頭のツボ⑥―五処・承光・通天・絡却・玉枕

引き続き頭のツボです。今回の『明堂』復元主治条文は、今でいうところの足太陽膀胱経に属するツボです。

『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ①―神庭
頭のツボ②―曲差・本神・頭維
頭のツボ③ー上星・顖会および『甲乙経』のツボの配列規則
頭のツボ④―前頂・百会・後頂
頭のツボ⑤―強間・脳戸・風府

目次

頭直俠督脉俠各一寸五分却行至玉枕凡十穴第三

五処

各書の主治条文

医心主治条文
 此以寫諸陽気熱衂善嚏[1]風頭痛汗出寒熱癃脊強反頭重

甲乙主治条文
 痓脊強反折瘈瘲癲疾頭重●五處主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌[2]齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海[3]然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)

外台主治条文
 痓脊強反折瘈癲疾頭重寒熱
 項強舌緩瘖不能言脈傍去上星一寸五分灸三壮此以寫諸陽気熱衂善噫風頭痛汗不出寒熱痓脊強反折瘈跪癲疾頭重(瘖門=瘂門の条文。下線部は五処の位置、灸法および主治条文)

[1] 嚏:実際には口に辶と庚を合わせたような漢字で書かれている。
[2] 上窌=上髎
[3] 原文:少海

主治条文の比較

医心此以寫諸陽気熱衂善嚏風頭痛汗 出寒熱癃脊強反     頭重
甲乙                寒熱痓脊強反折瘈瘲癲疾頭重
外台1                寒熱痓脊強反折瘈 癲疾頭重
外台2此以寫諸陽気熱衂善噫風頭痛汗不出寒熱痓脊強反折瘈跪癲疾頭重
復元此以寫諸陽気熱衂善風頭痛汗 出寒熱脊強反折瘈瘲癲疾頭重
  • 「嚏」か「噫」か:『医心』、『千金』「風門 五処 主時時啑不已(啑と嚏は字の形が似ていて混淆していたと思われる)」に従い、「嚏」とします。
  • 「汗出」か「汗不出」か:『医心』、『千金』「五処 攅竹 正営 上管 缺盆 中府 主汗出寒熱」に従い、「汗出」とします。
  • 「癃」か「痓」か:『甲乙』、『外台』に従い、「痓」とします。

単位条文化

①此以寫諸陽気、熱。

②衂、善嚏、風頭痛、汗出。

③寒熱。

④痓、脊強反折、瘈瘲。

⑤癲疾。

⑥頭重。

「此以・・・汗出」を2つに分けてみました。「熱」をどちらに入れるか迷いましたが、前の条文に入れることとしました。最初にこのツボの一般的使い方を述べて、②以降、具体的な疾病、症状を述べています。

①このツボは陽気すなわち熱を取り去るのに使う。
『甲乙』巻之三によれば、五処は不可灸となっていますが、巻之五の禁灸穴には含まれておらず、『素問』水熱穴論(61)王冰注には「灸者可灸三壮」とあります。『医心』も「灸三壮」となっています。ちなみに『外台』は、巻三十九 明堂序に「其針法古来以為深奥、今人卒不可解。経云︰針能殺生人、不能起死人。若欲録之、恐傷性命、今並不録針経、唯取灸法」とあり、鍼は危ないので、鍼法は記さず、灸法だけを取り上げるとしています。

②「衂」は鼻出血。「嚏」はくしゃみ。風寒邪の侵襲を受けていると思われます。

③悪寒発熱。

「痓脊・・・頭重」は『甲乙』では1つの条文ですが、ここでは④痙病、⑤てんかん、⑥とにかく頭が重いもの、の3つに分けてみました。

④背中が強ばり、反り返って、痙攣している。髓膜炎や破傷風にみられるような後弓反張と思われます。

承光

各書の主治条文

医心主治条文
 風眩頭痛欲欧煩(心青)盲遠視不明

甲乙主治条文
 熱病〈千金有煩満二字〉汗不出而苦嘔●百会主之[1] 煩心●承光主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 青盲遠視不明●承光主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)

外台主治条文
 熱病汗不出而苦嘔煩心青盲遠視不明(下線部:百会主治条文)

[1] 原文:“百会主之”なし 『医心』『千金』に従い補う。

主治条文の比較

医心風眩頭痛欲欧煩心青盲遠視不明
甲乙      煩心青盲遠視不明
外台      煩心青盲遠視不明
復元風眩頭痛欲欧煩心青盲遠視不明

単位条文化

①風眩頭痛、欲欧煩心。

②青盲、遠視不明。

①風邪の侵襲によるめまい、頭痛、吐き気、胸苦しさ。

②「青盲」は緑内障に相当するものと思われます。
『諸病源候論』巻二十八に「清盲者謂、眼本無異、瞳子黒白分明、直不見物耳」とあります。「清」は「青」と通じます。外見上異常はないが、とにかく物が見えない。

通天

各書の主治条文

医心主治条文
 頭痛項痛僵仆鼻窒鼽衂喘息不通

甲乙主治条文
 頭項痛重暫起僵仆鼻窒鼽衂喘息不得通●通天主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 頭痛重暫僵仆鼻窒鼽衂不得通喎僻多涕鼽衂有瘡

主治条文の比較

医心頭痛項痛  僵仆鼻窒鼽衂喘息不 通
甲乙頭項痛重暫起僵仆鼻窒鼽衂喘息不得通
外台頭 痛重暫 僵仆鼻窒鼽衂  不得通喎僻多涕鼽衂有瘡
復元頭項痛重暫起僵仆鼻窒鼽衂喘息不得通
  • 頭項痛重:三書で記載が少しずつ異なります。『傷寒論』にある「頭項強痛」と同じ表現と考え、『甲乙』を採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭項痛重、暫起僵仆、鼻窒鼽衂、喘息不得通。

『甲乙』では巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に書かれていることを考慮すると、これらの症状は傷寒(外感熱病)と考えられます。
「頭項痛重」は、頭重、項痛。
「暫起僵仆」は、しばし起き上がっては倒れる。この語句は「顖会」にもみられましたが、「顖会」の場合は、てんかん発作と解釈できました。しかしここではどのように解釈すべきでしょうか。ひとつは「顖会」と同様、てんかん発作と考える解釈。この場合、『甲乙』のように1条文とせずに、「頭項痛重」、「暫起僵仆」、「鼻窒鼽衂、喘息不得通」の3条文に分けるべきでしょうか。もうひとつは『甲乙』に従い、あくまで傷寒の症状と考える解釈。高熱により立っていられないことを表しているかもしれません。
「鼻窒鼽衂、喘息不得通」は、鼻水や鼻血により鼻が塞がり、息苦しく呼吸がしづらい。

絡却

各書の主治条文

医心主治条文[1]
 脳風眩頭痛癲疾仆僵目盲𥇀惚不楽狂走瘈瘲

甲乙主治条文
 癲疾僵仆目妄見恍惚不楽狂走瘈瘲●絡却[2]主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)

外台主治条文
 青盲無所見癲疾僵仆目妄見恍惚不樂狂走瘈瘲

[1] 『医心』では「賂却」と記載。
[2] 原文:欲 頭注:欲乃却字誤

主治条文の比較

医心脳風眩頭痛癲疾仆僵目盲𥇀 惚不楽狂走瘈瘲
甲乙     癲疾僵仆目妄見恍惚不楽狂走瘈瘲
外台     癲疾僵仆目妄見恍惚不樂狂走瘈瘲青盲無所見
復元脳風眩頭痛癲疾僵仆目妄見恍惚不楽狂走瘈瘲青盲無所見
  • 僵仆:『医心』では「仆僵」と字順が逆ですが、他のツボの主治条文を見る限り「仆僵」ではなく「僵仆」という書き方なので、「僵仆」とします。
  • 目妄見:『甲乙』、『外台』に従います。
  • 青盲無所見:『千金』巻三十頭面第一に「商陽 巨窌 上関 承光 瞳子窌 絡却 主青盲无所見」とあります。『医心』の「目盲𥇀」も考慮して、復元条文に含めます。

単位条文化

①脳風眩頭痛。

②癲疾僵仆、目妄見、恍惚不楽、狂走、瘈瘲。

③青盲無所見。

①風邪によるめまい、頭痛。

②てんかん症状。発作で倒れる、幻覚を見ているように錯乱している、意識が朦朧としている、異常行動、痙攣。

③「青盲」は「承光」で述べたように緑内障と思われます。

玉枕

各書の主治条文

医心主治条文
 汗不出悽厥悪寒癲疾後仆骨痛頭項䜑風嘔吐目内糸急痛

甲乙主治条文
 頭項悪風汗不出悽厥悪寒嘔吐目系急痛引頞頭重項痛●玉枕主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 寒熱骨痛●玉枕主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 頭眩目痛頭半寒〈千金有痛字〉●玉枕主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之 其不嘔沫●本神及百会後頂玉枕天衝大杼曲骨尺沢陽谿外丘〈當上脘旁五分〉通谷金門承筋合陽主之〈委中下二寸合陽〉(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)

外台主治条文
 頭項痛悪風汗不出悽厥悪寒嘔吐目内系急痛引頞頭重項痛寒熱骨痛頭眩目痛頭半寒目痛不能視項似拔不可左右顧癲疾不嘔沫互引

主治条文の比較

医心     汗不出悽厥悪寒癲疾   後仆  骨痛頭項䜑風嘔吐目内糸急痛
甲乙1頭項 悪風汗不出悽厥悪寒               嘔吐目 系急痛引頞頭重項痛頭眩目痛頭半寒
甲乙2            癲疾     寒熱骨痛
外台1頭項痛悪風汗不出悽厥悪寒               嘔吐目内系急痛引頞頭重項痛頭眩目痛頭半寒目痛不能視項似拔不可左右顧互引
外台2            癲疾不嘔沫  寒熱骨痛
復元     汗不出悽厥悪寒癲疾   僵仆寒熱骨痛頭項悪風嘔吐目内系急痛引頞頭重項痛頭眩目痛頭半寒
  • 僵仆:「後」ではなく「僵」の誤りと思われます。「申脈」を参照(おいおいそのうち。『甲乙』の順番通りやっていったらだいぶ先になるけれども)。
  • 頭項悪風:『医心』の字順に従い、この位置とします。「悪」と「䜑」は意味は同じ。常用漢字の「悪」を採ります。

単位条文化

①汗不出、悽厥悪寒。

②癲疾僵仆。

③寒熱骨痛。

④頭項悪風、嘔吐、目内系急痛引頞、頭重項痛。

⑤頭眩目痛、頭半寒。

①寒気がひどい。

②てんかん発作を起こして突然倒れる。

③「骨痛」は関節の痛みか。あるいは痛みが骨に徹するほど強いことを言っているか。高熱時には関節だけでなく、筋肉も痛むことがあるので、後者の痛みの程度を言っていると思われます。

④「頭項悪風、嘔吐」、「目内系急痛引頞、頭重項痛」の2つに分けることも考えましたが、『甲乙』を無視するのも気が引けたので1つの条文としました。『甲乙』に従えば傷寒(外感熱病)の症状。頭項に寒気を感じ、嘔吐し、目の奥がひきつり痛み、鼻すじまで痛みが及び、頭が重く、項が痛む。
「通天」では「頭項痛重」だったのに、ここでは「頭重項痛」と記載。残念ながら一貫性はありません。おそらく『明堂』自体が一人の著者が一から書いたものではなく、他の文献(当時の『素問』や『霊枢』など)から引用した文章を編纂したものだからと思われます。

⑤めまい、目の痛み、頭の後面に寒気を感じる。「頭半」は、頭部を前後の半分に分けたうちの後側と解釈しました。風邪の侵襲による諸症状と考えられます。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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