胸のツボ①―天突・璇璣・華蓋

天突・璇璣・華蓋

今回から胸のツボです。胸骨の上縁にある天突、胸骨上にある璇璣、華蓋の『明堂』復元主治条文をみていきます。

頭のツボ⑩―頭のツボのまとめ
背中のツボ⑯―背中のツボのまとめ
顔と耳まわりのツボのまとめ
頸のツボ④―頸のツボのまとめ
肩のツボ④―肩のツボのまとめ

目次

胸自天突循任脈下行中庭凡七穴第十四

天突

各書の主治条文

医心主治条文
 欬逆上気喘暴瘖不能言喉痺咽中急乾頸腫肩痛胸満腹皮熱心痛頭痛

甲乙主治条文
 欬上気喘暴瘖不能言及舌下挾縫青脈頸有大気喉痺咽中乾急不得息喉中鳴翕翕寒熱項腫肩痛胸満腹皮熱衂気短哽心嘃1隠軫頭痛面皮赤熱身肉尽不仁●天突主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通●水突2主之〈一作天突〉(水突の主治条文)(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
 喉痛瘖〈一作飯〉不能言●天突3主之(天窓の主治条文)(巻之十二 寒気客於厭発喑不能言第二)

外台主治条文
 欬上気喘暴瘖不能言及舌下俠青縫脈頸有大気喉痺咽中乾急不能息喉中鳴翕翕寒熱頸腫肩痛胸満腹皮熱衂気鯁心痛隠軫頭痛面皮赤熱身肉尽不仁

参考
『千金』巻三十
 天突 主俠舌縫脈青(頭面第一舌病)
 天突 主喉痺咽乾急(頭面第一喉痺)

[1] 頭注:嘃乃痛字誤
[2] 原文:窓
[3] 天窓の誤り 『医心』『外台』「天窓」「天突」の主治条文、『甲乙』のツボの配列規則とも合う

主治条文の比較

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医心欬逆上気喘暴瘖不能言           喉痺咽中急乾          頸腫肩痛胸満腹皮熱    心痛  頭痛
甲乙欬 上気喘暴瘖不能言及舌下挾縫青脈頸有大気喉痺咽中乾急不得息喉中鳴翕翕寒熱項腫肩痛胸満腹皮熱衂気短哽心嘃隠軫頭痛面皮赤熱身肉尽不仁
外台欬 上気喘暴瘖不能言及舌下俠青縫脈頸有大気喉痺咽中乾急不能息喉中鳴翕翕寒熱頸腫肩痛胸満腹皮熱衂気 鯁心痛隠軫頭痛面皮赤熱身肉尽不仁
復元上気喘暴瘖不能言及舌下挾縫青脈頸有大気喉痺咽中乾急不得息喉中鳴翕翕寒熱腫肩痛胸満腹皮熱衂 哽心痛隠軫頭痛面皮赤熱身肉尽不仁
  • 逆:『医心』に従い採ります。
  • 及舌下挾縫青脈:この「舌下挾縫青脈」は、「扶突」の「與舌本出血」と同様に、症状のことではなく、取穴、治療部位のことと思われます。「天突」と「舌下挾縫青脈」を刺せということ。「舌下挾縫青脈」は舌下静脈のことであろう。
  • 乾急:『甲乙』『外台』『千金』に従います。
  • 頸:『医心』『外台』に従います。
  • 気:この後、『甲乙』だと「短」がありますが、「気哽」でひとつの病症名と思われるので採らず(参照「扶突」)。

単位条文化

①欬逆上気、喘、暴瘖不能言。
②頸有大気、喉痺、咽中乾急、不得息、喉中鳴翕翕。
③寒熱、頸腫、肩痛、胸満、腹皮熱、衂、気哽、心痛、隠軫、頭痛、面皮赤熱、身肉尽不仁。

「及舌下挾縫青脈」とあり、もともと「欬逆上気喘暴瘖不能言刺天突及舌下挾縫青脈」だったと考えられるので、①のように分けました。②はのどの症状、③は寒熱の症状(感染症)と考え、このように分けました。

①欬逆上気、喘、暴瘖不能言。

咳込み、呼吸が苦しく、急に声が出にくくなる。

②頸有大気、喉痺、咽中乾急、不得息、喉中鳴翕翕。

頸部に腫れがあり、のどが痛み、のどが乾燥して突っ張り、息ができず、のどから音が鳴る。

「翕翕」はのどから鳴っている音のことを表していると思われます。

③寒熱、頸腫、肩痛、胸満、腹皮熱、衂、気哽、心痛、隠軫、頭痛、面皮赤熱、身肉尽不仁。

悪寒発熱、頸が腫れ、肩が痛み、胸が苦しく、腹の皮膚に熱感があり、鼻血が出て、のどが塞がり、胸が痛み、皮疹が出て、頭痛がし、顔面が紅潮して熱感があり、身体全体の知覚が鈍麻する。

風湿邪に侵されて全身症状が出ていると思われるのですが、今で言うところの何なのかはわかりません。
悪寒発熱(寒熱)、頸部リンパ節腫脹(頸腫)が初期症状であろうことから、もともと何かしらの感染症の類でしょうか。胸痛(胸満、心痛)、のどの炎症(気哽)、全身に蕁麻疹様のもの(腹皮熱、隠軫、面皮赤熱)が出ています。溶連菌感染症から悪化してリウマチ熱?「肩痛」はリンパ節の腫脹によるものか、あるいは発熱に伴う関節痛か。最後の「身肉尽不仁」がリウマチ熱と合いません。ギラン・バレー症候群?
頸腫が初期症状としてあったことから、「天突」を使うと考えられます。

璇璣

『医心』『千金』は「旋機」

各書の主治条文

医心主治条文
 胸満痛喉痺咽㿈水漿不下矣

甲乙主治条文
 胸満痛●璇璣主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)
 喉痺咽瘇1水漿不下●㻢2璣主之(巻之十二 手足陽明少陽脈動発喉痺咽痛第八)

外台主治条文
 胸満痛喉痺咽癰水漿不下

参考
『千金』巻三十
 旋機鳩尾 主喉痺咽腫水漿不下(頭面第一喉痺)
『医学綱目』巻十五 喉痺 『甲乙』引文
 喉痺咽腫水漿不下璇璣主之

[1] 医統本は瘇を腫に作る
[2] 頭注:㻢乃璇字誤

主治条文の比較

医心胸満痛喉痺咽㿈水漿不下矣
甲乙胸満痛喉痺咽瘇水漿不下
外台胸満痛喉痺咽癰水漿不下
復元胸満痛喉痺咽水漿不下
  • 腫:医統本、『千金』『医学綱目』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①胸満痛。
②喉痺、咽癰水漿不下。

①胸満痛。

胸が苦しく痛む。

②喉痺、咽腫水漿不下。

のどが痛み、のどが腫れて水を飲もうとしてものどで引っかかって飲めない。

胸、のどといった局所、近隣の症状に使われています。

華蓋

各書の主治条文

医心主治条文
 胸満𣛰満骨痛引胸中欬逆上気喘不能言矣

甲乙主治条文
 欬逆上気喘不能之1●華蓋主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
 胸脇榰満痛引胸中●華蓋主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)

外台主治条文
 胸満支満痛引胸中欬逆上気喘不能言

[1] 頭注:不能言之字誤

主治条文の比較

医心胸満𣛰満骨痛引胸中欬逆上気喘不能言矣
甲乙胸脇榰満 痛引胸中欬逆上気喘不能之
外台胸満支満 痛引胸中欬逆上気喘不能言
復元榰満痛引胸中欬逆上気喘不能
  • 脇:『甲乙』に従います。
  • 骨:『医心』に従い採ります。
  • 言:『医心』『外台』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると2条文になりますが、紫宮や玉堂など、他の胸のツボを参考にして1条文としました。

①胸脇榰満、骨痛引胸中、欬逆上気、喘、不能言。

胸、脇がつかえて苦しく、肋骨、胸骨が痛み、その痛みが胸にひびき、咳が出て、呼吸が苦しくてしゃべりにくい。

「骨痛引胸中」胸の痛みなのでしょうが、具体的にどこが痛むのか、どんな時に痛いのか、どんな痛みなのか等情報が少ないので、何が原因によるものかわかりません。咳、息苦しさがあることから、肺炎なり胸膜炎なりか?でも「骨痛」という表現を果たしてするか?

何にせよ、胸部、呼吸器症状に使われています。

天突、璇璣はのどの症状や胸部症状(呼吸器含む)といった局所、近隣部の症状に使われています。天突は全身症状にも使われていますが、初期症状として頸部の腫れがあることによると思われます。
華蓋も局所、近隣部の胸部症状に使われています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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