頸のツボ①―廉泉・人迎・天窓

廉泉・人迎・天窓

今回から頸のツボです。現代だとのどにある廉泉、頸動脈拍動部に位置する人迎、首の横にある天窓の『明堂』復元主治条文をみていきます。

頭のツボ⑩―頭のツボのまとめ
背中のツボ⑯―背中のツボのまとめ
顔と耳まわりのツボのまとめ

2023.06.01
「廉泉」の「嘔沫」について追記。

目次

頸凡十七穴第十二

廉泉

各書の主治条文

医心主治条文
 舌本腫難以語言(舌)瘲涎唾自出欬逆上気喘嘔沫歯噤

甲乙主治条文
 舌下腫難以言舌縱涎出●廉泉主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 舌下腫難以言舌縦涎出欬逆少気喘息嘔沫噤齘上気窮屈胸満

主治条文の比較

医心舌本腫難以語言舌瘲涎唾自出欬逆上気喘 嘔沫歯噤
甲乙舌下腫難以 言舌縱涎  出
外台舌下腫難以 言舌縦涎  出欬逆少気喘息嘔沫 噤齘上気窮屈胸満
復元腫難以言舌瘲涎唾自出欬逆上気喘嘔沫歯噤
  • 下:『甲乙』『外台』に従います。参考『千金』巻三十「廉泉然谷〈甲乙作通谷〉陰谷 主舌下腫難言舌瘲涎出」(頭面第一舌病)
  • 語:『医心』に従い採ります。
  • 唾自:『医心』に従い採ります。
  • 息:『外台』に従い採ります。参考『千金』巻三十「天容廉泉魄戸気舍譩譆扶突 主欬逆上気喘息嘔沫歯噤」

単位条文化

『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の2条文になります。

①舌下腫、難以語言、舌瘲涎唾自出。
②欬逆上気、喘息、嘔沫、歯噤。

①舌下腫、難以語言、舌瘲涎唾自出。
舌の下が腫れて、しゃべりづらい。舌が弛緩し、よだれがやたらとひとりでに出る。
舌に関する症状。

②欬逆上気、喘息嘔沫、歯噤。
咳込み、呼吸が苦しく痰を吐き、歯を食いしばる。
咳でひどく苦しんでいる様子。
「嘔沫」は喀痰と解釈しました。参考「肺兪」(2023.06.01追記)

「廉泉」は『甲乙』巻之三では「在頷下、結喉上、舌本下、陰維任脈之会」(※『千金』『外台』『医心』「下」なし)とあるが、『素問』『霊枢』では次のようにあります。

十二瘧者、其発各不同時、察其病形、以知其何脈之病也。先其発時如食頃而刺之、一刺則衰、二刺則知、三刺則已。不已、刺舌下両脈出血。不已、刺郄中盛経出血、又刺項已下侠脊者、必已。舌下両脈者、廉泉也

『素問』刺瘧篇(36)

黄帝曰:其欬上気、窮詘胸痛者、取之奈何。岐伯曰:取之廉泉。黄帝曰:取之有数乎。岐伯曰:取天容者、無過一里。取廉泉者、血変而止

『霊枢』刺節真邪(75)

少陰、根于湧泉、結于廉泉。

『霊枢』根結(05)

足少陰之本、在内踝下上三寸中、標在背腧、與舌下両脈也。

『霊枢』衛気(52)

足少陰舌下、厥陰毛中急脈、各一。

『素問』気府論(59)

狂始発、少臥不飢、自高賢也、自辯智也、自尊貴也、善罵詈、日夜不休、治之取手陽明、太陽、太陰、舌下少陰。

『霊枢』癲狂(22)

このように「廉泉」は「舌下両脈」を指し、「足少陰」に属しています。治療としては「舌下両脈」から血を出しています。

また主治条文②と『霊枢』刺節真邪の症状は似ています。

おそらく『明堂』の主治条文の症状に対して使っていたのはこの「舌下両脈」であったと考えられます。

参考 黄龍祥『中国針灸学術史大綱[増修版]』知音出版社 2002年 pp515-516

人迎

各書の主治条文

医心主治条文
 霍乱膓逆頭痛胸満呼吸喘喝

甲乙主治条文
 胸満呼吸喝窮屋1窘不得息●刺入人迎入四分不幸殺人(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)
 陽逆霍乱●刺人迎刺入四分不幸殺人〈一作腸逆〉(巻之十一 気乱於腹2胃発霍乱吐下第四)

外台主治条文
 陽逆霍乱陽逆頭痛胸満不得息胸満呼吸喘喝窮屈窘不得息刺人迎入四分不幸殺人

参考
『千金』巻三十
凡霍乱頭痛胸満呼吸喘鳴窮窘不得息 人迎主之

『霊枢』寒熱病(21)
陽迎3頭痛胸満不得息取之人迎

[1] 頭注:屋乃詘字誤 医統本「詘」
[2] 頭注:腹乃腸字誤
[3] 迎:『甲乙』『太素』は「逆」

主治条文の比較

医心霍乱膓逆  頭痛     胸満呼吸喘喝
甲乙陽逆霍乱         胸満呼吸 喝窮屋窘不得息
外台陽逆霍乱陽逆頭痛胸満不得息胸満呼吸喘喝窮屈窘不得息
復元陽逆霍乱  頭痛     胸満呼吸喘喝窮窘不得息
  • 陽逆霍乱頭痛:『医心』『甲乙』『外台』で所々異なりますが、『甲乙』に従います。『外台』の「陽逆頭痛胸満不得息」は、『甲乙』の『霊枢』からの引文を引いていると思われますが、『医心』に従い「頭痛」は採ります。
  • 屈:『外台』に従います。おそらく詘=誳=屈という関係。「天容」でも「屈」が用いられています。

単位条文化

『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の2条文になります。

①陽逆、霍乱、頭痛。
②胸満、呼吸喘喝、窮屈窘不得息。

①陽逆、霍乱、頭痛。
陽気が乱れ、吐き下しがあり、頭痛がする。

「霍乱」について

清気在陰、濁気在陽、営気順脈、衛気逆行、清濁相干・・・乱于腸胃、則為霍乱。

『霊枢』五乱(34)

霍乱者、由人温凉不調、陰陽清濁二気有相干乱之時、其乱在於腸胃之間者、因遇飲食而変発則心腹絞痛。其有先心痛者則先吐。先腹痛者則先利。心腹並痛者則吐利俱発。挟風而実者身発熱、頭痛、體疼而復吐利。虛者但吐利、心腹刺痛而已。亦有飲酒食肉、腥膾、生冷過度、因居処不節、或露臥湿地、或當風取凉、而風冷之気帰於三焦、伝於脾胃、脾胃得冷則不磨、不磨則水穀不消化、亦令清濁二気相干、脾胃虛弱、便則吐利、水穀不消、則心腹脹満、皆成霍乱。
霍乱有三名。一名胃反、言其胃気虛逆、反吐飲食也。二名霍乱、言其病揮霍之間、便致繚亂也。三名走哺、言其哺食変逆者也。

『諸病源候論』巻二十二

問曰:病有霍乱者何。答曰:嘔吐而利、此名霍乱。問曰:病発熱頭痛、身疼悪寒、吐利者、此属何病。答曰:此名霍乱。霍乱自吐下、又利止、復更発熱也・・・霍乱、頭痛発熱、身疼痛、熱多欲飲水者、五苓散主之。寒多不用水者、理中丸主之

『傷寒論』弁霍乱病脈証并治第十三

陰陽清濁の気が腸胃の間で乱れ、腹痛や嘔吐、下痢が生じます。頭痛、発熱、身疼痛を伴うこともあります。寒、暑、飲食不節などにより脾胃が損傷したために生じています。吐いたり下したりして体液が不足し、さらに体温が上昇します。

暑気あたり、熱射病の類、あるいは食中毒、コレラ等の感染症と言われています。

この主治条文には「陽逆」とあるので、発熱していると考えられます。おそらく熱射病の類と思われます。

「人迎」を使っているのは「人迎」が陽を代表する動脈拍動部だからで(人迎脈口診)、陽気を調整するためでしょうか。

②胸満、呼吸喘喝、窮屈窘不得息。
胸が張り、呼吸が苦しく、胸が窮屈で苦しく息ができない。
呼吸器症状。

天窓

各書の主治条文

医心主治条文
 耳聾頬痛腫喉痛瘖不能言肩痛引項汗出及漏耳鳴

甲乙主治条文
 頬腫痛●天窓主之(巻之十一 寒1気客於経絡之中発癰疽風成発厲浸淫第九下2
 喉痛瘖〈一作飯〉不能言●天突3主之(天窓の誤り)(巻之十二 寒気客於厭発喑不能言第二)
 耳鳴●百会及頷厭顱息天窓大陵偏歴前谷後谿皆主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 耳聾無聞●天窓4主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 癭●天窓5〈一作天容千金作天府〉及臑会主之(天窓ではなく天容 参照『外台』「天容」)(巻之十二 気有所結発瘤癭第九)

外台主治条文
 耳聾無聞頬痛腫喉痛瘖不能言肩痛引項汗出及偏耳鳴

[1] 明抄本は「客」
[2] 明抄本は「第十」
[3] 天窓の誤り 『医心』『外台』「天窓」「天突」の主治条文、『甲乙』の穴の配列規則とも合う
[4] 原文:窓天 頭注:天空主之此誤
[5] 原文:夫窓 頭注:夫乃天字誤

主治条文の比較

医心耳聾  頬痛腫喉痛瘖不能言肩痛引項汗出及漏耳鳴
甲乙耳聾無聞頬腫痛喉痛瘖不能言        耳鳴
外台耳聾無聞頬痛腫喉痛瘖不能言肩痛引項汗出及偏耳鳴
復元耳聾無聞頬痛腫喉痛瘖不能言肩痛引項汗出及耳鳴
  • 頬痛腫:『医心』『外台』に従います。参考『千金』巻三十「天窓 主頬腫痛」(頭面第一面病)
  • 漏:『医心』に従います。

単位条文化

『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の5条文になります。

①耳聾無聞。
②頬痛腫。
③喉痛、瘖不能言。
④肩痛引項、汗出及漏。
⑤耳鳴。

①耳聾無聞。
難聴。

②頬痛腫。
頬の痛み、腫れ。

③喉痛、瘖不能言。
のどが痛み、声が出にくい。

④肩痛引項、汗出及漏。
肩が痛み、項まで痛み、汗が漏れるように出る。

⑤耳鳴。
耳鳴り。

④の漏れ出るほどの汗がなぜ生じているのかがわかりません。
②③④は感染症と考えて、ひとつの条文にすべきか?

廉泉はもともと「舌下両脈」のことで、そこから血を出して治療していたと考えられ、舌の症状や呼吸器症状に使われています。
人迎は陽気の乱れ(おそらく熱射病)や呼吸器症状に使われています。
天窓は耳の症状、またおそらく感染症による頬やのど、肩の痛みに使われています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次