背中のツボ⑮―意舍・胃倉・肓門・志室・胞肓・秩辺

意舍・胃倉・肓門・志室・胞肓・秩辺

背中のツボ、15回目です。今回は意舍、胃倉、肓門、志室、胞肓、秩辺の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪
背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪
背中のツボ⑨―大腸兪・小腸兪
背中のツボ⑩―膀胱兪・中膂兪・白環兪
背中のツボ⑪―上髎・次髎
背中のツボ⑫―中髎・下髎・会陽
背中のツボ⑬―附分・魄戸・神堂
背中のツボ⑭―譩譆・膈関・魂門・陽綱

目次

背自第二椎両傍俠脊各三寸至二十一椎下両傍凡二十六穴第九

意舍

各書の主治条文

医心主治条文
 腹中満臚脹大便洩消渇身熱面目黄

甲乙主治条文
 腹満臚脹大便泄●意舍主之(巻之九 脾胃大腸受病発腹脹満腸中鳴短気第七)
 消渇身熱面〈千金云作目〉赤黄●意舍主之(巻之十一 五気溢発消渇黄癉第六)

外台主治条文
 腹満臚脹大便泄消渇身熱面目黄

参考

『千金』巻三十
 意舍主消渴身熱面目黄(心腹第二消渇)

主治条文の比較

医心腹中満臚脹大便洩消渇身熱面目黄
甲乙腹 満臚脹大便泄消渇身熱面赤黄
外台腹 満臚脹大便泄消渇身熱面目黄
千金        消渴身熱面目黄
復元満臚脹大便消渇身熱面
  • 中:『医心』に従い、採ります。
  • 泄:『甲乙』『外台』に従います。『医心』の「洩」は唐の皇帝、李世民の避諱で「泄」を改字したもの。
  • 目:『医心』『外台』『千金』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①腹中満臚脹、大便泄。
②消渇、身熱、面目黄。

①腹中満臚脹、大便泄。
お腹が膨満し、むくんで脹り、下痢がある。
「臚脹」は腹水のことと思われます(「三焦兪」参照)。②で黄疸がみられることから肝機能障害による腹水でしょうか。
また肝機能障害によりタンパク質が合成できず、低アルブミン血症となり、血管から水が出て腸管がむくみ、下痢となっているのかもしれません。

②消渇、身熱、面目黄。
のどが渇き、からだが熱し、顔と目が黄色い。
「消渇」は『諸病源候論』巻之五消渇候に「夫消渇者、渇不止、小便多是也」とあり、口渇、多尿を意味しています。『外台』巻十一消渇方、『医心』巻十二第一の『諸病源候論』の引用文は「夫消渇者、渇而不小便是也」と口渇、尿閉となっています。また『傷寒論』太陽病篇に「太陽病、発汗後、大汗出、胃中乾、煩躁不得眠、欲得飲水者、少少与飲之、令胃気和則愈。若脈浮、小便不利、微熱消渇者、五苓散主之」とあり、口渇だけを意味しています。現代の中医学では消渇は糖尿病のことで、多飮、多食、多尿となっています。『明堂』の書かれた当時、小便に関することを含むか含まないかについてはわかりませんが、少なくとも口渇のことではあったと思われます。

追記
『素問』奇病論(47)に
「帝曰。有病口甘者、病名為何。何以得之。
岐伯曰。此五気之溢也。名曰脾癉。夫五味入口、蔵於胃、脾為之行其精気。津液在脾、故令人口甘也。此肥美之所発也。此人必数食甘美而多肥也。肥者令人内熱。甘者令人中満、故其気上溢、転為消渇」
甘美なものを食べすぎて肥え、そのため内熱が生じ、口が渇く。
確かに糖尿病と思われますが、あくまで消渇が指しているのは口が渇くことと考えます。
口が甘く感じるのはケトン症のためか(追記2023.03.08)。

「面目黄」と黄疸がみられることから肝機能障害があります。おそらく腹水のように本来水がたまらないところに水がたまってしまい、血管内の水分が少なくなってのどの渇きがあると考えられます。「身熱」から熱があることによっても体内の水分が少なくなっています。

胃倉

各書の主治条文

医心主治条文
 臚脹水腫食飲不下悪寒不能俛仰也

甲乙主治条文
 臚脹水腫食飲不下多寒〈千金作悪含[1]〉●胃倉主之(巻之九 脾胃大腸受病発腹脹満腸中鳴短気第七)

外台主治条文
 臚脹水腫食飲不下多寒不能俛仰

参考

『千金』巻三十
 胃倉主水腫臚脹食飲不下悪寒

[1] 傍注:寒

主治条文の比較

医心臚脹水腫食飲不下悪寒不能俛仰也
甲乙臚脹水腫食飲不下多寒
外台臚脹水腫食飲不下多寒不能俛仰
千金水腫臚脹食飲不下悪寒
復元臚脹水腫食飲不下寒不能俛仰
  • 悪:『医心』『千金』に従います。

単位条文化

①臚脹水腫、食飲不下、悪寒。
②不能俛仰。

①臚脹水腫、食飲不下、悪寒。
むくんでお腹が脹り、飲食物が下りていかず、悪寒があります。
お腹に水がたまっているために胃が圧迫されて、食飲不下が生じていると思われます。
悪寒がすることから発熱があるかもしれません。最後に書かれていることから、腹水があってその後の発熱と思われます。腹水の感染症でしょうか。

②不能俛仰。
前後屈できない。
腹水があるからとかではなく、筋骨格系の問題でいいと思います。

肓門

各書の主治条文

医心主治条文
 心下大堅婦人乳餘疾

甲乙主治条文
 心下大堅●肓輸〈千金作肓門〉期門反[1]中管主之(肓輸ではなく肓門の誤り)(巻八 経絡受病人腸胃五臟積発伏梁息賁肥気痞気奔肫第二)
 婦人乳餘疾●肓門主之(巻之十二 婦人雑病第十)

外台主治条文
 心下大堅婦人乳餘疾

参考

『千金』巻三十
 肓門主心下大堅(心腹第二心病)
 肓門主乳餘疾(婦人病第八)

[1] 頭注:反乃及字誤

主治条文の比較

医心心下大堅婦人乳餘疾
甲乙心下大堅婦人乳餘疾
外台心下大堅婦人乳餘疾
復元心下大堅婦人乳餘疾

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①心下大堅。
②婦人乳餘疾。

①心下大堅。
心窩部が大いに堅くなる。
『医学入門』に「痞根専治痞塊。十三椎下各開三寸半」とあります。肓門なり痞根なり、この辺りはお腹の動きをよくするのに有効なのでしょう。

②婦人乳餘疾。
産後の病。
『諸病源候論』巻之四十三産後餘疾候に
「産後餘疾、由産労傷府蔵、血気不足、日月未満、而起早労役、虚損不復、為風邪所乗、令気力疲乏、肌肉柴瘦、若気冷入於腸胃、腸胃虚冷、時変下利、若入搏於血、則経水否渋、冷搏気血、亦令腹痛、隨府蔵虚處、乗虚傷之、変成諸疾。以其因産傷損、餘勢不復、致羸瘠疲頓、乍差乍甚、故謂産後餘疾也」
産後の病とは、出産によって臓腑が傷つき、気血が不足し、産後まだ日が経たないうちに労働して、体力が回復していないところに、邪気が侵入してくることで、やせ衰え、下利、無月経、あるいは腹痛などの症状が生じること。

①②を合わせて考えるとこのツボは、気血が不足し、身体が弱っているものに対して、腹部臓器、胃腸などの動きをよくすることで、身体を元気にすることができるのかもしれません。

参考 痞根

葦原検校の『鍼道発秘』では痞根がよく使われています。参考として載せておきます(参考 横田観風著『新版 鍼道発秘講義』日本の医学社 2006年 )。

2.活の鍼「先ず員利鍼にて、痞根、陽陵泉を強く刺すべし。又、百会より少し血を漏らすべし。必ず活くるなり」

3.中風の症「中風は、血気不足、風寒暑湿にやぶられて、中風する也。筋引きつり、痛み、或は萎え、すくみ、しびれなどし、或は目歪み等する類なり。先ず員利鍼にて手足を多く刺し、痞根、章門の辺り、穴所にかかわらず、肩、背中、浅く多く刺すべし。実なるものは、三稜鍼にて、百会の辺り、或いは手足、指の間、軽く血を出すべし。虚なるものは、手足の穴所に多く灸をすべし。必ず療治早ければ治するなり」

6.胸痛「是は、痞根、章門の辺りを深く刺して、其の鍼をねり、又、手足へ気を引くべし。或は肩、背中、項を軽く刺すべし。必ず癒ゆるなり」

12.疝気「先ず徹腹、章門、京門を刺すべし。引きつり、痛み強きはには、環跳の辺りを深く多く刺すべし。或は腰眼、委中、心下に強る(こわる)ものは、肩、項、両の手に引くべし。癒ゆる事妙なり」(徹腹は痞根より一椎分下方あたりのツボ。参考までに)

13.痢病おなじく泄瀉(腹の下ることなり)「是は、天枢、気海、中脘を刺すべし。重くして渋るものは、痞根、陰陵泉をとる。又、肩を刺して妙あり」

18.霍乱「はやく吐き、はやく下るを良しとす。痞根、章門、足に引くべし。痛み強きは膏肓の辺、並びに背の七、九辺りを深く刺してめぐらすべし。吐かするには塩湯を生温(なまぬる)にして飲ますべし。又、中脘、鳩尾の辺にて、鍼先上に向けて気をおすべし。すぐに吐くなり。又、手足強く冷ゆるには、灸をすべし。吐かざるものは承山を刺す。取り様、口伝あり。下痢して癒ゆべし」

20.大便「若し元気衰え、大便久しく下らば、気海を取るべし。又、徹腹を深く刺して、止むるに妙あり。大便結せば、大腸の兪、並びに承山を刺して効あり」(参考までに)

26.青筋(俗に早打肩と云う)「是は、俄かに悪血攻め上りて、一時のうちに死するなり。先ず三稜鍼にて百会、並びに両の眉の真ん中、項の左右、又、肩、背中のうちを穴所にかかわらず刺して、血を漏らすべし。又、員利鍼、手足に引くべし。徹腹、章門、気海を刺すべし」(参考までに)

28.瘧疾(おこり)「瘧疾(おこり)は、邪気、其の所を去らず、故に営衛の流れを止む。必ず時を以て、大熱、大寒をなす。血気強き人は毎日起こる。弱き人は一日おき或いは二日三日おきに起こる。天柱、大椎、合谷、陽陵泉を員利鍼にて強く刺すべし。百会より三稜鍼にて少し血を漏らすによろし。痞根を深く刺すべし。瘧疾の鍼、是を用いる時は寒気の起こらぬ半時ばかり前に先ず熱き粥の湯を飲ませ、多く衣を覆いて、鍼を用ゆ。もっとも陽陵泉を刺して、稲妻の如きものを四、五度めぐらして、是をあたたむる時は、必ず寒きなくして熱をなす。すなわち癒ゆるなり。是を療治する時、早からず、遅からず、寒気来たらぬ前に程よく施すべし。其の効すみやかなり」

31.難産の鍼「もし産すること遅く、難産とならば、子安の鍼を用ゆべし。痞根、章門、京門を深く刺すべし。又、腎兪、大腸兪、陰陵泉、三陰交に引くべし。合谷強く刺すべし。後産下りざるには巨闕、大横、水道を刺すべし。又、徹腹を深く刺して下りる事妙なり」

35.五疳「五疳ともに脾胃の虚なり。章門、痞根、手足に引くべし。百会を刺して気を漏らすべし」

36.吐乳(小児の病)「小児、乳を吐かば、不容、中脘、章門、痞根を刺すべし。或いは百会、手足に引く。妙なり」

42.肝症「すべて気の滞りより生ず。或は熱し、或は寒し、手足しびれ、筋引きつり、其の甚だしきに至っては、気迫って、もの言うる事あたわぬなり。項、肩、背のうちを多く刺して、気をめぐらし、後、痞根、章門を深く刺し、手足も強く引くべし。皆、員利鍼を以てすべし。中脘、粱門、気海、毫鍼にて気をおさむべし」

志室

各書の主治条文

医心主治条文
 腰痛脊急脇下満少腹中堅也

甲乙主治条文
 腰痛脊急脇中満小腹堅急●至窒[1]主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 腰痛脊急脅下満少腹堅急

[1] 頭注:他本至窒作志室

主治条文の比較

医心腰痛脊急脇下満少腹中堅 也
甲乙腰痛脊急脇中満小腹 堅急
外台腰痛脊急脅下満少腹 堅急
復元腰痛脊急脇満少腹
  • 下:『医心』『外台』に従います。
  • 中:『医心』に従い、採ります。
  • 急:『甲乙』『外台』に従い採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①腰痛脊急、脇下満、少腹中堅急。

腰が痛み、背がひきつり、側腹部が脹り、下腹部が堅くひきつる。
局所の痛み。とくに泌尿器症状等の記載はなし。筋骨格系?腰からだんだんと前側に痛みがひろがってきたのでしょうか。

胞肓

各書の主治条文

医心主治条文
 腰脊痛悪寒少腹満堅𤸇閇下重不得小便

甲乙主治条文
 腰脊痛悪風少腹満堅𤸇閉下重不得小便●胞肓主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 腰脊痛悪寒少腹満堅𤸇閉下重不得小便以手按之則欲小便澁而不得出肩上熱手足小指外側及脛踝後皆熱若脉陷取委中央

参考

『千金』巻三十
 包肓秩邊主𤸇閉下重不得小便(心腹第二大小便病)

主治条文の比較

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医心腰脊痛悪寒少腹満堅𤸇閇下重不得小便
甲乙腰脊痛悪風少腹満堅𤸇閉下重不得小便
外台腰脊痛悪寒少腹満堅𤸇閉下重不得小便以手按之則欲小便澁而不得出肩上熱手足小指外側及脛踝後皆熱若脉陷取委中央
復元腰脊痛悪少腹満堅𤸇下重不得小便
  • 寒:『医心』『外台』『医学綱目』巻二十八『甲乙』引用文に従います。
  • 閉:『甲乙』『外台』『千金』に従います。『医心』の「閇」は「閉」の異体字。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①腰脊痛、悪寒、少腹満堅、𤸇閉下重、不得小便。

腰が痛み、悪寒がし、下腹部が膨満し堅く、小便が出にくく下腹部が重く感じ、小便が出ない。
腎盂腎炎などの上部尿路感染症でしょうか。

秩辺

各書の主治条文

医心主治条文
 腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便

甲乙主治条文
 腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便●秩邊主之(巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八)

外台主治条文
 腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便

主治条文の比較

医心腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便
甲乙腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便
外台腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便
復元腰痛骶寒俛仰急難陰痛下重不得小便

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①腰痛骶寒、俛仰急難、陰痛下重、不得小便。

腰が痛み、仙骨が冷え、腰仙部がひきつって前後屈がしにくく、陰部が痛み、下腹部が重く、小便が出ない。
胞肓と同様に腎盂腎炎などの上部尿路感染症でしょうか。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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