背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪

大腸兪・小腸兪

背中のツボ、9回目です。今回は大腸兪と小腸兪です。

背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪

目次

背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八

気海兪 『明堂』になし

大腸兪

各書の主治条文

医心主治条文
 大腸転気按如覆坏食不下腸鳴腹脹面腫腰痛

甲乙主治条文
 なし

外台主治条文
 大腸転気按之如覆杯食飲不下善噎腸中鳴腹䐜面腫暴洩腰痛是主津液所生病者目黄口乾衂喉痺肩前臑痛大指次指痛不用気盛有餘則熱腫虚則寒慄

参考

敦煌本『明堂』[1]
 大腸兪在第十六椎下両旁各一寸半刺入三分留六呼
 灸三壮灸[2]主大腸転気案之如覆桮食飲不下善▢
 腸中善鳴腹䐜面腫暴泄及要痛

[1] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
  小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
[2]右傍に「:」とあり。おそらく衍字。

主治条文の比較

医心大腸転気按 如覆坏食 不下  腸  鳴腹脹面腫   腰痛
甲乙なし
外台大腸転気按之如覆杯食飲不下善噎腸中 鳴腹䐜面腫暴洩 腰痛是主津液所生病者目黄口乾衂喉痺肩前臑痛大指次指痛不用気盛有餘則熱腫虚則寒慄
敦煌大腸転気案之如覆桮食飲不下善▢腸中善鳴腹䐜面腫暴泄及要痛
復元大腸転気之如覆食飲不下善噎腸中善鳴腹䐜面腫暴及腰痛
  • 按:『医心』、『外台』に従います。「案」は「按」の通仮字。
  • 杯:『外台』に従います。「桮」は「杯」と同義。
  • 泄:敦煌本に従います。『外台』の「洩」は、唐の皇帝、李世民の避諱で「泄」を改字したもの。

単位条文化

①大腸転気、按之如覆杯、食飲不下、善噎、腸中善鳴、腹䐜、面腫、暴泄。

②腰痛。

「及」の前後で切ってみました。

①「大腸転気、按之如覆杯」は「脾兪」にもありました。お腹にガスが溜まって、杯を逆さまにしたようにボコッとなっている。ここでの「大腸」は、大腹部(上腹部)に大腸が、小腹部(下腹部)に小腸があるという見方にもとづいた、大腹部の大腸と解釈します(参考 遠藤次郎・中村輝子「漢方医学における大腸と小腸の再検討」『日本医史学雑誌雑誌』第三十九巻第二号, pp29-40, 1993年 http://jsmh.umin.jp/journal/39-2/157-168.pdf)。「転気」はボコッとなったガスのかたまりが動く様をおそらく言っています。
「食飲不下、善噎」食べたものが下りず、しばしば吐き出してしまう。
「腸中善鳴、腹䐜」と腹鳴がよくあり、お腹が膨満している。
ここまでお腹にガスが溜まりすぎての症状(おそらく部分的な腸閉塞)と思っていましたが、「面腫」・・・なにこれ。顔がむくむ。「面腫」ではなく「而腫」の間違いとも考えられはします。実際、『千金』巻三十 心腹第二 泄利病には「大腸輸主腸鳴腹䐜腫暴洩」とお腹が䐜(ふく)れ腫れるとあります。ただし『千金』は『明堂』をそっくりそのまま引用してはいないので、「而腫」と断言はできません。
もし「而腫」の間違いと考えるならば、「暴泄」は一旦閉塞が解消されて、突然の下痢が生じていると考えられます。

「面腫」ならどう考えたらいいのでしょう。顔がむくむだけでなく、お腹も膨れ、下痢をする。腎臓の問題だったら泌尿器症状があってもいいと思うので、「三焦兪」で検討したような肝臓によるものでしょうか。ただ腹水によるお腹の膨れとすると、「按之如覆杯」とは違うように思います。按ずるまでもないし、杯どころじゃないと思います。条文を「大腸転気、按之如覆杯」と「食飲不下、善噎、腸中善鳴、腹䐜、面腫、暴泄」に分ける必要があります。

「而腫」の間違いと考える方が妥当なのではないでしょうか。「而」は順接と解釈して、ガスだけだったのが、排泄物で充実した様を言っているか。

関元兪 『明堂』になし

小腸兪

各書の主治条文

医心主治条文
 少膓痛熱控皐注云皐陰嚢也引腰脊疝痛上衝心口乾溺難

甲乙主治条文
 小腹痛控睾引腰脊疝痛上衝心腰脊強溺黄赤口乾●小腸輸主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 少腹痛熱控睾引腰脊疝痛上衝心腰脊強溺難黄赤口乾大小便難淋痔

参考

敦煌本『明堂』[1]
 小腸兪在第十八椎下両旁各一寸半刺入三分留六呼灸
 三壮主少腹痛熱控嚢引要脊疝痛上衝心小腸切痛
 要脊強溺難黄赤舌乾

[1] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
  小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年

主治条文の比較

医心少膓痛熱控皐引腰脊疝痛上衝心           口乾溺難
甲乙小腹痛 控睾引腰脊疝痛上衝心    腰脊強溺 黄赤口乾
外台少腹痛熱控睾引腰脊疝痛上衝心    腰脊強溺難黄赤口乾大小便難淋痔
敦煌少腹痛熱控嚢引要脊疝痛上衝心小腸切痛要脊強溺難黄赤舌乾
復元痛熱控引腰脊疝痛上衝心小腸切痛腰脊強溺難黄赤
  • 腹:『甲乙』、『外台』、敦煌本に従います。
  • 嚢:敦煌本に従います。「皐」と「睾」は同義。『医心』の引く注(おそらく『明堂類成』からの)にあるように陰嚢のこと。
  • 小腸切痛:敦煌本に従い、採ります。
  • 舌:敦煌本に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①少腹痛熱控嚢引腰脊、疝痛、上衝心、小腸切痛、腰脊強、溺難黄赤、舌乾。

「少腹痛熱控嚢引腰脊」下腹部が痛み、熱し、陰嚢や腰にまで及ぶ。

「疝痛、上衝心」疝はいろいろな意味があります。鼠経ヘルニア、あるいは生殖器、睾丸、陰嚢部の症状、あるいは腹が痛み、大小便が出ないなど。とりあえず下腹部の痛みとしておきます。下腹部が痛む、心まで衝き上げるように痛む。ここでの「心」の解釈も困ります。心臓というよりは心窩部と解釈した方がいいようには思います。

参考
『諸病源候論』巻二十
 「諸疝者、陰気積於内、復為寒気所加、使栄衛不調、血気虛弱、故風冷入其腹内而成疝也。疝者痛也。或少腹痛、不得大小便、或手足厥冷、繞齊痛、白汗出、或冷気逆上搶心腹、令心痛、或裏急而腹痛。此諸候非一。故云諸疝也」
『素問』長刺節論(55)
 「病在少腹、腹痛不得大小便、病名曰疝、得之寒」
『素問』骨空論(60)
 「督脈爲病・・・従少腹上衝心而痛、不得前後、爲衝疝」

「小腸切痛、腰脊強」ここでもまた冒頭の症状と同じようなことが書いてあります。下腹部痛と腰の強張り。ここでの「小腸」は、大腹部(上腹部)に大腸が、小腹部(下腹部)に小腸があるという見方にもとづいた、小腹部の小腸と解釈します(参考 遠藤次郎・中村輝子「漢方医学における大腸と小腸の再検討」『日本医史学雑誌雑誌』第三十九巻第二号, pp29-40, 1993年 http://jsmh.umin.jp/journal/39-2/157-168.pdf)。

「溺難黄赤、舌乾」尿が出にくく、その色は黄赤色、口の中が乾いている。下焦に湿熱が停滞。

尿路結石による下腹部痛、腰の痛み、強ばり、泌尿器症状でしょうか。

『甲乙』はひとつの条文にしていますが、それでいいかは疑問があります。
「疝痛、上衝心」は『諸病源候論』に「冷気逆上搶心腹、令心痛」とあり、基本的に寒によるもの。「寒疝」と呼ばれたりもします。なのですが、この主治条文では「少腹痛熱」、「溺難黄赤、舌乾」と熱の記載があります。
また「少腹痛熱控嚢引腰脊」と「小腸切痛、腰脊強」と同じようなことを繰り返し述べています(『医心』はおそらく繰り返しを避けて、前者のみ引用しています)。
したがって以下のように3つに分けることもできるのではないでしょうか。

①少腹痛熱控嚢引腰脊。(熱)

②疝痛、上衝心。(寒)

③小腸切痛、腰脊強、溺難黄赤、舌乾。(熱)

このように寒熱で分けてみましたが、臨床上は下腹部痛、腰痛、泌尿器症状に使うといった具合でいいと思います。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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