頸のツボ④―頸のツボのまとめ

頸のツボのまとめ

今回は、復元した頸のツボの各主治症を比較して、頸のツボのまとめをしたいと思います。

頸のツボ①―廉泉・人迎・天窓
頸のツボ②―天牖・天容・水突
頸のツボ③―気舎・扶突・天鼎

目次

主治症の比較

復元した主治条文の各症状を身体の各部位に分類して、表を作成し、比較します。部位は全身、精神、頭、面、頸、項、上肢、胸脇、腹、背、腰臀、下肢としています。咽喉、胸腔、腹腔の症状はそれぞれ頸、胸脇、腹に、熱病、瘧、痙攣は全身に分類しています。狂、癲疾はおそらく高熱で脳に影響が出ていると考えられますが、精神に分類しました。その他適宜分類しています。

また、下線を引いているものは、複数の部位の記載があるものです。各部位に記しておき、着目する部位に下線を引いています。

ひとつひとつの主治条文をみて、どんな病態なのかを考えるのも大事だと思いますが、このように症状を部位ごとに分類することで、どのツボを使うかは、どこの症状なのかによって決まる傾向にあることがわかるのではないかと考えています。どこの部位の記述が多いかで、だいたいの傾向だけでも把握はできると思います。

頸凡十七穴第十二

廉泉人迎天窓天牖天容水突気舎扶突天鼎
全身陽逆汗出及漏寒熱寒熱
精神
頭痛頷痛 風眩
舌下腫難以語言 舌瘲涎唾自出 歯噤耳聾無聞 頬痛腫 耳鳴暴聾気蒙瞀耳目不明 頭痛 涙出 洞鼻不知香臭耳聾䏆䏆無所聞
喉痛瘖不能言癧適頸有大気 喉痺喉痺 項癰腫不能言 咽腫 癭咽喉癰腫喉痺 瘤癭咽中喝喝 喉鳴 暴悟瘖気哽暴瘖気哽喉痺咽腫不得息飲食不下
肩痛引癰腫不能言
上肢痛引項背痛肩痛不可挙肩腫不得顧
胸脇欬逆上気喘息嘔沫胸満呼吸喘喝窮屈窘不得息欬逆上気唾沫 胸中満不得息窮屈欬逆上気 呼吸短気 喘息不通欬逆上気欬逆上気 喘息
霍乱疝積
腰臀
下肢

上記の表をPDFにしたものです↓ 印刷して見た方が見やすいかも

廉泉、人迎を除いて、頸のツボはのどの腫れや痛み、リンパ節の腫れといった頸部を中心とした局所の症状および呼吸器症状に使われています。
廉泉は舌の症状と呼吸器症状に使われていますが、廉泉で考察したようにこの廉泉は「舌下両脈」のことと思われます。
人迎は陽を代表する動脈拍動部だからか、呼吸器症状だけでなく「陽逆」といった陽気の乱れ(頭痛と霍乱はそれによる症状。おそらく熱射病)に使われています。
それ以外に特殊なものとして、天窓、天牖、天容は難聴や耳鳴といった耳の症状や、肩の痛みに対しても使わわています。

ツボの記載順序

頸のツボの概略位置
頸のツボの概略位置(廉泉、天鼎の位置は『甲乙』巻之三による)

廉泉、人迎の順番はいいとして、その次が天窓、天牖、天容と横に行って上がってまた横に行って、それから水突、気舎、扶突、天鼎の順番になっています。水突から天鼎の部分は二列に分けて、上から下の順番にしていると思われます。ただなぜ天窓、天牖、天容が人迎の後に続いて、この順番なのでしょうか。

『霊枢』本輸(02)および根結(05)には次のように記載があります。

缺盆之中.任脉也.名曰天突.一.
次任脈側之動脉.足陽明也.名曰人迎.二.
次脈.手陽明也.名曰扶突.三.
次脈.手太陽也.名曰天窓.四.
次脈.足少陽也.名曰天容.五.
次脈.手少陽也.名曰天牖.六.
次脈.足太陽也.名曰天柱.七.
次脈.頸中央之脈.督脉也.名曰風府.
腋内動脈.手太陰也.名曰天府.
腋下三寸.手心主也.名曰天池.

『霊枢』本輸(02)

足太陽.根于至陰.溜于京骨.注于崑崙.入于天柱飛揚也.
足少陽.根于竅陰.溜于丘墟.注于陽輔.入于天容光明也.
足陽明.根于厲兌.溜于衝陽.注于下陵.入于人迎豊隆也.
手太陽.根于少澤.溜于陽谷.注于少海.入于天窓支正也.
手少陽.根于関衝.溜于陽池.注于支溝.入于天牖外関也.
手陽明.根于商陽.溜于合谷.注于陽谿.入于扶突偏歴也.

『霊枢』根結(05)

このように天窓、天牖、天容は人迎と並んで重要視されていたことがわかります。扶突もありますが、「天」の字の有無、主治症の内容から、この3つのツボがより重視されていたと思われます。そのため人迎に続いて書かれたと考えられます。

ではなぜ天窓、天牖、天容の順番なのか。

『甲乙』巻之三のツボの位置に関する条文をみますと、天窓には「動脈應手」(『医心』同、『千金』『外台』作「動應手」)とあります。天窓は動脈拍動部であることから、3つのツボのなかでもより重視されたと考えられます。

次に天牖、天容ですが、上記の『霊枢』をみますと、天牖は手少陽、天容は足少陽であることがわかります。
『甲乙』巻之三では手の陰経、陽経、足の陰経、陽経の順にツボが記載されています。したがって手少陽の天牖、足少陽の天容の順番となっているのだと考えられます。

ちなみに天容は現行の教科書では手太陽に帰属しています。これは『銅人腧穴針灸図経』の影響と思われます。さらにさかのぼれば、『素問』病能論(46)の王冰注に「少陽之動.動於曲頬下.是謂天窓天牖之分位也.若巨陽之動.動於項両傍大筋陥者中.是謂天柱天容之分位也」とあります。(参考 黄龍祥『中国針灸学術史大綱[増修版]』知音出版社 2002年 p537)
『甲乙』巻之三、『外台』では手少陽に帰属しています。もしそうならば天牖、天容ともに手少陽となり、記載する順序としては水突~天鼎のように、前(腹側)から後(背側)にすると思われるので天容、天牖の順になるはずです。でも実際はそうなっていないので、やはり天容は足少陽に帰属させるのが良いのではないかと考えます。

小結

人迎を除いて、頸のツボは局所の症状と呼吸器症状に使われています。
人迎は陽を代表する動脈拍動部として陽気の乱れに使われています。
より頭部に近い「天」のつくツボである天窓、天牖、天容は首から上の症状と肩の痛みにも使われています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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