頭のツボ⑦―臨泣・目窓・正営・承霊・脳空
頭のツボ、第7回です。今回は頭のライン、3つ目です(参照 なぜ神庭・曲差・本神・頭維で一項目を設けたのか)。今でいうところの足少陽胆経に属するツボです。
『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ①―神庭
頭のツボ②―曲差・本神・頭維
頭のツボ③ー上星・顖会および『甲乙経』のツボの配列規則
頭のツボ④―前頂・百会・後頂
頭のツボ⑤―強間・脳戸・風府
頭のツボ⑥―五処・承光・通天・絡却・玉枕
目次
頭直目上入髪際五分却行至脳空凡十穴第四
臨泣
各書の主治条文
医心主治条文
顔清不得視口沫小(児驚癇)反視両目眉頭痛
甲乙主治条文
頰清〈千金作妄噛視〉不得視口沫泣出両目眉頭痛●臨泣主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
小児驚癇●本神及前頂百会[1]天柱主之(巻之十二 小児雑病第十一)
外台主治条文
頬清不得視口沫泣出両目眉頭痛小児驚癇反視
[1] 原文:𦃞會 頭注:𦃞乃顖字誤 『医心』「百会」主治条文に従い改める。
参考:『甲乙』では「臨泣」「竅陰」「通谷」等と記載されており、「頭臨泣」なのか「足臨泣」なのか、「頭竅陰」なのか「足竅陰」なのか、「腹通谷」なのか「足通谷」なのかという同名異穴の判別問題があります。この問題は、『甲乙』のツボの配列規則により、前後の条文の主治穴の比較から解決することができます(参照 『甲乙』のツボの配列規則)。
主治条文の比較
医心 | 顔清不得視口沫 小児驚癇反視両目眉頭痛 |
甲乙 | 頰清不得視口沫泣出両目眉頭痛小児驚癇 |
外台 | 頬清不得視口沫泣出両目眉頭痛小児驚癇反視 |
復元 | 顔清不得視口沫泣出 小児驚癇反視両目眉頭痛 |
- 「顔清」か「頰清」か:「顔清」は「上星」「顖会」「曲沢」にも見られます。もし「頬清」ですと、この「頭臨泣」にしか見られないことになります。誤字と判断し、『医心』に従い「顔清」とします。
- 両目眉頭痛:『医心』の字順に従い、この位置とします。
単位条文化
①顔清、不得視、口沫泣出。
②小児驚癇、反視。
③両目眉頭痛。
①と③は『甲乙』では1つの条文です。もともとは二つの条文だったものを傷寒(外感熱病)によるものと『甲乙』の編者は判断し、1つの条文にまとめたと考えます。
①は『甲乙』では傷寒(外感熱病)の症状としています。破傷風などの神経毒による顔面のひきつりが考えられます。傷寒(外感熱病)を無視すれば、顔面神経麻痺の症状とも考えられます。
②小児のひきつり。眼球が上転している。
③眉頭の痛み。『甲乙』に従い傷寒(外感熱病)の症状とすれば、副鼻腔炎あるいは眼瞼炎などが考えられます。
目窓
各書の主治条文
医心主治条文
頭痛目瞑遠視𥇀𥇀上歯齲痛齗腫
甲乙主治条文
頭痛●目窓及天衝風池主之(巻之九 大寒内薄骨髓陽逆発頭痛第一)
目瞋[1]還視𥉂𥉂●目窓[2]主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
青盲無所見遠視𥉂𥉂目中淫膚白膜覆●瞳子目窓[3]主之(瞳子窌=瞳子髎と巨窌=巨髎の誤り)(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
上歯齲腫●目窓主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)
外台主治条文
頭痛目暝遠視𥇀𥇀上歯齲腫
[1] 頭注:瞋乃瞑字誤
[2] 原文:目光 『医心』、『外台』、『千金』巻六、『医学綱目』巻十三『甲乙』引用文ともに「目窓」。
[3] 瞳子窌巨窌の誤り 『医心』『外台』「瞳子窌」「巨窌」の主治条文、『甲乙』の穴の配列規則とも合う。
主治条文の比較
医心 | 頭痛目瞑遠視𥇀𥇀上歯齲痛齗腫 |
甲乙 | 頭痛目瞋還視𥉂𥉂上歯齲 腫 |
外台 | 頭痛目暝遠視𥇀𥇀上歯齲 腫 |
復元 | 頭痛目瞑遠視𥇀𥇀上歯齲痛齗腫 |
- 目瞑遠視𥇀𥇀:『医心』、『外台』に従います。「𥇀(⿰目芒)」と「𥉂」は同義。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。
①頭痛。
②目瞑、遠視𥇀𥇀。
③上歯齲痛、齗腫。
①『甲乙』では巻之九 大寒内薄骨髓陽逆発頭痛第一に記されています。これに従えば、寒邪による頭痛と考えられます。
②目の症状。目が見えにくく、遠くのものがぼやける。何が原因かは不明。
③歯の症状。上歯の虫歯による痛み。歯茎の腫れ。
正営
各書の主治条文
医心主治条文
上歯痛悪寒
甲乙主治条文
上歯齲痛悪風寒●正営主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)
外台主治条文
牙歯痛脣吻強上歯齲痛悪寒
主治条文の比較
医心 | 上歯 痛悪 寒 |
甲乙 | 上歯齲痛悪風寒 |
外台 | 上歯齲痛悪 寒牙歯痛脣吻強 |
復元 | 上歯齲痛悪 寒 |
- 悪寒:『甲乙』は「悪風寒」としていますが、『医心』、『外台』、『聖済総録』巻一九三「上歯齲痛悪寒 正営主之」に従い「悪寒」とします。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①上歯齲痛、悪寒。
上歯の虫歯による痛み。悪寒までしていることから、虫歯が進行し、周辺の組織にまで炎症、感染が広がっていると考えられます。
承霊
各書の主治条文
医心主治条文
脳風頭痛䜑見風寒鼽(衂)窒鼻喘息不通
甲乙主治条文
脳風頭痛悪見風寒鼽衂鼻窒喘息不通●承霊主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
外台主治条文
脳風頭痛悪見風寒鼽衂鼻窒喘息不通
主治条文の比較
医心 | 脳風頭痛䜑見風寒鼽衂窒鼻喘息不通 |
甲乙 | 脳風頭痛悪見風寒鼽衂鼻窒喘息不通 |
外台 | 脳風頭痛悪見風寒鼽衂鼻窒喘息不通 |
復元 | 脳風頭痛悪見風寒鼽衂窒鼻喘息不通 |
- 悪:「悪」と「䜑」は同義。常用漢字の「悪」を採ります。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①脳風頭痛、悪見風寒、鼽衂窒鼻、喘息不通。
『甲乙』では巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に記されていることから、傷寒(外感熱病)の症状と考えられます。風寒邪が脳あるいは頭部に侵襲した結果、頭痛、悪寒、鼻水あるいは鼻血により鼻が詰まり、呼吸がしにくい。
脳空
各書の主治条文
医心主治条文
脳風目瞑鼻営疽発(爲癘)風眩頭痛目痛頷急
甲乙主治条文
頭痛身熱引両頷急〈一作痛〉●脳空主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
脳風目瞑頭痛風眩月[1]痛●脳空主之(巻之十 陽受病発風第二下)
癲疾大瘦●脳空主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
鼻管疽発為厲●脳空主之(巻之十二 血溢発衂第七)
外台主治条文
頭痛身熱引両頷急脳風目瞑頭痛風眩目痛鼻管疽発爲厲鼻癲疾大痩
[1] 頭注:月乃目字誤
主治条文の比較
医心 | 脳風目瞑 鼻営疽発爲癘 風眩頭痛目痛 頷急 |
甲乙 | 脳風目瞑頭痛風眩月痛鼻管疽発為厲 頭痛身熱引両頷急癲疾大瘦 |
外台 | 脳風目瞑頭痛風眩目痛鼻管疽発爲厲鼻 頭痛身熱引両頷急癲疾大痩 |
復元 | 脳風目瞑 鼻管疽発爲癘 風眩頭痛目痛頭痛身熱引両頷急癲疾大瘦 |
- 管:『甲乙』、『外台』に従います。
- 癘:「厲」は「癘」の通仮字。「癘」を採ります。『外台』、『千金』巻三十「脳空 竅陰 主鼻管疽發為癘鼻」、『聖済総録』巻一九三「鼻管疽発為厲鼻 脳空主之」は「癘(厲)」の後に「鼻」がありますが、「頭竅陰」の主治条文には「鼻」はなく「癘(厲)」のみ。ここでも「癘(厲)」のみとします。
- 風眩頭痛目痛:『医心』の字順に従います。
単位条文化
①脳風目瞑。
②鼻管疽発、爲癘鼻。
③風眩頭痛、目痛。
④頭痛、身熱、引両頷急。
⑤癲疾大瘦。
①と③は『甲乙』では1つの条文です。もともとは二つの条文だったものを風邪によるものと『甲乙』の編者は判断し、1つの条文にまとめたと考えます。
①脳あるいは頭部に風邪が侵襲し、目が見えにくい。
②鼻の中にできものができ、癘になる。「癘」とは病名で、「頼」や「癩(らい)」と書かれることもあります。いずれも通仮字。『素問』風論(42)に「癘者、有栄気熱胕、其気不清、故使其鼻柱壊而色敗、皮膚瘍潰、風寒客於脈而不去、名曰癘風、或名曰寒熱」とあり、風寒邪が留まった結果、熱をもち、腐敗して鼻柱が崩れ顔色が悪くなり、皮膚に潰瘍ができる。悪性の皮膚病。字書にはハンセン病と書かれています。
③風邪の侵襲による症状。めまい、頭痛、目の痛み。
④傷寒(外感熱病)の症状。頭痛、身体が熱し、左右のあごがひきつる。耳下腺炎でしょうか。
⑤てんかん発作でひどく消耗する。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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