頭のツボ④―前頂・百会・後頂

引き続き頭のツボです。

『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ①―神庭
頭のツボ②―曲差・本神・頭維
頭のツボ③ー上星・顖会および『甲乙経』のツボの配列規則

目次

頭直鼻中髪際一寸循督脉却行至風府凡八穴第二

前頂

各書の主治条文

医心主治条文
 風眩目瞑痛䜑風寒面赤腫小児驚癇也

甲乙主治条文
 風眩〈千金云偏頭痛〉目瞑悪風寒面赤腫●前頂主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 小児驚癇●本神及前頂百会[1]天柱主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 風眩目瞑悪風寒面赤腫小児驚癇

[1] 原文:𦃞會 頭注:𦃞乃顖字誤 『医心』「百会」主治条文に従い改める。

主治条文の比較

医心風眩目瞑痛䜑風寒面赤腫小児驚癇也
甲乙風眩目瞑 悪風寒面赤腫小児驚癇
外台風眩目瞑 悪風寒面赤腫小児驚癇
復元風眩目瞑痛風寒面赤腫小児驚癇也
  • 「悪」:「䜑」は「悪」と意味は同じ。異体字。常用漢字の「悪」を採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①風眩、目瞑痛、悪風寒、面赤腫。

②小児驚癇。

①は風邪による諸症状。「目瞑」は目が見えないこと。目の前が暗くなる、立ちくらみと解釈も可能ですが、「目瞑痛」と『医心』に従えば、おそらく感染により眼瞼等が腫れて痛み、視野狭窄が生じていると解釈します。

②は小児のひきつけ、てんかん。

百会

各書の主治条文

医心主治条文
 痎瘧頂痛風頭重目如(脱不可)左右顧癲疾耳鳴熱病汗出而善欧痓小児癇

甲乙主治条文
 熱病〈千金有煩満二字〉汗不出而苦嘔●百会主之[1]煩心●承光主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 痓●取𦃞[2]会及百会天柱鬲輸上関光明主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 㾬瘧●神庭及百会主之(巻之七 陰陽相移発三瘧第五)
 頂上痛風頭重目如脱不可左右顧●百会主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之 其不嘔沫●本神及百会後頂玉枕天衝大杼曲骨尺沢陽谿外丘〈當上脘旁五分〉通谷 金門承筋合陽主之〈委中下二寸合陽〉(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 耳鳴●百会及頷厭顱息天窓大陵偏歴前谷後谿皆主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 小児驚癇●本神及前頂百会[3] 天柱主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 痎瘧癲疾不嘔沫耳鳴痓頂上痛風頭重目如脱不可左右顧
 熱病汗不出而苦嘔煩心青盲遠視不明(承光から補う。下線部は承光の主治)

[1] 原文:「百会主之」なし。『医心』『千金』に従い補う。
[2] 頭注:他本𦃞作顖
[3] 原文:𦃞會 頭注:𦃞乃顖字誤 『医心』「百会」主治条文に従い改める。

主治条文の比較

医心痎瘧頂 痛風頭重目如脱不可左右顧癲疾   耳鳴熱病汗 出而善欧痓小児 癇
甲乙㾬瘧頂上痛風頭重目如脱不可左右顧癲疾   耳鳴熱病汗不出而苦嘔痓小児驚癇
外台痎瘧頂上痛風頭重目如脱不可左右顧癲疾不嘔沫耳鳴熱病汗不出而苦嘔痓
復元痎瘧頂上痛風頭重目如脱不可左右顧癲疾   耳鳴熱病汗 出欧痓小児驚癇
  • 「汗出」か「汗不出」か:『医心』、『千金』「百会主汗出而嘔痓」に従い、「汗出」とします。
  • 「善」か「苦」か:『医心』に従い「善」とします。「よく」と読んで、多く、しばしばの意味。「苦」を採るとしてもくるしむというより、ひどく、はなはだと解釈すべきかと考えます。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の7条文になります。

①痎瘧。

②頂上痛、風頭重、目如脱、不可左右顧。

③癲疾。

④耳鳴。

⑤熱病汗出而善欧。

⑥痓。

⑦小児驚癇。

①悪寒と発熱を繰り返すもの。よくマラリアの一種といわれます。

②風邪による諸症状。頭頂部の痛み、あるいは頭重感。目が脱出するようなものは、眼窩の感染症、あるいは副鼻腔や歯から波及した感染症かもしれません。もしくは顔がむくんで眼球が突出してみえるのかもしれません(追記2022.11.02)。左右を振り返ることができないのは、髄膜炎にみられる項部硬直によるものと思われます。

③はてんかん発作。⑦も小児のひきつけ、てんかん発作。

④の「耳鳴」は何が原因かわかりません。加齢によるものではなく、感染症によるものと今のところ考えますが、これに関してはまたの機会に検討したいと思います。

⑤「汗出」といっても、漢方でいわれるように、汗が流れるように出るのではなくて、皮膚が汗ばむこと。漢方のように「汗出」と「汗不出」とによってツボを変えているようですが、はたして実際にこのような違いがあるかどうかは私にはわかりません。

⑥ひきつけ、痙攣。「痓」と「痙」は同じ意味。

後頂

各書の主治条文

医心主治条文
 風眩目𥇀𥇀顱上痛瘈瘲狂走頂直頸痛癲疾

甲乙主治条文
 風眩目眩顱上痛●後頂主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之 其不嘔沫●本神及百会後頂玉枕天衝大杼曲骨尺沢陽谿外丘〈當上脘旁五分〉通谷金門承筋合陽主之〈委中下二寸合陽〉(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 癲疾瘈瘲狂走頸項痛●後頂主之後頂項後一寸五分(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)

外台主治条文
 風眩目眩顱上痛目𥇀𥇀不明悪風寒眩偏頭痛癲疾瘈瘲狂走項直頸痛

主治条文の比較

医心風眩目𥇀𥇀顱上痛              瘈瘲狂走頂直頸痛癲疾
甲乙1風眩目眩 顱上痛            癲疾瘈瘲狂走頸項 痛
甲乙2                    癲疾
外台風眩目眩 顱上痛目𥇀𥇀不明悪風寒眩偏頭痛癲疾瘈瘲狂走項直頸痛
復元風眩目𥇀𥇀顱上痛            癲疾瘈瘲狂走項直頸痛
  • 「目𥇀𥇀」:『医心』に従います。ちなみに『外台』の「目𥇀𥇀不明悪風寒眩偏頭痛」は、『千金』巻三十 頭面第一「前頂後頂頷厭主風眩偏頭痛」と「腎輸内関・・・後頂・・・胃輸主目䀮䀮不明悪風寒」に由来すると思われます。「𥇀(⿰目芒)」と「䀮」は意味は同じ。
  • 「癲疾」の位置:『甲乙』、『外台』に従います。
  • 「項直頸痛」:『医心』の「頂」は「項」の間違い。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①風眩、目𥇀𥇀、顱上痛。

②癲疾、瘈瘲、狂走、項直、頸痛。

①は風邪による諸症状。「目眩」をどうするか迷いましたが、「風眩」と重なると思い、採用しませんでした。「風眩」と「目眩」で違いがあるとすれば、前者がふらふら・ふわふわといった動揺性めまい、後者がぐるぐるといった回転性めまいかもしれません。「目𥇀𥇀」ははっきりとものが見えないこと。ここでは立ちくらみのことか。「𥇀𥇀」は連綿語で、オノマトペ。ものがはっきり見えない様をあらわしています。「顱上痛」は頭の上部の痛み。「顱」はあたま、かしらの意味。

②「項直、頸痛」から項部硬直、髓膜炎が疑われます。中枢神経に波及して、てんかん発作、痙攣、異常行動が生じていると思われます。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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