愁恍惚肩痛腹満背急強

甲乙主治条文
 身熱頭痛進退往來●神道主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 身熱頭痛進退往來㾬瘧恍惚悲愁

主治条文の比較

医心身熱 痛進退往来疾痎悲愁恍惚肩痛腹満背急強
甲乙身熱頭痛進退往來
外台身熱頭痛進退往來㾬瘧恍惚悲愁
復元身熱頭痛進退往来痎瘧悲愁恍惚肩痛腹満背急強
  • 痎瘧:『外台』を採りつつ、どちらでもいいのですが「㾬」ではなく「痎」とします。

単位条文化

①身熱、頭痛、進退往来。

②痎瘧。

③悲愁恍惚、肩痛、腹満、背急強。

①「進退往来」は症状が軽くなったり、重くなったりを繰り返すことを意味すると思われます。治りが悪いのに用いることを言っているか、あるいは次の「痎瘧」のような疾患のことを言っているか。

②③ひとつの条文か、もう少し分けるかどうか。一つの条文と考えるならば、「痎瘧」が主で、他の症状は「痎瘧」に伴った症状。「痎瘧」、「悲愁恍惚、肩痛、腹満、背急強」と二つに分けるならば、「悲愁恍惚」すなわち精神的、感情的なものが原因で、「肩痛、腹満、背急強」が起こっていると考えることができます。ここでは後者のように二つに分けました。

メモ(2023.03.09)
「肩痛、腹満、背急強」は「神堂」の主治条文「肩痛胸腹満洒沂脊背急強」が誤って混入したもの??三書では『医心』にしかこの部分はない。だが『新雕孫真人千金方』にも「肩背痛」「𦝫脊急強」に神道はみられるので、やはり違うか。

霊台 『明堂』になし

至陽

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱觧爛淫濼𦙾痠四支重痛少気注云風成爲寒𤍽爲瘡觧爛

甲乙主治条文
 寒熱懈爤〈一作爛[1]〉淫濼脛痠四肢重痛少気難言●至陽主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)

外台主治条文
 寒熱解爛淫濼脛酸四肢重痛少気難言

[1] 『医統本』は「一本作懶」

主治条文の比較

医心寒熱觧爛淫濼𦙾痠四支重痛少気
甲乙寒熱懈爤淫濼脛痠四肢重痛少気難言
外台寒熱解爛淫濼脛酸四肢重痛少気難言
復元寒熱爛淫濼脛痠四肢重痛少気難言
  • 解:「解」と「懈」は同音。「觧」は「解」の異体字。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①寒熱解爛、淫濼脛痠、四肢重痛、少気難言。

「解爛」に関して。『医心』の「注云風成爲寒𤍽爲瘡觧爛」は『明堂類成』の楊上善注の抜粋。この注にある「瘡觧爛」と『医統本』の割注「一本作懶」(「懶」=「癩」=「癘」、参照「脳空」)から、「解爛」の「解」は「㿍」=「疥」で、「解爛」は悪性の皮膚病で、皮膚炎がひどくなったさまを言っていると思われます。

「淫濼」はひどく痛んで力が入らないこと。「少気難言」は呼吸が浅く、言葉を発するのも困難。以上から、重症で、消耗がはげしいことがわかります。

筋縮

各書の主治条文

医心主治条文
 驚癇瘛瘲狂走脊急強目転上𠚏[1]注曰𠚏目上掩

甲乙主治条文
 狂走癲疾脊急強目転上挿●筋縮[2]主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 小児(驚癇)加瘈瘲脊急強目転運上挿●筋縮主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 小児驚癇瘈瘲狂走癲疾脊急強目転上挿

[1] 原文:齒 傍注に従う
[2] 原文:筋腧

主治条文の比較

医心  驚癇 瘛瘲狂走  脊急強目転 上𠚏
甲乙1小児驚癇加瘈瘲    脊急強目転運上挿
甲乙2       狂走癲疾脊急強目転 上挿
外台小児驚癇 瘈瘲狂走癲疾脊急強目転 上挿
復元小児驚癇 瘛瘲狂走癲疾脊急強目転 上
  • 挿:「𠚏」=「臿」。「𢆍」の異体字。「𢆍」と「挿」は同音。

単位条文化

①小児驚癇、瘈瘲。

②狂走、癲疾、脊急強、目転上挿。

①小児のひきつけ、けいれん。

②「脊急強、目転上挿」はてんかん発作の症状。けいれん。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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