頭のツボ⑩―頭のツボのまとめ

頭のツボ、第10回です。今回は、復元した頭のツボの各主治症を比較して、頭のツボに関してまとめをしたいと思います。

『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ①―神庭
頭のツボ②―曲差・本神・頭維
頭のツボ③ー上星・顖会および『甲乙経』のツボの配列規則
頭のツボ④―前頂・百会・後頂
頭のツボ⑤―強間・脳戸・風府
頭のツボ⑥―五処・承光・通天・絡却・玉枕
頭のツボ⑦―臨泣・目窓・正営・承霊・脳空
頭のツボ⑧―天衝・率谷・曲鬢・浮白・竅陰・完骨
頭のツボ⑨―瘖門・天柱・風池および『外台秘要方』の取り扱いについて

訂正2023.04.29
「承光」の「青盲遠視不明」が頭部に含まれていたので、面部に訂正。

目次

主治症の比較

復元した主治条文の各症状を身体の各部位に分類して、表を作成し、比較します。部位は全身、精神、頭、面、頸、項、上肢、胸脇、腹、背、腰臀、下肢としました。咽喉、胸腔、腹腔の症状はそれぞれ頸、胸脇、腹に、熱病、瘧は全身に分類しています。狂、癲疾はおそらく高熱で脳に影響が出ていると考えられますが、精神に分類しました。その他適宜分類しています。

また、下線を引いているものは、複数の部位の記載があるものです。各部位に記しておき、着目する部位に下線を引いています。

なぜこのような分類をするのかというと、 『明堂』の全体像(仮)で記したように、「どのツボを使うかは、どこの症状なのかによって決まる傾向にある」と考えるからです。

今回、頭のツボだけになるので、他の部位との比較ができませんが、とりあえす頭のツボがどこの症状、どこに作用する傾向にあるのかに着目します。

頭直鼻中髪際傍行至頭維凡七穴第一

神庭曲差本神頭維
全身寒熱 痎瘧身熱 汗不出寒熱 流汗 難語言[1]
精神癲疾欧沫癲疾 小児驚癇
頭痛 風眩 頭脳中寒頭痛頭痛頭痛如破
目痛不能視 鼻鼽 目泣出鼻窒喘息不利目眩痛目痛如脱
項強急
強急
上肢
胸脇喘喝 煩満煩満胸脇相引不得傾側喘逆 煩満
善欧欧沫
腰臀
下肢

[1] 難語言:話すことができないほど全身状態が悪いことの表現と判断。

頭直鼻中髪際一寸循督脈却行至風府凡八穴第二

上星顖会前頂百会後頂強間脳戸風府
全身痎瘧 熱病不汗出痓 寒熱 瘧 悪見風寒悪風寒痎瘧  熱病汗出 痓寒熱 痓  重衣不熱 汗出
精神癲疾癲疾嘔沫暫起僵仆小児驚癇癲疾 小児驚癇癲疾  瘈瘲 狂走癲疾  狂走 瘈瘲癲疾骨痠 狂 瘈瘲 羊鳴狂易多言不休 狂走欲自殺目反妄見
風眩 痛引頷痛風眩 頭痛風眩頂上痛 風頭重風眩 顱上痛揺頭頭重 風則脳中寒 頭中悪風 眩頭痛
顔清 面膚腫 鼻鼽衂 頭痛引痛 目中痛不能視顔清目泣出 目不能視 面赤腫目瞑痛 面赤腫目如脱 耳鳴目𥇀𥇀口喎 涙出目不眴 目不明 口噤目眩 鼻不得喘息 舌急難言
頸痛頸強瘖不能言暴瘖不能言 喉嗌痛
不可左右顧項直項痛項急 不得顧側
上肢
胸脇煩満煩心 喘喝
善欧善嘔善欧
腰臀
下肢足不仁

頭直侠督脈侠各一寸五分却行至玉枕凡十穴第三

五処承光通天絡却玉枕
全身此以寫諸陽気熱 汗出寒熱 痓脊強反折瘈瘲暫起僵仆[1]汗不出悽厥悪寒 寒熱骨痛
精神癲疾癲疾僵仆目妄見恍惚不楽狂走瘈瘲癲疾僵仆
風頭痛 頭重風眩頭痛 項痛重脳風眩頭痛項悪風 頭重 頭眩 頭半寒
青盲遠視不明鼻窒鼽衂喘息不得通青盲無所見目内系急痛引頞 目痛
痛重悪風 項痛
上肢
胸脇善嚏煩心
欲欧嘔吐
腰臀
下肢

[1] 暫起僵仆:高熱により立っていられないことの表現と判断。

頭直目上入髪際五分却行至脳空凡十穴第四

臨泣目窓正営承霊脳空
全身悪寒悪見風寒身熱
精神小児驚癇反視癲疾大瘦
頭痛脳風頭痛脳風 風眩頭痛 頭痛
顔清不得視口沫泣出 両目眉頭痛目瞑遠視𥇀𥇀 上歯齲痛齗腫上歯齲痛鼽衂窒鼻喘息不通目瞑 鼻管疽発爲癘鼻 目痛引両頷急
上肢
胸脇
腰臀
下肢

頭縁耳上却行至完骨凡十二穴第五

天衝率谷曲鬢浮白竅陰完骨
全身痓互引醉酒風熱発瘧 㾬瘧
精神癲疾 善驚癲疾僵仆 狂
頭痛両角眩痛風頭耳後痛 項揺瘈
痛引牙歯 口噤不開急痛不能言歯牙齲痛 不能言管疽発厲面有気 歯牙齲痛 口喎僻 牙車急 頰腫引耳
頸頷榰満項痛引喉痺
痛引頸揺瘈 項腫不可俛仰
上肢
胸脇煩心
不能食飲 煩満歐吐
腰臀
下肢足緩不収痿不能行足不收失履

頭自髪際中央傍行凡五穴第六

瘂門天柱風池
全身熱病汗不出 暴攣 寒熱 痓寒熱 瘧 熱病汗不出 気厥 㾬瘧
精神狂見鬼目上反 小児驚癇 癲疾互引癲疾僵仆 狂
眩 頭痛重眩 頭痛
舌緩目𥇀𥇀赤痛 目如脱 目瞑目泣出多眵䁾 鼻鼽衂 目内眥赤痛 耳目不用
瘖不能言咽腫難言項痛不得顧 喉咽僂引項筋攣不收
項強項如抜 項直不可以顧痛不得顧 喉咽僂引筋攣不收
上肢
胸脇
腰臀
下肢足不任身痛欲折

上記の表をPDFにまとめたものです↓(2023.05.24 字の大きさ修正)

頭のツボは基本的に熱病、痙攣、てんかん発作、及び頭痛やめまい、目や鼻などの首から上の症状に対して使っていることがわかります。頭の後方のツボは項部の症状、頭の側面のツボは歯の症状に対して使っています。

痙攣、てんかん発作は感染症、高熱により中枢神経にまで影響した結果ではないかと考えます。

煩満、善欧などの消化器症状と考えられるものがありますが、発熱、めまいに伴って起こっているものです。

「風府」「浮白」「完骨」「天柱」に下肢症状があります。「風府」の「足不仁」は脳血管障害によるものかもしれませんが、「浮白「完骨」「天柱」の「足不収」「足不任身」に関しては、痙攣によるものかもしれません。それでも末梢ではなく中枢神経の問題により生じていると思われます。

『素問』水熱穴論(61)に熱病に対する五十九兪の話がありますが、「頭上五行行五者、以越諸陽之熱逆也」とあり、やはり熱に対して頭のツボを使っていたことがわかります。参考までに、頭上五行行五の中心は「百会」ですが、『甲乙』『外台』『医心』が一名を「三陽五会」と記載しています。「三陽五会」は『史記』扁鵲伝にみられ、扁鵲が虢の太子を尸厥から蘇生させたときに鍼をしたところです。通説では「百会」とされていますが、他にも解釈があり、「三陽五会」を「陽の三行(左右で五本)に各五会(兪・穴)」すなわち頭上の五行行五という考えもあります(真柳誠『黄帝医籍研究』pp466-467)。

小結

頭のツボは頭痛やめまい、目や鼻などの首から上の症状、及び熱病、中枢神経症状に対して使われます。基本的には局所、近隣(中枢神経含む)の症状+発熱です。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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