顔のツボ⑤―迎香・巨髎・禾髎

顔のツボの５回目です。今回は、鼻の近辺にある迎香、巨髎、禾髎の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

顔のツボ①―懸顱・頷厭・懸釐
顔のツボ②―陽白・攅竹・絲竹空
顔のツボ③―精明・瞳子髎・承泣
顔のツボ④―四白・顴髎・素髎

面凡三十九穴第十

迎香

各書の主治条文

医心主治条文
　鼻不利窒洞気塞喎噼多洟鼽衂有㿈

甲乙主治条文
　鼻鼽不利窒洞気塞喎僻多洟鼽衂有癰●迎香主之（巻之十二　血溢発衂第七）

外台主治条文
　鼻鼽不利窒洞気寒喎僻多涕鼻衂有齆不宜灸

主治条文の比較

• 噼：『医心』に従います。
• 癰：『甲乙』『外台』に従います。「㿈」は「癰」の異体字。
• 不宜灸：『甲乙』巻三「刺入三分」とあるのみで、施灸壮数については記していません。『医心』は「灸三壮」とあります。『甲乙』巻五 鍼灸禁忌第一下には迎香の記述はありません。

単位条文化

①鼻鼽不利、窒洞気塞。
②喎噼。
③多洟。
④鼽衂有癰。

『甲乙』ではひとつの条文となっていますが、②喎僻を顔面神経麻痺と解釈すると、顔面神経麻痺が鼻づまり、鼻水と関係するかといったらあまりないと思われるので、このように細かく分けてみました。

①鼻鼽不利、窒洞気塞。
鼻づまり、鼻の通りが悪い。

②喎噼。
顔面神経麻痺。

③多洟。
鼻水がよく出る。

④鼽衂有癰。
鼻血が出て、鼻の中にできものがある。

巨髎

各書の主治条文

医心主治条文
　面目悪風翳膜口噼青盲

甲乙主治条文
　面目悪風寒䪼腫癰¹痛招搖視瞻瘈瘲口僻●巨窌²主之（巻之十　陽受病発風第二下）
　青盲無所見遠視𥉂𥉂目中淫膚白膜覆●瞳子目窓³主之（巻之十二　足太陽陽明手少陽脈動発目病第四）

外台主治条文
　面目悪風寒䪼腫癰痛招揺視瞻瘈瘲口僻青盲無所見遠視𥇀𥇀目中淫膚白膜覆瞳子　（𥇀=⿰目芒）

[1] 頭注：他本癰作臃
[2] 「窌」=「髎」
[3] 瞳子窌巨窌の誤り　『医心』『外台』“瞳子窌”“巨窌”の主治条文、『甲乙』の穴の配列規則とも合う

主治条文の比較

• 噼：『医心』に従います。
• 𥇀𥇀：𥇀=⿰目芒。「𥇀」と「𥉂」は同義。
• 目中淫膚白膜覆：『医心』では「翳膜」。『甲乙』『外台』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の２条文になります。

①面目悪風寒、䪼腫癰痛、招搖視瞻、瘈瘲口噼。
②青盲無所見、遠視𥇀𥇀、目中淫膚白膜覆。（𥇀=⿰目芒）

『医心』の「翳膜」の字順に従えば、①の条文をどこかしらで分けて考えることもできますが、どこで分けたらいいかわからないので、ここでは『甲乙』に従って考えました。

①面目悪風寒、䪼腫癰痛、招搖視瞻、瘈瘲口噼。
顔や目が風にあたったり、寒さにあうのを嫌がり、頬が腫れ痛み、視界が揺れ動き、痙攣して口が歪む。
「面目悪風寒」と「面目」に限定しています。頬も腫れて痛みがあります。三叉神経痛では頬は腫れないし、頬部の蜂窩織炎でしょうか。蜂窩織炎が悪化して全身症状として、「招搖視瞻、瘈瘲口噼」の症状が生じるようになったか。

②青盲無所見、遠視𥇀𥇀、目中淫膚白膜覆。（𥇀=⿰目芒）
緑内障でものが見えない。遠くがぼやけて見える。黒目が白い膜で覆われる。
「瞳子髎」を参照。

「巨髎」は鼻の近くにあるツボにかかわらず、鼻の症状がみられません。目の症状の方が目立ちます。『甲乙』巻三には「在俠鼻孔傍八分直瞳子」とあり、『千金』『外台』『医心』もそれを引用しています。「直瞳子」とあるように、瞳孔線上にあるという意識、認識の方が強いためでしょうか。

禾髎

各書の主治条文

医心主治条文
　鼻窒口噼清涕不止鼽衂有㿈

甲乙主治条文
　鼻窒口僻清洟出不可止鼽衂有癰●禾窌¹主之（巻之十二　血溢発衂第七）

外台主治条文
　鼻窒口僻清涕出不可止鼽衂有癰口噤不可開

[1] 「窌」=「髎」

主治条文の比較

• 噼：『医心』に従います。
• 洟：『甲乙』に従います。
• 癰：『甲乙』『外台』に従います。

単位条文化

①鼻窒。
②口噼。
③清洟出不可止。
④鼽衂有癰。

『甲乙』ではひとつの条文となっていますが、「迎香」の時と同様に、②喎僻を顔面神経麻痺と解釈すると、顔面神経麻痺が鼻づまり、鼻水と関係するかといったらあまりないと思われるので、このように細かく分けてみました。

①鼻窒。
鼻づまり。

②口噼。
顔面神経麻痺。

③清洟出不可止。
鼻水が出て止まらない。
無色透明のサラサラとした鼻水と思われます。

④鼽衂有癰。
鼻血が出て、鼻の中にできものがある。

「迎香」の主治症とほぼ同じです。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。