背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪

背中のツボ、10回目です。今回は膀胱兪、中膂兪、白環兪です。

背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪

目次

背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八

膀胱兪

各書の主治条文

医心主治条文
 脊痛強引背少腹俛仰難溺赤腰以下至足清不仁

甲乙主治条文
 熱痓互引汗不出反折尻臀内痛似痺瘧状●膀胱輸主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 腰脊痛引背少腹俛仰難不得仰息[1]痿重尻不挙溺赤腰以下至足清不仁不可以坐起●膀胱輸主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 熱痓互引汗不出反折尻臀内痛似癉瘧状腰脊痛強引背少腹俛仰難不得仰息委重尻不挙溺赤腰以下至足清不仁不可以坐起

[1] 「息」のあとに、医統本は「脚」あり。『医学綱目』巻二十八の『甲乙』引用文にも「脚」あり。

主治条文の比較

医心 脊痛強引背少腹俛仰難          溺赤腰以下至足清不仁
甲乙腰脊痛 引背少腹俛仰難不得仰息 痿重尻不挙溺赤腰以下至足清不仁不可以坐起熱痓互引汗不出反折尻臀内痛似痺瘧状
外台腰脊痛強引背少腹俛仰難不得仰息 委重尻不挙溺赤腰以下至足清不仁不可以坐起熱痓互引汗不出反折尻臀内痛似癉瘧状
復元腰脊痛強引背少腹俛仰難不得仰息脚痿重尻不挙溺赤腰以下至足清不仁不可以坐起熱痓互引汗不出反折尻臀内痛似瘧状
  • 脚:医統本、『医学綱目』巻二十八の『甲乙』引用文に従い、補います。
  • 痿:『甲乙』に従います。
  • 癉:『外台』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①腰脊痛強、引背少腹、俛仰難、不得仰息、脚痿重、尻不挙、溺赤、腰以下至足清不仁、不可以坐起。
②熱痓互引、汗不出、反折、尻臀内痛、似癉瘧状。

①腰脊痛強、引背少腹、俛仰難、不得仰息、脚痿重、尻不挙、溺赤、腰以下至足清不仁、不可以坐起。
「腰脊痛強、引背少腹」腰が痛み、強ばり、それが背、下腹部にまで及んでいる。背は腰部より上方を言っているのでしょう。
「俛仰難、不得仰息」前後屈ができず、顔を上に向けると呼吸ができない。腰の曲げ伸ばしはもちろんのこと、頭を後ろに倒して顔を上に向けるだけでも痛むのでしょう。
「脚痿重、尻不挙」脚に力が入らず重く、お尻が上がらない。立ち上がれないのでしょう。
「溺赤」尿に血が混じっている。尿路結石、尿路感染などが考えられます。
「腰以下至足清不仁、不可以坐起」腰から下、足に至るまで冷えて感覚が麻痺し、立ったり座ったりできない。
血尿と下肢のしびれも重なるような病態が何なのか、ちょっと思いつきません。「溺赤」で前後に分けるべきなのでしょうか?分けた場合、「腰脊痛強、引背少腹、俛仰難、不得仰息、脚痿重、尻不挙、溺赤」と尿路結石による激痛、「腰以下至足清不仁、不可以坐起」は下肢のしびれを言っていると考えることはできます。

追記2023.02.15
患者さんに看護師さんがいるのですが、その方が病態を考えてくれました(よくもまぁこんなの読んでくれた上に考えてくれるなんて、まったくありがたいことです)。おっしゃっていた内容と異なっていたらごめんなさい(私の責任です)。

「溺赤」はミオグロビン尿。髄膜炎等の感染症により(「不得仰息」は項部硬直かも)、けいれん発作あるいは高熱で横紋筋融解を起こし、ミオグロビン尿、筋肉痛、筋力低下が生じている。

②熱痓互引、汗不出、反折、尻臀内痛、似癉瘧状。
発熱、筋けいれん、汗は出ず、身体が反り返り、お尻が痛む。
「癉瘧」は『素問』瘧論(35)に

先傷於風、而後傷於寒、故先熱而後寒也。亦以時作、名曰温瘧。
其但熱而不寒者、陰気先絶、陽気独発.則少気煩寃.手足熱而欲嘔、名曰癉瘧。

とあり、先ず熱し後に寒するものをのに温瘧としているのに対し、ただ熱して寒しないものを癉瘧としています。
尿路感染があまりにもひどくなったものでしょうか。

ちなみに「尻臀内痛」の「内」に関して、あくまで推測になりますが、次の「中膂兪」と同じように、もともと「臀」の肉月が「月」ではなく「肉」と書かれていて(臋)、それが書き写す際に誤って「内」となり、「殿」と「臀」は通じるので、のちにまた「臀」となって最終的に「臀内」と書かれるようになったと考えられます。「臋」→「殿内」→「臀内」。

中膂兪

各書の主治条文

医心主治条文
 腰痛寒熱痓腹脹掖攣背痛内引心

甲乙主治条文
 痓反折互引腹脹掖攣背中怏怏引脇痛内引心●中膂内輸[1]主之又刺陽明從項而數脊椎俠脊膂而痛按之應手者刺之尺澤三痏立已(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海[2]然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 腰痛不可以俛仰●中膂内輸主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 腰痛不可以俛仰寒熱痓反折互引腹脹腋攣背中怏怏引脅痛内引心從項始數脊椎俠膂如痛按之應手灸立已

[1] 『医心』は「中旅内兪」(旅の下に「月」の付記あり)、『甲乙』巻八、巻九は「中膂内兪」、『外台』は「中膂肉兪」となっている。これは、もともと「中膂兪」であったが、「膂」の肉月が「月」ではなく「肉」と書かれていて(膐)、それが書き写す際に誤って「内」となり、「旅」と「膂」は通じるので、のちにまた「膂」となって最終的に「膂内」と書かれるようになったと思われる(黄龍祥『黄帝明堂経輯校』中国医薬科技出版社, 1987年)。「中膐兪」→「中旅肉兪」→「中旅内兪」→「中膂内兪」。
[2] 原文:少海

主治条文の比較

医心腰痛     寒熱痓    腹脹掖攣背     痛内引心
甲乙腰痛不可以俛仰寒熱痓反折互引腹脹掖攣背中怏怏引脇痛内引心
外台腰痛不可以俛仰寒熱痓反折互引腹脹腋攣背中怏怏引脅痛内引心從項始數脊椎俠膂如痛按之應手灸立已
復元腰痛不可以俛仰寒熱痓反折互引腹脹攣背中怏怏引脇痛内引心
  • 掖:『医心』、『甲乙』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。

①腰痛、不可以俛仰。
②寒熱。
③痓、反折、互引、腹脹、掖攣、背中怏怏、引脇痛、内引心。

①腰痛、不可以俛仰。
腰が痛み、前後屈ができない。

②寒熱。
悪寒発熱。

③痓、反折、互引、腹脹、掖攣、背中怏怏、引脇痛、内引心。
けいれん症状。けいれん、身体が反り返り、腹が脹り、腋窩がけいれんし、背に不快感があり、それが脇に及んで脇が痛み、さらに前側にいって心窩部まで及ぶ。
「怏怏」『説文解字』心部に「怏、不服、懟也」とあります。「懟」は同じく『説文解字』心部に「懟、怨也」とあります。「怏怏」は『全訳漢字海』第三版に「悶々として気が晴れないさま」とあります。

白環兪

各書の主治条文

医心主治条文
 腰脊痛不得俛仰小便赤黄尻重不能挙也

甲乙主治条文
 なし

外台主治条文
 腰脊以下至足不仁小便赤黄

参考

敦煌本『明堂』に末尾だけ残存[1]
 重不▢挙

『千金』巻三十
 完骨小腸輸白環輸膀胱輸主小便赤黄(心腹第二 大小便病)
 小腸輸中膂輸白環輸主腰脊疝痛(四肢第三 腰脊病)

[1] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
  小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年

主治条文の比較

医心腰脊痛不得俛仰小便赤黄尻重不能挙也
甲乙なし
外台腰脊以下至足不仁小便赤黄
敦煌            重不▢挙
復元腰脊痛不得俛仰小便赤黄尻重不能挙
  • 『医心』を採ります。

単位条文化

①腰脊痛、不得俛仰、小便赤黄、尻重不能挙。

腰が痛み、前後屈ができず、尿の色が赤黄色で、お尻が重く上がらず、立ち上がれない。
これらを同時に満たすものとしては尿路結石でしょうか。臨床としては腰臀部症状、泌尿器症状と大きく捉えた方がいいとは思います。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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