顔のツボ③―精明・瞳子髎・承泣

顔のツボの3回目です。今回は、目頭にある精明(睛明)、目尻にある瞳子髎、目の下にある承泣の『明堂』主治条文の復元をみていきます。
面凡三十九穴第十
精明
『医心』『千金』『素問』脈要精微論(17)王冰注は「精明」、『甲乙』『外台』は「睛明」。
各書の主治条文
医心主治条文
目涙出憎風寒頭痛目中眵䁾内眥赤痛目不明生膚白翳
甲乙主治条文
目不明悪風目涙出僧寒目痛目眩内眥赤痛目𥉂𥉂無所見眥痒痛淫膚白翳●睛明主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
外台主治条文
目不明悪風目涙出憎寒頭痛目眩瞢内眥赤痛目𥇀𥇀無所見眥痒痛淫膚白瞖 (𥇀=⿰目芒)
参考
『千金』巻六上
目遠視不明悪風目涙出憎寒頭痛目眩瞢内眥赤痛遠視䀮䀮無見眥癢痛淫膚白瞖●精明主之
『千金』巻三十
精明齗交承泣四白風池巨窌瞳子窌上星肝輸 主目涙出多眵䁾内眥赤痛癢生白膚瞖(頭面第一目病)
主治条文の比較
医心 | 目涙出憎風寒頭痛 目中眵䁾内眥赤痛 目不明 生膚白翳 |
甲乙 | 目 不明悪風目涙出僧 寒目痛目眩 内眥赤痛 目𥉂𥉂無所見眥痒痛淫膚白翳 |
外台 | 目 不明悪風目涙出憎 寒頭痛目眩瞢 内眥赤痛 目𥇀𥇀無所見眥痒痛淫膚白瞖 |
千金1 | 目遠視不明悪風目涙出憎 寒頭痛目眩瞢 内眥赤痛遠視 䀮䀮無 見眥癢痛淫膚白瞖 |
千金2 | 目涙出 多眵䁾内眥赤痛 癢 生白膚瞖 |
復元 | 目 不明悪風目涙出憎 寒頭痛目眩瞢目中眵䁾内眥赤痛 目𥇀𥇀無所見眥痒痛生膚白翳 |
- 目不明:『医心』では後方に置かれていますが、『甲乙』『外台』の字順に従いました。
- 憎寒:『医心』は「憎風寒」となっています。これはおそらく「悪風」と「憎寒」を合わせたもの。合わせることで『医心』は「悪風」は引用せずに省略したと思われます。
- 瞢:『外台』『千金』巻六に従い採ります。
- 生:『医心』『千金』に従います。
- 翳:『医心』『甲乙』に従います。
単位条文化
①目不明、悪風、目涙出。
②憎寒、頭痛、目眩瞢。
③目中眵䁾、内眥赤痛、目𥇀𥇀無所見、眥痒痛、生膚白翳。(𥇀=⿰目芒)
①目不明、悪風、目涙出。
ものがはっきりと見えず、風にあたるのを嫌がり、涙が出る。
風にあたるのを嫌がるのは、おそらく風にあたると涙が出てくるから。顔面神経麻痺などにより、まぶたが閉じず、目が乾燥していると思われます。
②憎寒、頭痛、目眩瞢。
寒さを嫌がり、頭痛がし、めまいがしてものが見えない。
「瞢」は『説文解字』には「瞢 目不明也」とあります。
「憎寒」相当悪寒がひどいのか。ウイルス、細菌感染などにより脳炎、髄膜炎、視神経炎などが引き起こされたか?
③目中眵䁾、内眥赤痛、目𥇀𥇀無所見、眥痒痛、生膚白翳。(𥇀=⿰目芒)
目やにが出て、内眼角が赤くなって痛む。視界がぼんやりしてものが見えない。目がかゆく痛む。黒目が白い膜で覆われる。
おそらく目に関する症状をひとつの条文にしています。
「眵䁾」は目やに。細菌やウイルス感染によるものと思われます。
「生膚白翳」は翼状片あるいは白内障。
瞳子髎
各書の主治条文
医心主治条文
青盲无所見遠視𥇀𥇀目中生膚白翳 (𥇀=⿰目芒)
甲乙主治条文
青盲無所見遠視𥉂𥉂目中淫膚白膜覆●瞳子目窓1主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
外台主治条文
青盲無見遠視𥇀𥇀目中膚瞖白膜 (𥇀=⿰目芒)
参考
『千金』巻六上
青盲無所見遠視䀮䀮目中淫膚白幕覆瞳子巨窌1主之
[1] 瞳子窌巨窌の誤り 『医心』『外台』「瞳子窌」「巨窌」の主治条文、『甲乙』の穴の配列規則とも合う。「窌」=「髎」
主治条文の比較
医心 | 青盲无所見遠視𥇀𥇀目中生膚白翳 |
甲乙 | 青盲無所見遠視𥉂𥉂目中淫膚白膜覆 |
外台 | 青盲無 見遠視𥇀𥇀目中膚瞖白膜 |
千金 | 青盲無所見遠視䀮䀮目中淫膚白幕覆 |
復元 | 青盲無所見遠視𥇀𥇀目中生膚白翳 |
- 𥇀𥇀:𥇀=⿰目芒
- 生膚白翳:『医心』に従う。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①青盲無所見、遠視𥇀𥇀、目中生膚白翳。(𥇀=⿰目芒)
緑内障でものが見えない。遠くがぼやけて見える。黒目が白い膜で覆われる。
おそらく目に関する症状をまとめてひとつの条文にしています。
「青盲」は、「承光」にも書かれていましたが、緑内障に相当するものと思われます。『諸病源候論』巻二十八に「清盲者謂、眼本無異、瞳子黒白分明、直不見物耳」とあります。「清」は「青」と通じます。外見上異常はないが、とにかくものが見えない。
「目中生膚白翳」は翼状片あるいは白内障。
承泣
各書の主治条文
医心主治条文
目不明涙出眵(䁾)瞳子痒遠視𥇀𥇀喎噼 (𥇀=⿰目芒)
甲乙主治条文
目不明涙出目眩瞀瞳子痒遠視𥉂𥉂昏夜無見目瞤動與項口相参相引喎僻口不能言●刺承泣(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
外台主治条文
目不明涙出目眩瞢瞳子痒遠視𥇀𥇀昬夜無所見目瞤動與項口参相引喎僻口不能言 (𥇀=⿰目芒)
参考
『千金』巻三十
承泣 主目瞤動與項口相引〈甲乙云目不明涙出目眩瞢瞳子癢遠視䀮䀮昏夜無見目瞤動与項口参相引喎僻口不能言〉(頭面第一目病)
主治条文の比較
医心 | 目不明涙出 眵䁾瞳子痒遠視𥇀𥇀 喎噼 |
甲乙 | 目不明涙出目眩瞀 瞳子痒遠視𥉂𥉂昏夜無 見目瞤動與項口相参相引喎僻口不能言 |
外台 | 目不明涙出目眩瞢 瞳子痒遠視𥇀𥇀昬夜無所見目瞤動與項口 参相引喎僻口不能言 |
復元 | 目不明涙出目眩瞢眵䁾瞳子痒遠視𥇀𥇀昏夜無所見目瞤動與項口 参相引喎噼口不能言 |
- 瞢:『外台』『千金』に従います。
- 眵䁾:『医心』に従い採ります。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①目不明、涙出、目眩瞢、眵䁾、瞳子痒、遠視𥇀𥇀、昏夜無所見、目瞤動與項口参相引、喎噼、口不能言。(𥇀=⿰目芒)
これまた目に関する症状をとにかくまとめているだけの印象。なので次のように分けてみました。
Ⅰ 目不明、涙出。
Ⅱ 目眩瞢。
Ⅲ 眵䁾、瞳子痒。
Ⅳ 遠視𥇀𥇀、昏夜無所見。(𥇀=⿰目芒)
Ⅴ 目瞤動與項口参相引。
Ⅵ 喎噼、口不能言。
Ⅰ 目不明、涙出。
ものが見えず、涙が出る。
何が原因でなっているかはわかりませんが、上記の症状。感染かなんかで、鼻涙管が詰まった?あるいはアレルギーや目の乾燥により、刺激に対して過敏になっている?
Ⅱ 目眩瞢。
めまいがしてものが見えない。
これまた原因不明、症状のみ。貧血、立ちくらみ?
Ⅲ 眵䁾、瞳子痒。
目やにが出て、目がかゆい。
細菌やウイルスの感染による結膜炎か。現代だったら花粉症といったアレルギー性にも使えるかも。
Ⅳ 遠視𥇀𥇀、昏夜無所見。(𥇀=⿰目芒)
遠くぼやけて見え、暗くなると見えない。
視力低下なのですが、現代のような近視にも使えるのかなー?
Ⅴ 目瞤動與項口参相引。
目がピクピクとけいれんし、項部や口にまで及んでひきつる。
顔面けいれん。
ただけいれんが項部にまで及ぶかがよくわからない。「項」ではなく「頷」あるいは「頬」の間違い?
Ⅵ 喎噼、口不能言。
顔が歪んで、しゃべりにくい。
顔面神経麻痺。
けいれんでしゃべりにくさまで出るかちょっとわからなかったので、麻痺によるものと考えました。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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