顔のツボ②―陽白・攅竹・絲竹空

陽白・攅竹・絲竹空

顔のツボの2回目です。今回は眉の上方にある陽白、眉頭にある攅竹、眉尻にある絲竹空の三つのツボの『明堂』主治条文の復元をみていきます。

顔のツボ①―懸顱・頷厭・懸釐

目次

面凡三十九穴第十

陽白

各書の主治条文

医心主治条文
 頭目瞳子痛不可以視(使)項強急不可顧

甲乙主治条文
 頭目瞳子痛不可以視俠頭1強急不可以顧●陽白主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)

外台主治条文
 頭目瞳子不可以視俠白強急不可以顧

参考

『千金』巻三十
 陽白主目瞳子痛癢遠視䀮䀮昏夜無所見(頭面第一目病)

[1] 頭注:俠項強急頭字誤

主治条文の比較

医心頭目瞳子痛不可以視使項強急不可 顧
甲乙頭目瞳子痛不可以視俠頭強急不可以顧
外台頭目瞳子 不可以視俠白強急不可以顧
復元頭目瞳子痛不可以視俠項強急不可以顧
  • 俠:『甲乙』『外台』に従います。
  • 項:『医心』『甲乙』頭注に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭目瞳子痛、不可以視、俠項強急、不可以顧。

頭と瞳孔が痛み、物を見ることができず、項を挟んで両側の筋が強ばりひきつり、振り返る動きができない。
『甲乙』では巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中に置かれていることから、外感熱病(細菌、ウイルス等の感染症)による症状。感染性角膜炎か。

攅竹

各書の主治条文

医心主治条文
 風頭痛鼻衂眉頭痛目(𥇀𥇀)悪風寒善啑泣出面赤目欲脱項強痔 (𥇀=⿰目芒)

甲乙主治条文
 頭風痛鼻鼽衂眉頭痛善嚏目如欲脱汗出寒熱面赤頰中痛項椎不可左右顧目系急瘈瘲●攅竹主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 痔痛●攅竹主之(巻之九 足太陽脈動発下部痔脱肛第十二)
 癲疾互引反折戴眼及眩狂走不得卧心中煩●攅竹主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 小児病1発目上挿●攅竹主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 風頭痛鼻鼽衂眉頭痛善嚔目如欲脱汗出悪寒面赤䪼中痛項椎不可左右顧目系急瘈瘲癲疾互引反折戴眼及眩狂不得卧意中煩目𥇀𥇀不明悪風寒癇発目上插痔痛 (𥇀=⿰目芒)

参考

『千金』巻三十
 攅竹承光腎輸絲竹空和窌 主風頭痛(頭面第一頭病)
 攅竹齗交玉枕 主面赤頰中痛(頭面第一面病)
 攅竹小海後頂強間 主癎発瘈瘲狂走不得臥心中煩(風痺第四癲疾)

[1] 頭注:他本病作癇

主治条文の比較

医心風頭痛鼻 衂眉頭痛目𥇀𥇀  悪風寒善啑泣出面赤目 欲脱         項強          痔
甲乙頭風痛鼻鼽衂眉頭痛        善嚏    目如欲脱汗出寒熱面赤頰中痛項椎不可左右顧目系急瘈瘲痔痛癲疾互引反折戴眼及眩狂走不得臥心中煩小児病発目上挿
外台1風頭痛鼻鼽衂眉頭痛        善嚔    目如欲脱汗出悪寒面赤䪼中痛項椎不可左右顧目系急瘈瘲痔痛癲疾互引反折戴眼及眩狂 不得臥意中煩  癇発目上插
外台2         目𥇀𥇀不明悪風寒
復元風頭痛鼻鼽衂眉頭痛目𥇀𥇀不明悪風寒善嚏泣出  目如欲脱汗出寒熱面赤頰中痛項強不可左右顧目系急瘈瘲痔痛癲疾互引反折戴眼及眩狂走不得臥心中煩小児癇発目上挿
  • 風頭痛:『医心』『外台』『千金』に従います。
  • 目𥇀𥇀不明悪風寒:『医心』の字順に従います。𥇀=⿰目芒
  • 泣出:『医心』に従い採ります。
  • 寒熱:『甲乙』に従います。
  • 面赤:『甲乙』『外台』の字順に従います。
  • 頰:『甲乙』『千金』に従います。
  • 項強:『医心』に従います。
  • 心中煩:『甲乙』『千金』に従います。

単位条文化

①風頭痛、鼻鼽衂、眉頭痛。
②目𥇀𥇀不明、悪風寒。(𥇀=⿰目芒)
③善嚏、泣出、目如欲脱。
④汗出寒熱、面赤頰中痛、項強不可左右顧。
⑤目系急、瘈瘲。
⑥痔痛。
⑦癲疾、互引反折、戴眼及眩、狂走不得臥、心中煩。
⑧小児癇発、目上挿。

①③④⑤と『甲乙』ではひとつの条文ですが、『医心』の字順に従い②が間に入ったので、分けて考えてみることにしました。おそらく外感熱病による症状として『甲乙』はひとつにまとめたと思われます。

①風頭痛、鼻鼽衂、眉頭痛。
風邪により頭が痛み、鼻水、鼻血が出て、眉頭が痛む。
風邪の侵襲によって生じている症状。副鼻腔炎が考えられるか。

②目𥇀𥇀不明、悪風寒。(𥇀=⿰目芒)
ものがはっきりと見えず、寒気がする。
悪風は風にあたると寒気がすること。悪寒は風にあたらなくても寒気を感じること。
①とひとつの条文ならば副鼻腔炎によるものと考えることができますが、この条文は『外台』でも独立しているので、分けて考えてみます。
副鼻腔炎以外に考えられるとしたら、アデノウイルスによる流行性角結膜炎などでしょうか。眼精疲労じゃ悪寒はないし。

追記2023.05.18
「悪風寒」は全身症状ではなく、目に関してか。目に風があたったり、冷気がふれることを嫌がる。

③善嚏、泣出、目如欲脱。
くしゃみがよく出て、涙が出て、目が飛び出るように感じる。
「目如欲脱」がまぁ困る。眼窩の感染症、あるいは副鼻腔や歯から波及した感染症、もしくは顔がむくんで眼球が突出してみえるか。
くしゃみ、涙が出るとなると花粉症、アレルギー性のものなんかも思い浮かびますが、目が飛び出るようにまでは感じないか。目がかゆくて目をこすったために、細菌感染で眼瞼に炎症が起きて、まぶたが腫れているのをみて、「目如欲脱」と感じた?

④汗出寒熱、面赤頰中痛、項強不可左右顧。
汗が出て悪寒発熱、顔が赤く頬が痛み、項が強ばって左右を振り返ることができない。
ぱっと思い浮かぶのは耳下腺炎。鼻水等の症状の記載がないから副鼻腔炎は違うかな。

⑤目系急、瘈瘲。
目の奥が痛み、けいれんする。
この「瘈瘲」は目に限ったことではなく、手足なり全身がけいれんすることだと思います。発作の前駆症状なり、脳に異常があるために目の奥に違和感を感じているのか。

⑥痔痛。
痔の痛み。
眉頭にあるツボを痔の痛みに使うのはおもしろいと思います。足太陽経でつながっていると考えているのだと思われます。百会(頭頂部)はよく使うかもしれませんが、攅竹も実際に効果があるのか試してみたいし、試してみてほしい。

⑦癲疾、互引反折、戴眼及眩、狂走不得臥、心中煩。
てんかん発作、身体がひきつり、反り返り、眼球が上転してめまいがあり、異常行動を起こして落ち着きがなく、穏やかでない。

⑧小児癇発、目上挿。
小児のひきつけ、てんかん発作を起こし、眼球が上転するもの。

⑤⑦⑧は脳の異常、てんかん発作に用いています。

①~⑤を条文を切って考えてみましたが、あまり自信がありません。この切り方が妥当なのか、あるいはやはり『甲乙』のようにひとつの条文として解釈した方がいいのか、そもそも『医心』の字順に従うのが妥当なのか、いろいろ考えることができてだんだんわからなってくる…

絲竹空

各書の主治条文

医心主治条文
 頭痛目中赤𥇀𥇀風癇目上𠚏痓反眼憎風寒狂煩満 (𥇀=⿰目芒)

甲乙主治条文
 痓反目懀1風●刺絲竹空主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 眩頭痛●刺絲竹空主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾狂煩満●刺絲竹空主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 小児臍風目上挿●剌絲竹空主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 眩頭痛互引目中赤𥇀𥇀臍風目上痓反目憎風癲疾狂煩満 (𥇀=⿰目芒)

参考

『千金』巻三十
 絲竹空前頂 主目上挿増風寒(頭面第一目病)

[1] 頭注:懀乃憎字誤

主治条文の比較

医心 頭痛  目中赤𥇀𥇀  風癇目上𠚏痓反眼憎風寒  狂煩満
甲乙眩頭痛       小児臍風目上挿痓反目懀風 癲疾狂煩満
外台眩頭痛互引目中赤𥇀𥇀  臍風目上 痓反目憎風 癲疾狂煩満
復元眩頭痛  目中赤𥇀𥇀小児臍風目上痓反目癲疾狂煩満
  • 𥇀𥇀:𥇀=⿰目芒
  • 小児臍風:『甲乙』に従います。
  • 挿:『医心』の「𠚏」=「臿」。「𢆍(挿の右側の字)」の異体字。「𢆍」と「挿」は同音。
  • 憎:『医心』『甲乙』頭注『外台』に従います。
  • 寒:『医心』『千金』に従い採ります。

単位条文化

①眩、頭痛。
②目中赤𥇀𥇀。
③小児臍風、目上挿。
④痓、反目、憎風寒。
⑤癲疾、狂、煩満。

①眩、頭痛。
風邪による症状。めまい、頭痛。

②目中赤𥇀𥇀。(𥇀=⿰目芒)
局所の症状。目が充血して物がぼやけて見える。

③小児臍風、目上挿。
新生児の破傷風。眼球が上転している。
臍帯の切断時に感染したものと思われます。

④痓、反目、憎風寒。
ひきつけを起こし、眼球が上転していて、風や寒さを嫌がる。
「憎風寒」はおそらくちょっとした刺激に対しても強く反応してしまうこと。

⑤癲疾、狂、煩満。
てんかん発作を起こし、精神が異常となり、もだえ苦しむ。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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