頸のツボ③―気舎・扶突・天鼎

気舎・扶突・天鼎

頸のツボの3回目です。今回は鎖骨内端にある気舎、頸の横にある扶突、鎖骨上にある天鼎の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

頸のツボ①―廉泉・人迎・天窓
頸のツボ②―天牖・天容・水突

目次

頸凡十七穴第十二

気舎

各書の主治条文

医心主治条文
 欬逆上気肩腫喉痺瘤癭

甲乙主治条文
 欬逆上気●魄戸及気舍主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
 肩腫不得顧●気舍主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)
 喉痺●完骨及天容気舍天鼎尺澤合谷1商陽陽谿中渚前谷商丘然谷陽交悉主之(巻之十二 手足陽明少陽脈動発喉痺咽痛第八)
 瘤癭●気舍主之(巻之十二 気有所結発瘤癭第九)

外台主治条文
 欬逆上気瘤癭気瘤癭咽腫肩腫不得顧喉痺

[1] 原文:舎谷 頭注:舎乃合字誤

主治条文の比較

医心欬逆上気肩腫   喉痺瘤癭
甲乙欬逆上気肩腫不得顧喉痺瘤癭
外台欬逆上気肩腫不得顧喉痺瘤癭気瘤癭咽腫
復元欬逆上気肩腫不得顧喉痺瘤癭

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の4条文になります。

①欬逆上気。
②肩腫不得顧。
③喉痺。
④瘤癭。

①欬逆上気。
咳。
呼吸器症状。

②肩腫不得顧。
肩が腫れて振り向くことができない。
肩のどこが腫れているのか?気舎は「在頸直人迎俠天突陷者中」に位置し、鎖骨胸骨端の上方、胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間にあるとされています。気舎の位置を考慮すれば、肩関節ではなく頸よりのところが腫れているか。これもまたリンパ節の腫れか。鎖骨上リンパ節?だとすると予後悪い気がするけど。あとは鎖骨の骨折なり胸鎖関節の問題。でも振り向く動きより肩が上がらないことの方が問題になるように思います。

結核菌が鎖骨上リンパ節を侵しているか。(追記2023.06.21)

③喉痺。
のどの痛み。

④瘤癭。
頸部の腫物。
リンパ節の腫れか。

扶突

各書の主治条文

医心主治条文
 欬唾上気咽中喝喝喘息喉鳴暴悟瘖気哽與舌本出血

甲乙主治条文
 欬逆上気咽喉鳴喝喘息●扶突1主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
 (暴瘖気硬刺扶突與舌本出言2)(『霊枢』寒熱病(21)からの引用。『医心』に該当する文があることから採る)(巻之十二 寒気客於厭発喑不能言第二)

外台主治条文
 欬逆上気咽喉鳴喝喘息暴瘖気哽

参考
『千金』巻三十
 扶突天突天谿 主喉鳴暴忤気哽(頭面第一喉咽病)
 扶突 主欬逆3上気咽中鳴喘(心腹第二欬逆上気)

[1] 原文:窓 頭注:窓乃突字誤下同
[2] 頭注:言乃血字誤
[3] 『新雕孫真人千金方』は「唾」

主治条文の比較

医心欬唾上気咽中 喝喝喘息喉鳴暴悟瘖気哽   與舌本出血
甲乙欬逆上気咽喉鳴喝 喘息  暴 瘖気硬刺扶突與舌本出言
外台欬逆上気咽喉鳴喝 喘息  暴 瘖気哽
復元上気咽中 喝喝喘息喉鳴瘖気哽   與舌本出血
  • 逆:『甲乙』『外台』に従います。
  • 咽中:『医心』に従います。
  • 喉鳴:『医心』『千金』に従い採ります。
  • 悟:『千金』を参考にすれば、「悟」=「忤」。音通。「逆」の意味。
  • 與舌本出血:『霊枢』寒熱病(21)に「暴瘖気鞕、取扶突與舌本出血」(「鞕」:『甲乙』作「硬」、『太素』作鯁)とあり。この「與舌本出血」は症状のことではなく、取穴、治療部位のこと。「扶突」と「舌本」を治療に使うということ。『明堂』の編者は誤って「扶突」の主治条文の中に含めていると考えられます。

単位条文化

『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の2条文になります。

①欬逆上気、咽中喝喝、喘息喉鳴。
②暴悟瘖気哽。

①欬逆上気、咽中喝喝、喘息喉鳴。
咳込み、声がかすれ、呼吸が苦しく、のどがヒューヒュー鳴る。
呼吸器症状。

②暴悟瘖気哽。
突然気が乱れて、声が出なくなり、のどが塞がる。
「哽」は「梗」の通仮字。塞がるの意味。

天鼎

各書の主治条文

医心主治条文
 暴瘖気哽喉痺咽腫不得息飲食不下

甲乙主治条文
 暴瘖気哽喉痺咽痛不得息食飲不下●天鼎主之(巻之十二 寒気客於厭発喑不能言第二)
 喉痺●完骨及天容気舍天鼎尺澤合谷1商陽陽谿中渚前谷商丘然谷陽交悉主之(巻之十二 手足陽明少陽脈動発喉痺咽痛第八)

外台主治条文
 暴瘖気哽喉痺咽腫不得息飲食不下

[1] 原文:舎谷 頭注:舎乃合字誤

主治条文の比較

医心暴瘖気哽喉痺咽腫不得息飲食不下
甲乙1暴瘖気哽喉痺咽痛不得息食飲不下
甲乙2    喉痺
外台暴瘖気哽喉痺咽腫不得息飲食不下
復元暴瘖気哽喉痺咽不得息飲食不下
  • 腫:『医心』『外台』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①暴瘖気哽、喉痺咽腫不得息、飲食不下。

突然声が出なくなり、のどが塞がり、のどが腫れ痛み、呼吸しづらく、飲食物が下らない。
局所の症状。

天鼎の位置

『甲乙』巻之三には、天鼎の位置は「在缺盆上直扶突気舍後一寸半」とあります([1] 『医心』『外台』『千金』は「在」の後に「頸」あり。[2] 医統本、正統本は「一寸五分」。『千金』は「気舍後一寸半」ではなく「曲頬下一寸人迎後」)。

現行の教科書では輪状軟骨と同じ高さ、「扶突」の下方で胸鎖乳突筋の後縁に取るとし、「水突」と同じ高さにあるとしています。しかし『甲乙』を参照すれば「水突」ではなく「気舎」と同じ高さになります。

『中国針灸穴位通鑑(第二版)』上巻(王徳深主編 青島出版社 2004年)を参照すると、『銅人腧穴針灸図経』『聖済総録』『針灸資生経』『鍼灸聚英』『鍼灸大成』等は「在頸缺盆、直扶突後一寸」となり「気舎」が欠けています。これを参照したと思われる『中華針灸学』(趙爾康著 中華針灸学社 1947年)は「在頸部缺盆上、扶突直下一寸」となっています。その後『新針灸学』(朱璉著 人民衛生出版社 1950年)が「扶突穴之下,缺盆穴前上方水突穴相隔一肌」、また『針灸学簡編』(中医研究院編 人民衛生出版社 1959年 第二版1976年)では「体表定穴法 在頸外側部、胸鎖乳突肌后縁、横平甲状軟骨上切迹与胸鎖関節上縁之中点処」となっています。一寸下なら高さとしては「水突」に近いでしょう。

現行の教科書は『銅人腧穴針灸図経』等の流れで、「天鼎」は「扶突」の下一寸に位置するとして、「水突」と同じ高さにしていると考えられます。

気舎、扶突、天鼎はいずれものど、くびの腫れ、痛みといった局所の症状に使われています。気舎、扶突は咳にも使われています。
また天鼎の位置は、現行の教科書では水突と同じ高さとなっていますが、『明堂』では気舎と同じ高さでした。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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