『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ―神庭

前回の「明堂について②―その全体像(仮)と臨床に活かすための研究の方向性」に書いたとおり、ツボの記載順序は、現行の教科書、『十四経発揮』のような経脈別ではなく、『甲乙』の頭部・体幹部は部位別、四肢は経脈別に従います。

目次

『甲乙』のツボの記載順序

『甲乙』巻3では次のような順序になっています。

  • 頭直鼻中髪際傍行至頭維凡七穴第一
    神庭 曲差 本神 頭維
  • 頭直鼻中髪際一寸循督脈却行至風府凡八穴第二
    上星 顖会 前頂 百会 後頂 強間 脳戸 風府
  • 頭直侠督脈侠各一寸五分却行至玉枕凡十穴第三
    五処 承光 通天 絡却 玉枕
  • 頭直目上入髪際五分却行至脳空凡十穴第四
    臨泣 目窓 正営 承霊 脳空
  • 頭縁耳上却行至完骨凡十二穴第五
    天衝 率谷 曲鬢 浮白 竅陰 完骨
  • 頭自髪際中央傍行凡五穴第六
    瘖門 天柱 風池
  • 背自第一椎循督脈行至脊骶凡十一穴第七
    大椎 陶道 身柱 神道 至陽 筋縮 脊中 懸枢 命門 腰兪 長強
  • 背自第一椎両傍侠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八
    大杼 風門 肺兪 心兪 膈兪 肝兪 胆兪 脾兪 胃兪 三焦兪 腎兪 大腸兪 小腸兪 膀胱兪 中膂兪 白環兪 上髎 次髎 中髎 下髎 会陽1
  • 背自第二椎両傍侠脊各三寸至二十一椎下両傍凡二十六穴第九
    附分 魄戸 神堂 譩譆 膈関 魂門 陽綱 意舍 胃倉 肓門 志室 胞肓 秩辺
  • 面凡三十九穴第十
    懸顱 頷厭 懸釐 陽白 攅竹 絲竹空 睛明 瞳子髎 承泣 四白 顴髎 素髎 迎香 巨髎 禾髎 水溝 兌端 齦交 地倉 承漿 頬車 大迎
  • 耳前後凡二十穴第十一
    上関 下関 耳門 和髎 聴会 聴宮 角孫 瘈脈 顱息 翳風
  • 頸凡十七穴第十二
    廉泉 人迎 天窓 天牖 天容 水突 気舎 扶突 天鼎
  • 肩凡二十八穴第十三
    肩井 肩貞 巨骨 天髎 肩髃 肩髎 臑兪 秉風 天宗 肩外兪 肩中兪 曲垣 缺盆 臑会
  • 胸自天突循任脈下行至中庭凡七穴第十四
    天突 璇璣 華蓋 紫宮 玉堂 膻中 中庭
  • 胸自輸府侠任脈両傍各二寸下行至歩郎凡十二穴第十五
    兪府 彧中 神蔵 霊墟 神封 歩廊
  • 胸自気戸侠輸府両傍各二寸下行至乳根凡十二穴第十六
    気戸 庫房 屋翳 膺窓 乳中 乳根
  • 胸自雲門侠気戸両傍各二寸下行至食竇凡十二穴第十七
    雲門 中府 周栄 胸郷 天谿 食竇
  • 腋脇下凡八穴第十八
    淵腋 大包 輙筋 天池
  • 腹自鳩尾循任脈下行至会陰凡十五穴第十九
    鳩尾 巨闕 上脘 中脘 建里 下脘 水分 臍中 陰交 気海 石門 関元 中極 曲骨 会陰
  • 腹自幽門侠巨闕両傍各半寸循衝脈下行至横骨凡二十二穴第二十
    幽門 通谷 陰都 石関 商曲 肓兪 中注 四満 氣穴 大赫 横骨
  • 腹自不容侠幽門両傍各一寸五分下行至気衝凡二十四穴第二十一
    不容 承満 粱門 関門 太乙 滑肉門 天枢 外陵 大巨 水道 帰来 気衝
  • 腹自期門上直両乳侠不容両傍各一寸五分下行至衝門凡十四穴第二十二
    期門 日月 腹哀 大横 腹結 府舍 衝門
  • 腹自章門下行至居髎凡十二穴第二十三
    章門 帯脈 五枢 京門 維道 居髎
  • 手太陰及臂凡一十八穴第二十四
    少商 魚際 太淵 経渠 列缺 孔最 尺沢 侠白 天府
  • 手厥陰心主及臂凡一十六穴第二十五
    中衝 労宮 大陵 内関 間使 郄門 曲沢 天泉
  • 手少陰及臂凡一十六穴第二十六
    少衝 少府 神門 陰郄 通里 霊道 少海 極泉
  • 手陽明及臂凡二十八穴第二十七
    商陽 二間 三間 合谷 陽谿 偏歴 温溜 下廉 上廉 三里 曲池 肘髎 五里 臂臑
  • 手少陽及臂凡二十四穴第二十八
    関衝 液門 中渚 陽池 外関 支溝 会宗 三陽絡 四瀆 天井 清冷淵 消濼
  • 手太陽及臂凡一十六穴第二十九
    少沢 前谷 後谿 腕骨 陽谷 養老 支正 小海
  • 足太陰及股凡一十六穴第三十
    隠白 大都 太白 公孫 商丘 三陰交 漏谷 地機 陰陵泉 血海 箕門
  • 足厥陰及股凡二十二穴第三十一
    大敦 行間 太衝 中封 蠡溝 中郄 膝関 曲泉 陰包 五里 陰廉
  • 足少陰及股并陰蹻四穴陰維二穴第三十二
    湧泉 然谷 太谿 大鍾 照海 水泉 復溜 交信 築賓 陰谷
  • 足陽明及股凡三十穴第三十三
    厲兌 内庭 陥谷 衝陽 解谿 豊隆 巨虚下廉 条口 巨虚上廉 三里 犢鼻 梁丘 陰市 伏兎 髀関
  • 足少陽及股并陽維四穴凡二十八穴第三十四
    竅陰 侠谿 地五会 臨泣 丘墟 懸鍾 光明 外丘 陽輔 陽交 陽陵泉 陽関 中瀆 環跳
  • 足太陽及股并陽蹻六穴凡三十六 穴第三十五
    至陰 通谷 束骨 京骨 申脈 金門 僕参 崑崙 跗陽 飛揚 承山 承筋 合陽 委中 委陽 浮郄 殷門 扶承

頭直鼻中髪際傍行至頭維凡七穴第一

神庭

『明堂』主治症の復元は、基本的に『医心』『甲乙』『外台』の三書の主治条文から採用します。他書に関しては適宜取り上げます。

『甲乙』の序文によれば、『甲乙』は『素問』『鍼経』(今の『霊枢』)及び『明堂』2の三書を合編したものです。『甲乙』がこの三書から成り立っているのであれば、『甲乙』のうち『明堂』に属するものは、『甲乙』から『素問』『霊枢』の経文を除き、さらに後人の注釈文を除いたものと考えられます。この考えに従い、『甲乙』のうちの『明堂』に属するものを採用します。

『千金』は基本的には用いません。理由は、『千金』も確かに『明堂』の内容を伝えるものですが、主治条文が切れ切れにされ、似たような病名、症状に効くとされる穴をいくつもまとめてしまっているため、主治症の記述が『明堂』のどの穴から引用したのかわからない場合が多く、また文を適当に書き換えてしまっているところも多いからです。適宜、参照することはあります。

『医心』『外台』については、おいおい説明していこうと思います。

「神庭」に関して、『医心』『甲乙』『外台』の三書の主治条文は以下のようになります。

医心主治条文
 寒熱頭痛喘鳴目痛欧沫風眩痎瘧

甲乙主治条文
 頭脳中寒鼻鼽目泣出●神庭主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 㾬瘧●神庭及百會主之(巻之七 陰陽相移発三瘧第五)
 寒熱頭痛喘喝目不能視●神庭主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一上)
 風眩善嘔煩満●神庭主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)

外台主治条文
 頭脳中寒鼻鼽目泣出癲疾嘔沫風眩善嘔煩㾬瘧寒熱頭痛喘喝目不能視

『医心』の順番に従って、『甲乙』『外台』の条文を並べ直します。それが以下のようになります。

医心寒熱頭痛喘鳴目痛     欧沫風眩    痎瘧
甲乙寒熱頭痛喘喝目 不能視癲疾嘔沫風眩善嘔煩 㾬瘧頭脳中寒鼻鼽目泣出
外台寒熱頭痛喘喝目 不能視癲疾嘔沫風眩善嘔煩満㾬瘧頭脳中寒鼻鼽目泣出
復元寒熱頭痛喘不能視癲疾沫風眩善煩満瘧頭脳中寒鼻鼽目泣出

三書の条文を比較して、最下段に復元条文を書いています。

東医研に従い、基本的に『医心』は採用します。

  • 「喘鳴」か「喘喝」か:「鳴」「喝」は似たような字なので書き間違いがあったと思われます。『医心』において、他のツボの主治症を見ますと、「喘鳴」は「神庭」のみで、「喘喝」は「人迎」「天府」に見られます。ですので、ここでは「喘喝」を採ります。
  • 「目痛不能視」:『医心』に従い、「痛」を入れます。
  • 「欧」か「嘔」か:意味は同じなので、どちらでもいいのですが、『説文解字』に「欧」はあって「嘔」はないこと。また「欬」と「咳」とありますが、『説文解字』によれば「欬」は「逆気なり」とせきの意味がありますが、「咳」は「小児の笑うなり」とせきの意味がありません。もともとはせきには「欬」を使っていたのが、音が同じということで通仮字として「咳」を使うようになったと考えられます。これを参考にしますと、「欧」を採るべきかと考えます。
  • 「痎」か「㾬」か:これもどちらでもいいのですが、『説文解字』に「痎」はあるけれども「㾬」はないので、「痎」を採ることにします。

とりあえず『甲乙』に従って単位条文化(内容的にひとつのまとまり。臨床的意味をもつ病態についての条文。要はどこに読点を入れるか)しますと、次の5つになります。

①寒熱、頭痛、喘喝、目痛不能視。

②癲疾欧沫。

③風眩、善欧、煩満。

④痎瘧。

⑤頭脳中寒、鼻鼽、目泣出。

①は『甲乙』では、巻之八 五臟伝病発寒熱第一上に置かれています。この篇の冒頭では『素問』玉機真蔵論(19)を引用して、五臓に病邪が伝わり生じている寒熱を問題としています。五臓に病邪が入っていることから、病は重いものと考えられます。ひどい寒気で、高熱かもしれません。また「風者百病之長也。今風寒客於人・・・」とあり、『素問』脈要精微論(17)の「風成則為寒熱」を引用していることから、風寒の邪気に侵されていることがわかります。外邪に侵襲された結果、頭痛、喘喝(呼吸困難、喘鳴)、目痛不能視(視力障害)が生じており、重症です。

②はいわゆる癲癇です。この「癲疾」は、「寒熱」もそうなのですが、『明堂』にやたらと出てきます。感染によって脳に異常が生じているものかもしれません。

③は風邪の侵襲によって起こっている症状です。めまいによって吐き気、嘔吐、胸苦しさが生じていると考えられます。

④の「痎瘧」は、悪寒と発熱を繰り返すものです。『甲乙』巻之七 陰陽相移発三瘧第五では、『素問』瘧論(35)を引いて、「瘧疾皆生於風」とあることから、外邪によって生じていることがわかります。

⑤は寒邪が頭脳に侵襲したことで、鼻鼽(鼻水)、目泣出が生じています。

以上より、「神庭」は外邪の侵襲(感染)に伴って生じている諸症状、軽症から重症を含めて使われていたと考えられます。外邪はとくに頭部に侵襲していて、その影響で頭痛、めまいや鼻、目の症状、そして熱症状が生じていると考えられます。

おわりに

今回は、「神庭」しか説明していませんが、以後、「曲差」「本神」「頭維」と『甲乙』の記載順序で進めていきます。他のツボと比較することで、ツボの特徴がわかることがあると思うので、切りの良いところで、部位ごとにまとめてみたいと思います。

1)敦煌本では「下髎」の次は「附分」が書かれており、「会陽」なし。『医心方』では足部に「会陽」あり。このことについて、遠藤次郎・梁永宣が「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」(『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年)で考察している。
2)『甲乙』の序文には「又有明堂孔穴鍼灸治要、皆黄帝岐伯撰事也、三部同帰、文多重複」とあり、この「明堂孔穴鍼灸治要」が『明堂』を指すことは間違いないのですが、「『明堂孔穴鍼灸治要』」なのか、「『明堂孔穴』鍼灸治要」なのか、「『明堂』孔穴・鍼灸治要」なのか、という論争がありますが、ここでは谷田伸司「『甲乙経』を構成する「三部」とは何か」(『漢方の臨床』36巻1号, pp251-256, 1989年)に従い「『明堂』孔穴・鍼灸治要」とします。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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