顔のツボ⑦―地倉・承漿・頬車・大迎

地倉・承漿・頬車・大迎

顔のツボの7回目です。今回は、口角の傍にある地倉、下唇の下にある承漿、下顎の角近くにある頬車、下顎角の前方の顔面動脈拍動部にある大迎の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

顔のツボ①―懸顱・頷厭・懸釐
顔のツボ②―陽白・攅竹・絲竹空
顔のツボ③―精明・瞳子髎・承泣
顔のツボ④―四白・顴髎・素髎
顔のツボ⑤―迎香・巨髎・禾髎
顔のツボ⑥―水溝・兌端・齗交

目次

面凡三十九穴第十

地倉

各書の主治条文

医心主治条文
 口緩不収不能語手足痿躄不能行

甲乙主治条文
 足緩不收痿不能行不能言語手足痿躄不能行●地倉主之(巻之十 熱在五蔵発痿第四)

外台主治条文
 口緩不収不能言語手足痿躄不能行

参考

『千金』巻三十
 地倉大迎 主口緩不收不能言(頭面第一口病)
 地倉大泉1主足踒躃不能行

[1] 大泉:唐代は高祖李淵の諱である」を避けて「」に作りますが、この「大泉」は「太淵」のことではなく「水泉」のことだと思います。

主治条文の比較

医心口緩不収    不能 語手足痿躄不能行
甲乙足緩不收痿不能行不能言語手足痿躄不能行
外台口緩不収    不能言語手足痿躄不能行
復元緩不収    不能言語手足痿躄不能行
  • 口:『医心』『外台』『千金』に従います。

単位条文化

『甲乙』を参考にして単位条文化すると、次の1条文になります。

①口緩不収、不能言語、手足痿躄不能行。

口元が弛緩して口が閉じず、言葉をはっきりと言えず、手足に力が入らず歩けない。

半身不随による症状と思われます。

承漿

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱悽厥皷頷癲疾欧沫痓口噤小便赤黒1消渇目瞑汗出衂不止

甲乙主治条文
 寒熱悽厥鼓頷●承漿主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 痓口噤互相2引口乾小便赤黄或時不禁●承漿主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 癲疾嘔沫●神庭及兌端承漿主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 消渇嗜飲●承漿主之(巻之十一 五気溢発消渇黄癉第六)
 目瞑身汗出●承漿主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
 衂血不止●承漿及委中主之(巻之十二 血溢発衂第七)

外台主治条文
 寒熱悽厥鼓頷癲疾嘔沫寒熱痓互引口乾小便赤黄或時不禁消渇嗜飲目瞑身汗出衂血不止上歯齲

[1] 傍注:黄
[2] 頭注:他本無相字 医統本は「互引」

主治条文の比較

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医心寒熱悽厥皷頷癲疾欧沫痓口噤     小便赤黒    消渇  目瞑 汗出衂 不止
甲乙寒熱悽厥鼓頷癲疾嘔沫痓口噤互相引口乾小便赤黄或時不禁消渇嗜飲目瞑身汗出衂血不止
外台寒熱悽厥鼓頷癲疾嘔沫痓  互 引口乾小便赤黄或時不禁消渇嗜飲目瞑身汗出衂血不止寒熱上歯齲
復元寒熱悽厥皷頷癲疾欧沫痓口噤互 引口乾小便赤或時不禁消渇嗜飲目瞑身汗出衂血不止
  • 互引:『甲乙』医統本、『外台』に従います。
  • 黄:『甲乙』『外台』に従います。

単位条文化

①寒熱、悽厥皷頷。
②癲疾欧沫。
③痓、口噤、互引、口乾、小便赤黄、或時不禁。
④消渇嗜飲、目瞑、身汗出、衂血不止。

①寒熱、悽厥皷頷。
悪寒発熱、寒気がひどく顎がガクガク震える。
風寒邪の侵襲(感染症)。

②癲疾欧沫。
てんかん発作となり、口から泡を吹く。

③痓、口噤、互引、口乾、小便赤黄、或時不禁。
けいれん、こわばって口が開かず、筋がひきつり、口が乾き、小便が赤黄色となり、ときに失禁する。
「口乾」「小便赤黄」は水分不足によるものか。
「或時不禁」は発作時の尿失禁のことか。

④消渇嗜飲、目瞑、身汗出、衂血不止。
のどが渇き水をよく飲み、目がはっきり見えず、身体に汗が出て、鼻血が止まらない。

『甲乙』では三つの条文に分かれていますが、ここではひとつの条文として解釈し、糖尿病による症状と考えてみました。

糖尿病により、のどが渇く。目は糖尿病網膜症。自律神経が障害されて異常発汗。血管が脆くなり鼻血が出やすくなっている。

「消渇」について「意舍」参照。

頬車

各書の主治条文

医心主治条文
 牙車骨痛歯不可(用)嚼頬腫口急

甲乙主治条文
 頬腫口急頬車痛不可以嚼●頬車主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 頬腫口急頬車骨痛歯不可用嚼

主治条文の比較

医心    牙車骨痛歯不可用嚼頬腫口急
甲乙頬腫口急頬車 痛 不可以嚼
外台頬腫口急頬車骨痛歯不可用嚼
復元    車骨痛歯不可頬腫口急
  • 牙:『医心』に従います。「牙車」と「頬車」は同義。
  • 用:『医心』『外台』に従います。「用」「以」どちらも「もって」。
  • 頬腫口急:『医心』の字順に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①牙車骨痛、歯不可用嚼、頬腫口急。

下顎が痛み、咀嚼ができず、頬が腫れて口がこわばる。

局所の症状。虫歯によるものか。

歯痛や顎関節症などによく使われています。

大迎

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱頚瘰𤻤癲疾口喎喘悸歯痛寒痓口噤舌不能言

甲乙主治条文
 痓口噤●大迎主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱頸瘰癧●大迎主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 癲疾互引口喎喘悸者●大迎主之及取陽明太隂候手足變血而止(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 厥口僻失欠下牙痛頰腫悪寒口不收舌不能言不得嚼●大迎主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 寒熱頸瘰癧癲疾口喎喘悸痓口噤厥口僻失欠下牙痛頬腫悪寒口不収舌不能言不得嚼

主治条文の比較

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医心寒熱頚瘰𤻤癲疾  口喎喘悸       歯痛   寒          痓口噤舌不能言
甲乙寒熱頸瘰癧癲疾互引口喎喘悸厥口僻失欠下牙 痛頰腫悪寒口不收舌不能言不得嚼痓口噤
外台寒熱頸瘰癧癲疾  口喎喘悸厥口僻失欠下牙 痛頬腫悪寒口不収舌不能言不得嚼痓口噤
復元寒熱頸瘰癧癲疾互引口喎喘悸厥口僻失欠下牙痛頰腫悪寒口不收舌不能言不得嚼痓口噤
  • 互引:『甲乙』に従い採ります。
  • 歯:『医心』に従い採ります。
  • 舌不能言:『外台』の字順に従います。

単位条文化

①寒熱、頸瘰癧。
②癲疾互引、口喎、喘悸。
③厥、口僻、失欠、下牙歯痛、頰腫、悪寒。
④口不收、舌不能言、不得嚼。
⑤痓、口噤。

③と④は『甲乙』ではひとつの条文ですが、ここでは二つに分けて考えてみました。

①寒熱、頸瘰癧。
悪寒発熱、頸部リンパ節腫。
「瘰癧」結核性リンパ節炎といわれています。

参考『諸病源候論』巻之三十四 瘰癧瘻候
「此由風邪毒気客於肌肉、隨虛處而停、結為瘰癧。或如梅、李、棗核等大小、両三相連、在皮間、而時発寒熱是也。久則変膿、潰成瘻也」

②癲疾互引、口喎、喘悸。
てんかん発作で筋がひきつり、口元が歪み、呼吸が苦しく動悸がする。
てんかん発作によりけいれんが起きたり、あるいは動悸がしたりしています。

③厥、口僻、失欠、下牙歯痛、頰腫、悪寒。
厥、口元が歪み、口が大きく開かず、下歯が痛み、頬が腫れ、悪寒がする。

「厥」については正直よくわかりません。気が逆上したり、偏在したりすること、気の流れの異常。現代医学でいうところのショック状態のように思ってはいます。「大迎」は拍動部なので、ここの拍動で「気」を判断していたのかもしれません。「厥」に関しては今後やる気があれば取り上げてみます。
もしここでの「厥」がショック状態のことであるとすれば、虫歯がひどくなって周囲に炎症が広がり、細菌が血液の中に侵入して全身に回ってしまう敗血症になってしまったのでしょうか……考えすぎか……
「失欠」の「欠」は欠伸の「欠」。「缺」のことではありません。

④口不收、舌不能言、不得嚼。
口元が弛緩して口が閉じず、舌も弛緩してしゃべることができず、咀嚼することもできない。
脳血管障害によるものか。

⑤痓、口噤。
けいれん、こわばって口が開かない。

地倉、承漿、頬車、大迎は基本的には口元や下顎、下歯などの局所の症状に用いられていますが、承漿と大迎は熱病、けいれんなどの全身症状にも使われています。承漿は身体の中心線上、大迎は動脈拍動部に位置するからでしょうか。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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