背中のツボ⑪―上髎・次髎
背中のツボ、11回目です。今回は上髎、次髎です。
背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪
背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪
目次
背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八
上髎
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛而清苦傴陰皐跳蹇女子絶孕陰挺出不禁
甲乙主治条文
熱病汗不出●上窌[1]及孔最主之〈千金作臂厥熱病汗不出皆灸刺之此穴可以出汗〉(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
㾬瘧●取完骨及風池大杼心輸上窌譩譆陰都太淵三間合谷陽池少澤前谷後谿腕骨陽谷俠谿至陰通谷京骨皆主之(巻之七 陰陽相移発三瘧第五)
寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海[2]然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
腰足痛而清善偃睾跳拳●上窌主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)
女子絶[3]子陰挺出不禁白瀝●上窌主之(巻之十二 婦人雑病第十)
外台主治条文
腰脊痛而清善傴睾跳騫寒熱熱病汗不出㾬瘧女子絶子陰挺出不禁白瀝
参考
敦煌本『明堂』[4]
上聊在第一空在要果一[ ]
絡刺入二寸留七呼灸三壮[ ]
騫熱汗不出絶子瘧寒熱[ ]
所結痙背反折
『千金』巻三十
絶子瘧寒熱陰挺出不禁白瀝痓脊反折刺上窌入二寸留七呼灸三壮在第一空腰髁下一寸俠脊(婦人病第八)
[1] 「窌」=「髎」
[2] 原文:少海
[3] 原文:⿰糸包 頭注:{糸包}乃絶字誤
[4] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
主治条文の比較
医心 | 腰 痛而清苦傴陰皐跳蹇 女子絶孕 陰挺出不禁 |
甲乙 | 腰足痛而清善偃 睾跳拳熱病汗不出女子絶子㾬瘧寒熱陰挺出不禁白瀝 |
外台 | 腰脊痛而清善傴 睾跳騫熱病汗不出女子絶子㾬瘧寒熱陰挺出不禁白瀝 |
敦煌 | 騫熱 汗不出 絶子 瘧寒熱 [ ]所結痙背反折 |
千金 | 絶子 瘧寒熱陰挺出不禁白瀝 痓脊反折 |
復元 | 腰脊痛而清善傴陰睾跳騫熱病汗不出女子絶子㾬瘧寒熱陰挺出不禁白瀝[ ]所結痓脊反折 |
- 脊:『外台』に従います。
- 善:『甲乙』『外台』に従います。
- 傴:『医心』『外台』に従います。
- 陰睾:『医心』に従い「陰」を採り、『甲乙』『外台』に従い「睾」とします。
- 騫:『外台』に従います。
- 病:敦煌本にありませんが、『甲乙』『外台』に従い補います。
- 女子:敦煌本にありませんが、『医心』『甲乙』『外台』に従い補います。
- 子:「子」は「孕」の省略したものと思われます。
- 㾬:敦煌本にありませんが、『甲乙』『外台』に従い補います。
- [ ]所結:残念ながら補うことができませんが、一応記しておきます。
- 痓脊反折:敦煌本『千金』に従い採ります。「痓」と「痙」は同じ意味。本来は「痙」だと思いますが、『甲乙』『外台』『金匱要略』でも「痓」となっているので、「痓」としておきます。
単位条文化
①腰脊痛而清、善傴。
②陰睾跳騫。
③熱病汗不出。
④女子絶子。
⑤㾬瘧。
⑥寒熱。
⑦陰挺出、不禁白瀝。
⑧[ ]所結。
⑨痓、脊反折。
①②は『甲乙』ではひとつの条文ですが、①は筋骨格系の疾患、②は男性の疾患と分けた方がいいのではないかと考えました。
①腰脊痛而清、善傴。
腰が痛み、冷え、背が曲がって前かがみになる。
『全訳 漢字海』第三版によれば、「傴」は、(形)①背のまがったさま。(動)①身をかがめる。「傴僂(ウル)・(ウロウ)」で①前かがみになる。②背中の骨がもりあがる病気。せむし。③うやうやしく、つつしむさま。
②陰睾跳騫。
睾丸がひきつり痛む。
「騫」に関して。『医学綱目』巻二十八の『甲乙』引用文では「搴」となっています。おそらく「蹇」「拳」「騫」「搴」は通仮字で、意味は同じ。また張燦玾、徐国仟編『鍼灸甲乙経校注(上冊)』(人民衛生出版社, 2014年)のpp318-319にある『甲乙』巻之二 経筋第六の注釈によれば、「跳騫」は「跳堅」と同義。「跳」は上のこと。「堅」は「摼( ⿰扌堅)」と通じ、さらに「摼( ⿰扌堅)」は「牽」の古字。「騫」「蹇」は「牽」の転じたものとしています。これに従えば、「跳騫」は上方に引っ張られることとなります。
④女子絶子。
不妊。
⑦陰挺出、不禁白瀝。
子宮脱、白い帯下が漏れて止まらない。
女性の生殖器に関する疾患。
⑧[ ]所結。
残念ながら補うことができず。「所」としていますが、字がつぶれていてこれでいいかわかりません。仮に「所」としたならば、~に結ぼれる所あり、といった感じだと思います。
⑨痓、脊反折。
けいれん、身体が反り返る。
③⑤⑥はいずれも外感病、感染症の類。
次髎
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛怏怏不可俛仰腰以下至足不仁心下積脹白痳
甲乙主治条文
腰痛怏怏不可以俛仰腰以下至足不仁入脊腰背寒●次窌[1]主之先取缺盆後取尾骶與八窌(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)
女子赤白瀝心下積脹●次窌主之〈千[2]金云腰痛不可俛仰 先取缺盆後[3]取尾骶〉(巻之十二 婦人雑病第十)
外台主治条文
腰痛怏怏不可以俛仰腰以下至足不仁脊腰背寒先取缺盆後取尾骶與八窌女子赤白瀝心下積脹同上法
参考
敦煌本『明堂』[4]
次聊在第二空夾脊臽者中[ ]
陽陽明所結主要痛怦〃然不[ ]
脊要背寒赤白淫心下積脹要[ ]
後取尾胝与八聊要
『千金』巻三十
次窌主腰下至足不仁(四肢第三腰脊病)
赤白瀝心下積脹腰痛不可俛仰刺次窌入三寸留七呼灸三壮在第二空俠脊陥中(婦人病第八)
[1] 「窌」=「髎」
[2] 原文:子 頭注:子乃千字誤
[3] 原文:⿰彳⿱土夂 頭注:{彳土夂}乃後字誤
[4] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
主治条文の比較
医心 | 腰痛怏怏 不可 俛仰腰以下至足不仁 心下積脹白痳 |
甲乙 | 腰痛怏怏 不可以俛仰腰以下至足不仁入脊腰背寒女子赤白瀝心下積脹 先取缺盆後取尾骶與八窌 |
外台 | 腰痛怏怏 不可以俛仰腰以下至足不仁 脊腰背寒女子赤白瀝心下積脹 先取缺盆後取尾骶與八窌 |
敦煌 | 要痛怦〃然不 脊要背寒 赤白淫心下積脹要[ ] 後取尾胝与八聊要 |
復元 | 腰痛怏怏然不可以俛仰腰以下至足不仁 脊腰背寒女子赤白淫心下積脹要[ ]先取缺盆後取尾骶與八窌要 |
- 怏怏然:『医心』『甲乙』『外台』に従い「怏怏」とし、敦煌本に従い「然」を補います。
- 以:『甲乙』『外台』に従い補います。
- 脊:『甲乙』は、この前に「入」がありますが、『外台』に従い削ります。
- 女子:『甲乙』『外台』に従い補います。
- 淫:敦煌本に従う。
瀝:『甲乙』『外台』に従います。(2023.02.09訂正) - 要[ ]:残念ながら補うことができませんが、一応記しておきます。
- 先取缺盆後取尾骶與八窌要:「要」は「腰」のこと。上から施術しましょう、ということでしょうか。
単位条文化
①腰痛怏怏然、不可以俛仰、腰以下至足不仁、脊腰背寒。
②女子赤白淫、心下積脹。
③要[ ]。
①腰痛怏怏然、不可以俛仰、腰以下至足不仁、脊腰背寒。
腰が痛み、不快感があり、前後屈ができず、腰から足に至るまで知覚が鈍麻し、腰、背が冷える。
腰椎ヘルニア、脊柱管狭窄症などの坐骨神経の症状に使えるでしょう。
「脊」が何を指すのかわかりません。背骨?案外と仙骨を指していたりする?
②女子赤白淫、心下積脹。
赤白色の帯下が漏れる。心窩部が堅く張りがある。
婦人科疾患。「心下積脹」は生理前、生理時の胃痛でしょうか。
③要[ ]。
残念ながら補うことができず。腰がどうこうなっている。『千金』巻三十婦人病第八に「心下積脹」の後に「腰痛不可俛仰」と続いており、これの可能性もありますが、①と重なるため、違うのではないかと思います。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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