頭のツボ②―曲差・本神・頭維

前回の「神庭」からの続きです。

目次

頭直鼻中髪際傍行至頭維凡七穴第一

曲差

各書の主治条文

医心主治条文
 頭痛身熱鼻窒喘息不利煩満汗不出

甲乙主治条文
 頭痛身熱病〈一作鼻〉1窒喘息不利煩満汗不出●曲差主2之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 頭痛身熱鼻窒喘息不利煩満汗不出

[1] 明抄本ではこのような割注があります。医統本は「病」ではなく「鼻」。
[2] 原文:生 頭注:生乃主字誤

主治条文の比較

医心頭痛身熱鼻窒喘息不利煩満汗不出
甲乙頭痛身熱病窒喘息不利煩満汗不出
外台頭痛身熱鼻窒喘息不利煩満汗不出
復元頭痛身熱窒喘息不利煩満汗不出
  • 「病」か「鼻」か:三書を比較して『甲乙』明抄本では「熱」ですが、割注および医統本では「鼻」、『医心』『外台』も「鼻」であり、「鼻」の方が意味も通じます。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭痛、身熱、鼻窒、喘息不利、煩満、汗不出。

『甲乙』では、巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に置かれています。傷寒により諸症状が現れていることがわかります。

本神

各書の主治条文

医心主治条文
 頭痛目眩痛頚項強急胸脇(相引)1不得傾側癲疾小児驚癇

甲乙主治条文
 頭痛目眩頸項強急胸脇相引不得傾側●本神主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之 其不嘔沫●本神及百会後頂玉枕天衝大杼曲骨尺沢陽谿外丘〈當上脘旁五分〉通谷金門承筋合陽主之〈委中下二寸合陽〉(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 小児驚癇●本神及前頂百会2天柱主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 頭目眩痛頸項強急胸脅相引不得傾側癲疾不嘔沫小児驚癇

[1]欠字箇所は安政元版 国文学研究資料館蔵(https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/200021793/viewer/88)を参照して補い、()で表記。以後、同様。
[2] 原文:𦃞會 頭注:𦃞乃顖字誤 『医心』「百会」主治条文に従い改める。

主治条文の比較

医心頭痛目眩痛頚項強急胸脇相引不得傾側癲疾   小児驚癇
甲乙頭痛目眩 頸項強急胸脇相引不得傾側癲疾   小児驚癇
外台頭 目眩痛頸項強急胸脅相引不得傾側癲疾不嘔沫小児驚癇
復元頭痛目眩痛頸項強急胸脇相引不得傾側癲疾   小児驚癇

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。

①頭痛、目眩痛、頸項強急、胸脇相引不得傾側。

②癲疾。

③小児驚癇。

①は『甲乙』では、巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に置かれています。傷寒によるもので、頸項だけでなく胸脇部にも症状が現れています。

②は癲癇。「神庭」は「欧沫」でしたが、「本神」は「不欧沫」です。発作時に泡を吹いているか否かで区別しています。突然意識を失い、全身けいれんし、泡を吹いているような全身の発作を「癲疾欧沫」と表現し、全身ではなく部分的な発作を「癲疾不欧沫」としているのかもしれません。
「癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之 其不嘔沫●本神及百会・・・主之」となっていますが、これは「神庭」、「兌端」、「承漿」の3穴については「癲疾嘔沫」ですが、「本神」、「百会」などは「癲疾」だけという意味の表現。「顖会」の「寒熱頭痛喘喝目不能視●神庭主之 目泣出頭不痛者●顖会取之 (巻之八 五臟伝病発寒熱第一上)」にある下線部「其・・・頭不痛」と同じ表現です。(訂正2022.09.29)

③は小児のひきつけ。これも癲癇の一種と思われます。

頭維

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱頭痛如破(目痛如脱)喘逆煩満欧沫流汗難語言

甲乙主治条文
 寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満嘔吐䟽1汗難言●頭維主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一上)

外台主治条文
 寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満嘔吐流汗難言

参考:千金主治条文
 頭維大陵主頭痛如破目痛如脱〈甲乙云喘逆煩満嘔吐流汗難言〉(巻三十 頭面第一 頭病)
 頭維主喘逆煩満欧沫流汗(巻三十 心腹第二 欬逆上気)

[1]医統本は「䟽」ではなく「流」。

主治条文の比較

医心寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満欧沫流汗難語言
甲乙寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満嘔吐䟽汗難 言
外台寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満嘔吐流汗難 言
千金  頭痛如破目痛如脱喘逆煩満欧沫流汗
復元寒熱頭痛如破目痛如脱喘逆煩満欧流汗難語言
  • 「吐」か「沫」か:『甲乙』『外台』は「吐」、『千金』『医心』は「沫」。『医心』に従い「沫」とします。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①寒熱、頭痛如破、目痛如脱、喘逆、煩満、欧沫、流汗、難語言。

『甲乙』では、巻之八 五臟伝病発寒熱第一上に置かれています。「神庭」で考察したように、臓にまで風寒邪が侵襲しているため、重症と考えられます。条文を見ても、ただの頭痛、目痛ではありません。また「欧沫、流汗、難語言」と悶え苦しんでいる様子がうかがえます。

なぜ神庭・曲差・本神・頭維で一項目を設けたのか

『甲乙』では「頭直鼻中髪際傍行至頭維凡七穴第一」と、神庭・曲差・本神・頭維のツボを髮際に横一列に並べ、一項目としています。

『千金』は面部に第五行までの下行するツボ列を設けており、神庭を「正面部中行」、曲差を「面部第二行」、本神を「面部第四行」、頭維を「面部第五行」に配置しています。

『医心』は頭部に第一~三行の頭上五行を構成するツボ列、及びそれ以外の「頭上五行外」を設け、また面部は正中線上に下行するツボ列、及びその他の「面一行外」を設けています。神庭を「面一行」、曲差・本神を「面一行外」、頭維を「頭上五行外」に配置しています。

『類成』『外台』に至っては経脈別に配置しています。

いずれも『甲乙』のように髮際に横一列に並べてはいません。『甲乙』はなぜそのようにしたのでしょうか。

『甲乙』はこの後、「頭直鼻中髪際一寸循督脈却行至風府凡八穴第二」「頭直侠督脈俠各一寸五分却行至玉枕凡十穴第三」「頭直目上入髪際五分却行至脳空凡十穴第四」「頭縁耳上却行完骨凡十二穴第五」と続きます。

これは憶測にすぎませんが、これら髮際のツボが頭部と面部との境で、ここから上が頭部であることを示すことと、これから頭部を督脈から頭縁耳上の4つの行に分けてツボを説明していくことの宣言と思われます。

次回は『甲乙』「頭直鼻中髪際一寸循督脈却行至風府凡八穴第二」のツボをみていきます。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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