背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
前回に引き続き督脈のツボです。今回は懸枢・脊中・命門・腰兪・長強の『明堂』主治条文の復元をみていきます。
目次
背自第一椎循督脈行至脊骶凡十一穴第七
中枢 『明堂』になし
脊中
各書の主治条文
医心主治条文
腰脊強下得俛仰黄疸腹満不能食也
甲乙主治条文
腹満不能食●刺脊中(巻之九 脾胃大腸受病発腹脹満腸中鳴短気第七)
腰脊強不得俛仰●刺脊中(巻之十 陽受病発風第二下)
黄癉●刺脊中〈千金云腹満不能食〉(巻之十一 五気溢発消渇黄癉第六)
外台主治条文
腹満不能食腰脊強不得俛仰黄癉
※『甲乙』において「刺脊中」と表記されていますが、これは「脊中」が禁灸穴となっているから。
主治条文の比較
医心 | 腰脊強下得俛仰黄疸腹満不能食也 |
甲乙 | 腰脊強不得俛仰黄癉腹満不能食 |
外台 | 腰脊強不得俛仰黄癉腹満不能食 |
復元 | 腰脊強不得俛仰黄疸腹満不能食 |
- 不:『医心』の「下」は「不」の誤りと思われます。
- 疸:「疸」と「癉」は同音。『素問』、『霊枢』、『太素』では「黄疸」の字が使われているので、「疸」とします。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。
①腰脊強、不得俛仰。
②黄疸。
③腹満不能食。
①の「不得俛仰」は腰を前後屈できないこと。
懸枢
各書の主治条文
医心主治条文
腹中積気上下行不仁
甲乙主治条文
腹中積上下行●懸枢主之(巻之八 経絡受病人腸胃五臟積発伏梁息賁肥気痞気奔肫第二)
外台主治条文
腹中積上下行
主治条文の比較
医心 | 腹中積気上下行不仁 |
甲乙 | 腹中積 上下行 |
外台 | 腹中積 上下行 |
復元 | 腹中積気上下行不仁 |
単位条文化
①腹中積気上下行、不仁。
「積」は腹内に結塊のことですが、今では一般に「聚」と区別されます。漢方用語大辞典(創医会学術部編 第十版)によれば、「一般に、積塊が明らかにあって、痛みや脹れが強く、固定して移動しないものを積といい、積塊が不明確で、一時的に脹れがきて痛みにきまった場所がないものを聚という」。
参考
『難経』五十五難「病有積有聚。何以別之。然。積者、陰気也。聚者、陽気也。故陰沈而伏、陽浮而動」
『金匱要略』五蔵風寒積聚病脈證并治第十一「問曰、病有積、有聚、有穀気、何謂也。師曰、積者蔵病也、終不移。聚者府病也、発作有時、展転痛移、為可治。穀気者、脇下痛、按之則愈復発、為穀気」
この条文では「積気上下行」とあり、腹内の結塊は移動します。この条文が書かれた当時は、「積」と「聚」の区別は無かったようです。
また「不仁」は知覚鈍麻のことですが、ここでは結塊を触っても痛み等ないことを言っていると思われます。
命門
各書の主治条文
医心主治条文
頭痛如破身熱如火汗不出瘈[1]瘲裏急腰腹相引
甲乙主治条文
頭痛如破身熱如火汗不出瘈瘲〈千金作頭痛寒熱汗不出悪寒〉裏急腰腹相引痛●命門主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
外台主治条文
頭痛如破身熱如火汗不出癲瘈裏腰腹相引痛
[1] 原文:瘛 傍注に従う
主治条文の比較
医心 | 頭痛如破身熱如火汗不出瘈瘲裏急腰腹相引 |
甲乙 | 頭痛如破身熱如火汗不出瘈瘲裏急腰腹相引痛 |
外台 | 頭痛如破身熱如火汗不出癲瘈裏 腰腹相引痛 |
復元 | 頭痛如破身熱如火汗不出瘈瘲裏急腰腹相引痛 |
- 瘈瘲:『医心』、『甲乙』に従います。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①頭痛如破、身熱如火、汗不出、瘈瘲、裏急、腰腹相引痛。
「裏急」はここでは腹直筋の緊張のことと思われます。脳炎なり髄膜炎などによる発熱、けいれんでしょうか。
腰陽関 『明堂』になし
腰兪
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛引小腹控䏚脊強汗不出
甲乙主治条文
寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海[1]然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙●腰輸主之(巻之十 陰受病発痺第一下)
乳子下赤白●要腧主之(巻之十二 婦人雑病第十)
外台主治条文
腰痛引少腹控䏚不可俛仰以日死生数発針在左取右右取左立已腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙寒熱女子閉溺脊強互引反折汗不出乳子下赤白
[1] 原文:少海
参考
『千金』巻三十
月閉溺赤脊強互引反折汗不出●刺腰輸 入二寸留七呼灸三壯 在第二十一椎節下間(婦人病第八)
『素問』刺腰痛篇(41)
腰痛引少腹控䏚、不可以仰、刺腰尻交者、両髁胂上、以月生死為痏数、発鍼立已、左取右、右取左。
『素問』繆刺論(63)
邪客於足太陰之絡、令人腰痛、引少腹控䏚、不可以仰息、刺腰尻之解、両胂之上、是腰兪、以月死生為痏数、発鍼立已、左刺右、右刺左。
主治条文の比較
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医心 | 腰痛引小腹控䏚 脊強 汗不出 |
甲乙 | 腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙寒熱乳子下赤白 |
外台 | 腰痛引少腹控䏚不可俛仰以日死生数発針在左取右右取左立已女子 閉溺 脊強互引反折汗不出腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙寒熱乳子下赤白 |
千金 | 月閉溺赤脊強互引反折汗不出 |
復元 | 腰痛引小腹控䏚不可俛仰 女子月閉溺赤脊強互引反折汗不出腰以下至足清不仁不可以坐起尻不挙寒熱乳子下赤白 |
- 不可俛仰:『外台』、『素問』に従い、採ります。
- 女子月閉溺赤:『外台』、『千金』に従い、採ります。
単位条文化
①腰痛、引小腹控䏚、不可俛仰。
②女子月閉溺赤、脊強互引反折、汗不出。
③腰以下至足清不仁、不可以坐起、尻不挙。
④寒熱。
⑤乳子下赤白。
①「小腹」は下腹部。『外台』は「少腹」となっていますが、当時は「小腹」と「少腹」の区別は無かったようです。「控」はひく。「引」と同義。「䏚」は側腹部、第12肋骨と腸骨の間の柔らかいところ。腰が痛み、痛みが下腹、側腹まで及び、腰を前後屈できない。
②月経が来ない、尿が赤く濁り、背中がこわばり、ひきつり、汗が出ない。腎盂腎炎でしょうか。
③腰から足にかけて冷えて、感覚が鈍麻し、坐ったら立ち上がれない。坐骨神経の障害あるいは下肢動脈の閉塞でしょうか。
⑤「乳子」は出産のこと。産後の赤白色の帯下。
長強
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛上寒實則脊強癲疾頭重洞洩癃痔大小便難心痛短気尻䐈清痓
甲乙主治条文
痓反折心痛形気短尻䐜墻[1]小便黄閉●長強主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海[2]然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
腰痛上寒實則脊急強●長強主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)
癲疾発如狂走者面皮厚敦敦不治虚則頭重洞泄淋癃大小便難腰尻重難起居●長強主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
小児(癇瘈)瘲脊強耳[3]相引●長強主之(巻之十二 小児雑病第十一)
外台主治条文
腰痛上實則脊急強癲疾発如狂者面皮敦敦厚者不療虚則頭重洞泄癃痔大小便難腰尻重難起居寒熱痓反折心痛形気短尻䐜濇小便黄閉小児癇瘈瘲脊強互相引
[1] 頭注:墻乃濇字誤
[2] 原文:少海
[3] 頭注:耳乃互字誤
参考
『千金』巻三十
長強主癲疾発如狂面皮敦敦者不治(風痺第四)
『霊枢』経脈(10)
督脈之別、名曰長強・・・實則脊強、虚則頭重、高搖之、挾脊之有過者、取之所別也。
主治条文の比較
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医心 | 腰痛上寒實則脊 強癲疾 頭重洞洩癃痔大小便難 心痛 短気尻䐈清 痓 |
甲乙 | 腰痛上寒實則脊急強癲疾発如狂走者面皮厚敦敦 不治虚則頭重洞泄淋癃大小便難腰尻重難起居寒熱痓反折心痛形気短尻䐜墻小便黄閉 小児癇瘈瘲脊強耳相引 |
外台 | 腰痛上 實則脊急強癲疾発如狂 者面皮敦敦厚者不療虚則頭重洞泄癃痔大小便難腰尻重難起居寒熱痓反折心痛形気短尻䐜濇小便黄閉 小児癇瘈瘲脊強互相引 |
千金 | 癲疾発如狂 面皮敦敦 者不治 |
復元 | 腰痛上寒實則脊急強癲疾発如狂 面皮敦敦厚者不治虚則頭重洞泄癃痔大小便難腰尻重難起居寒熱痓反折心痛 短気尻䐈清小便黄閉 小児癇瘈瘲脊強互相引 |
- 狂:『千金』に従い、「走者」は採りません。
- 面皮敦敦厚者不治:『外台』に従います。
- 癃痔:『医心』、『外台』を採ります。
- 痓反折:『甲乙』、『外台』の字順に従います。
- 短気:『医心』を採ります。
- 䐈:『医心』、『医学綱目』巻十一『甲乙』引用文に従います。
- 清:『医心』を採ります。
単位条文化
①腰痛上寒、實則脊急強;癲疾発如狂、面皮敦敦厚者、不治;
虚則頭重、洞泄、癃、痔、大小便難、腰尻重、難起居。
②寒熱。(抜けていたので追記2023.03.06)
③痓、反折、心痛、短気、尻䐈清、小便黄閉。
④小児癇、瘈瘲、脊強互相引。
①『甲乙』では二つの条文ですが、ここでは一つの条文とし、実と虚の二つの場合に分かれ、さらに実のうち不治の場合があると解釈しました。
腰痛、痛むところが冷え、実ならば背中がひきつりこわばる。狂のようなてんかん発作をおこし、顔面の皮膚が分厚いものは治らない。虚ならば、頭重、下痢、尿閉、痔、大小便の排泄が困難、腰臀部が重く立ったり座ったりしにくい。
「上寒」は痛むところが冷えていると解釈しました。ほかに上半身が冷えているという解釈もあります。
「敦敦」は分厚いさまを表しています。しかし顔の皮膚が分厚いとは何なのかわかりません。
「癲」と「狂」とありますが、漢方用語大辞典(創医会学術部編 第十版)によれば、「癲は抑鬱状態・無感情・沈黙性痴呆・言語錯乱・飢飽感のないもの、甚だしい場合はこわばって倒れ直視するなど」、「狂は興奮状態、さわがしく、衣被をきらい、人を打ったりののしったり、絶えず歌笑し、怒り、甚だしい場合は垣を越えたり、屋根に登ったりする」。癲が陰あるいは虚、狂が陽あるいは実といわれます。
「實則」「虚則」とありますが、何が実で虚なのかはわかりません。
参考『霊枢』癲狂(22)「癲疾始生、先不楽、頭重痛、視挙目赤、甚作極、已而煩心・・・癲疾始作、而引口、啼呼喘悸者・・・癲疾始作、先反僵、因而脊痛・・・骨癲疾者、顑歯諸腧分肉皆満、而骨居、汗出煩悗・・・筋癲疾者、身倦攣急大・・・脈癲疾者、暴仆、四肢之脈、皆脹而縱・・・癲疾者、疾発如狂者、死不治・・・狂始生、先自悲也、喜忘苦怒善恐者、得之憂飢・・・狂始発、少臥不飢、自高賢也、自辯智也、自尊貴也、善罵詈、日夜不休・・・狂言驚善笑、好歌楽、妄行不休者、得之大恐・・・狂目妄見、耳妄聞、善呼者、少気之所生也・・・狂者多食、善見鬼神、善笑而不発于外者、得之有所大喜」
②悪寒発熱。(抜けていたので追記2023.03.06)
③けいれん、体が反り返り、胸痛、息切れ、臀部、肛門が冷え、尿が黄色く出が悪い。尿毒症でしょうか。
「䐈」は肛門あるいは直腸のこと。『太素』経脈正別 楊上善注「肛謂白䐈亦名広腸」。
④小児のひきつけ、けいれん。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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