背中のツボ⑫―中髎・下髎・会陽
背中のツボ、12回目です。今回は中髎、下髎、会陽です。
背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪
背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪
背中のツボ⑪―上髎・次髎
目次
背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八
中髎
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛大便難飡洩少腹脹女子赤淫気𤸇月事逋少男子𤸇
甲乙主治条文
小腸脹者●中窌[1]主之(巻之八 五臟六腑脹第三)
腰痛大便難飧泄腰尻中寒●中窌主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)
癃●中窌主之(巻之九 足厥陰脈動喜怒不時発㿗疝遺溺癃第十一)
女子赤淫時白気癃月事少●中窌主之(巻之十二 婦人雑病第十)
外台主治条文
厥陰所結腰痛大便難飧洩尻中寒女子赤淫時白気𤸇月事少男子𤸇小腸脹
参考
敦煌本『明堂』[2]
中聊在第三空夾脊臽者[ ]
厥陰少陰所結主要痛大便[ ]
赤淫時白気癃月事通少男[ ]
『千金』巻三十
中窌主腹脹飧泄(心腹第二泄利病)
赤淫時白気𤸇月事少刺中窌入二寸留七呼灸三壮在第三空俠脊陥中(婦人病第八)
[1] 「窌」=「髎」
[2] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
主治条文の比較
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医心 | 腰痛大便難飡洩 少腹脹 女子赤淫 気𤸇月事逋少男子𤸇 |
甲乙 | 腰痛大便難飧泄腰尻中寒小腸脹者女子赤淫時白気癃月事 少 癃 |
外台 | 腰痛大便難飧洩 尻中寒小腸脹 女子赤淫時白気𤸇月事 少男子𤸇 |
敦煌 | 要痛大便 赤淫時白気癃月事通少男 |
復元 | 腰痛大便難飧泄腰尻中寒少腹脹 女子赤淫時白気癃月事逋少男子癃 |
- 飧泄:『甲乙』に従います。
- 腰:『甲乙』に従います。
- 少腹:『医心』に従います。
- 逋:『医心』に従います。
単位条文化
①腰痛、大便難。
②飧泄、腰尻中寒。
③少腹脹。
④女子赤淫時白、気癃、月事通少。
⑤男子癃。
『甲乙』では①②がひとつの条文ですが、便秘なのか、下痢なのか、どっちなのかわからないので分けることにしました。過敏性腸症候群のような便秘と下痢を交互に繰り返すことを言っている可能性もありますが、それだったらもう少し言葉を足してほしい。
①腰痛、大便難。
腰が痛み、大便が出にくい。
②飧泄、腰尻中寒。
未消化の下痢があり、腰、臀部が冷える。
③少腹脹。
下腹部の脹り。
④女子赤淫時白、気癃、月事逋少。
婦人科疾患。赤色の帯下、時に白色のが漏れる。下腹部が脹り、排尿困難。月経が遅れる、少ない。
「逋」敦煌本は字がつぶれていて、「逋」なのか「通」なのかはっきりしません。『医心』に従うことにしました。「逋」はにげる、遅滞させる。
⑤男子癃。
男性の排尿困難。
下髎
各書の主治条文
医心主治条文
腰痛不可反側尻䐈中痛女子陰中痒痛腸鳴洩注
甲乙主治条文
腰痛少腹痛●下窌[1]主之(居窌の誤り)(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)
腸鳴澼泄●下窌主之(巻之十一 足太陰厥脈病発溏泄下痢第五)
女子不[2]蒼汁不禁赤瀝陰中痒痛少腹腔䏚不可俛仰●下窌主之刺腰尻交者両胛上以日[3]死生為痏数発鍼立已〈千金云腸鳴泄注下窌主之〉(巻之十二 婦人雑病第十)
外台主治条文
腰痛引少腹痛女子下蒼汁不禁赤淫陰中痒痛引少腹控眇不可以俛仰腹腸鳴澼泄
参考
敦煌本『明堂』[4]
▢聊在第四空▢▢臽者中[ ]
▢▢少陰所結主要痛[ ]
下▢▢不禁赤淫▢中[ ]
刺要尻交者両腴上[ ]
腸辟泄注
『千金』巻三十
下蒼汁不禁赤瀝陰中癢痛引少腹控䏚不可以俯仰刺腰尻交者両胛上以月生死為痏数発針立已〈一云下窌〉(婦人病第八)
腸鳴泄注刺下窌入二寸留七呼灸三壮在第四空俠脊陥中(婦人病第八)
[1] 「窌」=「髎」
[2] 頭注:上不乃下字誤
[3] 頭注:日乃月字誤
[4] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
主治条文の比較
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医心 | 腰痛不可反側尻䐈中痛女子 陰中痒痛 腸鳴洩注 |
甲乙 | 女子不蒼汁不禁赤瀝陰中痒痛 少腹腔䏚不可 俛仰刺腰尻交者両胛上以日死生為痏数発鍼立已 腸鳴澼泄 |
外台 | 女子下蒼汁不禁赤淫陰中痒痛引少腹控眇不可以俛仰 腹腸鳴澼泄 |
敦煌 | 要痛[ ] 下▢▢不禁赤淫▢中[ ] 刺要尻交者両腴上[ ] 腸辟泄注 |
千金 | 下蒼汁不禁赤瀝陰中癢痛引少腹控䏚不可以俯仰刺腰尻交者両胛上以月生死為痏数発針立已 腸鳴泄注 |
復元 | 腰痛不可反側尻䐈中痛女子下蒼汁不禁赤淫陰中痒痛引少腹控䏚不可以俛仰刺腰尻交者両胛上以月生死為痏数発鍼立已 腸辟泄注 |
- 淫:敦煌本、『外台』に従います。
- 引:『外台』『千金』に従い補います。
- 腸辟泄注:敦煌本に従います。
単位条文化
①腰痛不可反側、尻䐈中痛。
②女子下蒼汁、不禁赤淫、陰中痒痛、引少腹控䏚、不可以俛仰。
③腸辟泄注。
①腰痛不可反側、尻䐈中痛。
腰が痛み、体をひねることができず、臀部、肛門が痛む。
「䐈」は肛門あるいは直腸のこと。『太素』経脈正別 楊上善注「肛謂白䐈亦名広腸」。
②女子下蒼汁、不禁赤淫、陰中痒痛、引少腹控䏚、不可以俛仰。
婦人科疾患。青色の分泌物が出る、あるいは赤色の帯下が漏れて止まらず、陰部に痒みや痛みがあり、下腹部やわき腹まで及び、前後屈ができない。
「下蒼汁」青色というより、実際は緑がかったものか?何かしらの陰部の細菌感染と思われます。
③腸辟泄注。
腸に問題があって下痢をする。
「腸辟」一般には下痢と病名、症状名として解釈されています。ただ『素問』大奇論(48)に「腎脈小搏沈爲腸澼下血、血温身熱者死。心肝澼、亦下血、二蔵同病者可治」のように腸が「澼」して下血、心肝が「澼」してもまた下血するといった使われ方がしていることから、病名ではなく発病の原因と考えます。「澼」=「辟」=「僻」と通じ、かたよる、ひがむ、よこしまといった解釈もできることから、「腸澼」は腸に何かしら問題がある、ぐらいで解釈しました。
会陽
各書の主治条文
医心主治条文
五腸有寒洩注腸辟便血
甲乙主治条文
腸中有寒熱泄注腸澼便血●会陽主之(巻之十一 足太陰厥脈病発溏泄下痢第五)
外台主治条文
五蔵腹中有寒泄注腸澼便血
参考
『千金』巻三十
会陽主腹中有寒泄注腸澼便血(心腹第二泄利病)
主治条文の比較
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医心 | 五 腸 有寒 洩注腸辟便血 |
甲乙 | 腸中有寒熱泄注腸澼便血 |
外台 | 五蔵腹中有寒 泄注腸澼便血 |
千金 | 腹中有寒 泄注腸澼便血 |
復元 | 五蔵腸中有寒 泄注腸辟便血 |
- 五蔵:『医心』『外台』に従い採ります。
- 腸:『医心』『甲乙』に従います。
- 寒:『医心』『外台』『千金』に従い、「寒」のみとしました。
- 泄:『医心』の「洩」は、唐の皇帝、李世民の避諱で「泄」を改字したもの。
- 辟:「辟」と「澼」は同音。敦煌本「下髎」が「辟」だったので、「辟」としました。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①五蔵腸中有寒、泄注、腸辟便血。
五臓、腸に冷えがあって、水様性の下痢や、腸に問題があって便に血が混じる。
「腸辟」に関しては「下髎」を参照。
『甲乙』に従い、「会陽」を「背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八」に含めましたが、敦煌本では下髎の次は附分となっています。『外台』『千金』は『甲乙』と同様に下髎の次に並べ、『医心』は「背部二行」に含めず、「足部」に配置しています。敦煌本も『医心』と同様に足部に含め、足の付け根の「熱兪」として扱っていたのではないかと、遠藤次郎・梁永宣は推察しています(「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年)。ただこの主治条文を見るに、「会陽」が熱兪(熱病を治療するためのツボ)というのは少し難しいように思います。そもそも『素問』水熱穴論の考えを『明堂』が採用しているか、それについて検討してみたことがないのでまだ何とも言えません。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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