背中のツボ⑭―譩譆・膈関・魂門・陽綱

譩譆・膈関・魂門・陽綱

背中のツボ、14回目です。今回は譩譆、膈関、魂門、陽綱の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪
背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪
背中のツボ⑪―上髎・次髎
背中のツボ⑫―中髎・下髎・会陽
背中のツボ⑬―附分・魄戸・神堂

目次

背自第二椎両傍俠脊各三寸至二十一椎下両傍凡二十六穴第九

譩譆

各書の主治条文

医心主治条文
 掖痀攣暴脈急引脇而痛内引心肺欬喘息鼽衂肩痛

甲乙主治条文
 喘逆鼽衂肩甲内廉痛不可晩仰䏚季脇引少腹而痛脹●譩譆[1]主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 痓互引身熱●然谷譩譆主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 㾬瘧●取完骨及風池大杼心輸上窌譩譆陰都太淵三間合谷陽池少澤前谷後谿腕骨陽谷俠谿至陰通谷京骨皆主之(巻之七 陰陽相移発三瘧第五)
 欬逆上気●譩譆主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
 風[2]●譩譆[3]主之〈素問骨空註云大風汗出灸譩譆〉(巻之十 陽受病発風第二下)
 掖拘攣暴脈急引脇而痛内引心肺●譩譆主之從項至脊[4]自脊已下至十二椎應手刺之立已(巻之十 八虚受病発拘攣第三)
 小児食晦頭癇[5]●譩譆主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 腋痀攣暴脈急引脅而痛内引心肺従項至脊以下至十二椎應手灸之立已熱病汗不出肩背寒熱痓互引身熱欬逆上気虚喘喘逆鼽衂肩甲内廉痛不可俛仰䏚季脅引少腹而脹痛小児食晦頭痛引頤㾬瘧風

参考

『千金』巻三十
 譩譆主小児食晦頭痛(小児病第九)

[1] 原文:語 頭注:語乃譆字誤
[2] 頭注:風乃又字誤
[3] 原文:諱 頭注:諱乃譆字誤
[4] 原文:春 頭注:春乃脊字誤
[5] 頭注:他本癇作痛

主治条文の比較

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医心掖痀攣暴脈急引脇而痛内引心肺欬     喘息鼽衂肩   痛
甲乙掖拘攣暴脈急引脇而痛内引心肺欬逆上気  喘逆鼽衂肩甲内廉痛不可晩仰䏚季脇引少腹而痛脹痓互引身熱小児食晦頭癇  㾬瘧風
外台腋痀攣暴脈急引脅而痛内引心肺欬逆上気虚喘喘逆鼽衂肩甲内廉痛不可俛仰䏚季脅引少腹而脹痛痓互引身熱小児食晦頭痛引頤㾬瘧風
復元掖拘攣暴脈急引脇而痛内引心肺欬逆上気  喘鼽衂肩甲内廉痛不可俛仰䏚季脇引少腹而痛脹痓互引身熱小児食晦頭  㾬瘧風
  • 掖:『医心』『甲乙』に従います。
  • 拘:『甲乙』に従います。「痀」はそのまま解釈すると背が曲がる病気。
  • 逆:『甲乙』『外台』に従います。
  • 痛:『外台』『千金』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の7条文になります。

①掖拘攣、暴脈急、引脇而痛、内引心肺。
②欬逆上気。
③喘逆、鼽衂、肩甲内廉痛、不可俛仰、䏚季脇引少腹而痛脹。
④痓、互引、身熱。
⑤小児食晦頭痛。
⑥㾬瘧。
⑦風。

①掖拘攣、暴脈急、引脇而痛、内引心肺。
腋窩がひきつり、突然背の筋もひきつり、脇(側胸)にも及んで痛み、胸まで痛む。

ここでの「脈急」をどう解釈するか。脈象のことをいっているでいいのでしょうか。
『素問』繆刺論(63)に
「邪客於足太陽之絡、令人拘攣背急、引脇而痛。刺之從項始、数脊椎、侠脊疾按之、應手如痛、刺之傍三痏、立已」
と似たような文があります。繆刺論では「脈急」ではなく「背急」となっています。これをもとに『明堂』は書かれたと考えると、「脈急」は脈象のことではなく、脊柱起立筋がひきつっていると解釈するのがいいのではないかと思います。

また、「譩譆」というのはもともとツボとして位置が固定されたものではなく、背中の阿是穴(圧痛点)を指していたのではないでしょうか。繆刺論に「侠脊疾按之、應手如痛」とあり、また『素問』骨空論(60)に
「大風汗出、灸譩譆。譩譆、在背下、侠脊傍三寸所、厭之、令病者、呼譩譆、譩譆應手」
「厭」は「壓」と通じ、おさえる、按ずること。
「呼譩譆」に関して。「譩」は「噫」と通じ、ああ、と感嘆・悲痛・なげき・驚きの感情を表す声。「譆」も「嘻」と通じ、ああ、と賛嘆、悲痛の声。なので「呼譩譆」はおされて痛み、あるいは気持ちがよくて、ああと声が出ること。
したがって「譩譆」はもともと背中の阿是穴のことだったと考えられます。

「内引心肺」は実際に心臓なり、肺なりが痛みを発していたかはわかりません。条文全体から見て肋間神経に関することのように思えるので、胸の痛み、ひきつりぐらいに解釈するのがいいと思います。

②欬逆上気。
咳き込む。
呼吸器症状。

③喘逆、鼽衂、肩甲内廉痛、不可俛仰、䏚季脇引少腹而痛脹。
ゼェーゼェーと息が苦しく、鼻水や鼻血が出て、肩甲骨の内側が痛み、前後屈ができず、脇腹から下腹部にかけて痛み、脹る。
『甲乙』では巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に置かれていることから、外感熱病による症状。

④痓、互引、身熱。
からだがけいれん、ひきつり、熱する。
ウイルス、細菌感染による脳炎、髄膜炎などで起こっているけいれんか。

⑤小児食晦頭痛。
小児の疾患。食べても痩せてしまい、頭痛がある。
「食晦」についてはを参照。

⑥㾬瘧。
悪寒発熱を繰り返す。

⑦風。
風邪による病い全般。
①でも引用しましたが『素問』骨空論(60)に
「大風汗出、灸譩譆。譩譆、在背下、侠脊傍三寸所、厭之、令病者、呼譩譆、譩譆應手」
とあります。「大風汗出」は膈兪の主治症にもあり、『甲乙』医統本では「風」ではなく「又」で、「大風汗出膈兪主之又譩譆主之」となっています。『外台』が「風」となっているので、ここでは「風」を採りました。
とはいえ「風」「風邪」が何なのかといわれると答えに窮するのですが、②③④⑥から、ここでは外感病(感染症や気候の変化などによって生じるもの)ぐらいで解釈するくらいでいいのではないかと思います。

膈関

各書の主治条文

医心主治条文
 背痛悪寒脊強俛仰難食不下歐呃多㵪注云呃逆気也

甲乙主治条文
 背痛悪寒脊強俯仰難食不下嘔吐多涎〈千金作陽関〉●鬲関[1]主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 背痛悪寒脊強俛仰難食不下嘔吐多涎

[1] 原文:髙輸 頭注:髙乃鬲字誤 

主治条文の比較

医心背痛悪寒脊強俛仰難食不下歐呃多㵪
甲乙背痛悪寒脊強俯仰難食不下嘔吐多涎
外台背痛悪寒脊強俛仰難食不下嘔吐多涎
復元背痛悪寒脊強仰難食不下歐
  • 俛:『医心』『外台』に従います。
  • 呃:『医心』に従います。
  • 㵪:『医心』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①背痛悪寒、脊強俛仰難、食不下、歐呃、多㵪。

背が痛み悪寒がし、背が強ばり前後屈がしにくく、飲食物が下りていかず、嘔吐し、よだれが多く出る。
外感熱病による症状。背部の悪寒、強ばり。上部消化管にも影響が及んでいます。よだれが多く出るのは嘔吐に伴ったもの。
「呃」は『医心』の注に逆気とあります。飲食物が逆流して、嘔吐する様子を言っていると思われます。

魂門

各書の主治条文

医心主治条文
 胸脇満背痛悪風寒食飲不下歐吐不留注

甲乙主治条文
 胸脇脹満背痛悪風寒飲食不下嘔吐不留住●魂門主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 胸脅脹満背痛悪風寒飲食不下嘔吐不留住

参考

『千金』巻三十
 魂門陽関[1]主嘔吐不住多涎(心腹第二嘔吐病)

[1] 陽関:膈関の誤り

主治条文の比較

医心胸脇 満背痛悪風寒食飲不下歐吐不留注
甲乙胸脇脹満背痛悪風寒飲食不下嘔吐不留住
外台胸脅脹満背痛悪風寒飲食不下嘔吐不留住
復元胸脇脹満背痛悪風寒食飲不下歐吐不留
  • 住:『甲乙』『外台』『千金』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①胸脇脹満、背痛悪風寒、食飲不下、歐吐不留住。

胸、季肋部が脹って苦しく、背が痛み悪寒がし、飲食物が下りていかず、嘔吐が止まらない。
外感熱病による症状。「膈関」と似たような症状。

陽綱

各書の主治条文

医心主治条文
 食飲不下腹中雷鳴大便不節小便赤黄

甲乙主治条文
 飲食不下腹中雷鳴大腸不節小便赤黄●陽䌉[1]主之(巻之九 脾胃大腸受病発腹脹満腸中鳴短気第七)

外台主治条文
 食飲不下腹中雷鳴大便不節小便赤黄

参考

『千金』巻三十
 陽綱主大便不節小便赤黄腸鳴泄注(心腹第二大小便病)

[1] 陽䌉:「䌉」は「綱」の異体字。『医心』も「陽䌉」。『甲乙』明抄本巻之三は「陽剛」。『甲乙』医統本、正統本巻之三、『外台』は「陽綱」。

主治条文の比較

医心食飲不下腹中雷鳴大便不節小便赤黄
甲乙飲食不下腹中雷鳴大腸不節小便赤黄
外台食飲不下腹中雷鳴大便不節小便赤黄
復元食飲不下腹中雷鳴大便不節小便赤黄
  • 便:『医心』『外台』『千金』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①食飲不下、腹中雷鳴、大便不節、小便赤黄。

飲食物が下りていかず、腹がゴロゴロと鳴り、突然の下痢があり、小便が赤黄色い。
消化器症状。
「不節」飲食不節、風雨不節、喜怒不節、起居不節といった使い方が『素問』『霊枢』にはみられます。一定でない、通常でない、乱れていることではいいと思います。大便が不節というのは、ゴロゴロと腹鳴もあることから、突然の下痢と解釈しました。
そうした下痢を繰り返すことにより、体内の水分が少なくなり、小便の色が濃くなっていると考えられます。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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