頸のツボ②―天牖・天容・水突
頸のツボの2回目です。今回は頸の横にある天牖、天容、人迎の下に位置する水突の『明堂』主治条文の復元をみていきます。
目次
頸凡十七穴第十二
天牖
各書の主治条文
医心主治条文
肩背痛寒熱暴聾目不明頭頷痛涙出洞鼻不知香臰喉痺
甲乙主治条文
肩背痛寒熱癧適1頸有大器2暴聾気蒙務3耳目不開頭頷痛涙出鼻衂不得息不知香臭風眩喉痺●天牖主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海4然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
外台主治条文
肩背痛寒熱歴適頸有大気暴聾気啄瞀耳目不用頭頷痛涙出洞鼻不知香臭風眩喉痺三焦病者腹気満少腹尤堅不得小便窘急溢則為水留則為脹候㾬瘧
[1] 頭注:適乃遶字誤 「瘰」が小字で「癧」の前に書き足されている。医統本「瘰癧遶」
[2] 頭注:他本器作気 医統本「気」
[3] 頭注:務作瞀 医統本「瞀」
[4] 原文:少海
主治条文の比較
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医心 | 肩背痛寒熱 暴聾 目不明頭頷痛涙出洞鼻 不知香臰 喉痺 |
甲乙1 | 肩背痛寒熱癧適頸有大器暴聾気蒙務耳目不開頭頷痛涙出鼻衂不得息不知香臭風眩喉痺 |
甲乙2 | 寒熱 |
外台 | 肩背痛寒熱歴適頸有大気暴聾気啄瞀耳目不用頭頷痛涙出洞鼻 不知香臭風眩喉痺三焦病者腹気満少腹尤堅不得小便窘急溢則為水留則為脹候㾬瘧 |
復元 | 肩背痛寒熱癧適頸有大気暴聾気蒙瞀耳目不明頭頷痛涙出洞鼻 不知香臭風眩喉痺 |
- 癧適:「缺盆」「肩貞」「臂臑」にもみられます。
- 気:医統本、『外台』に従います。
- 瞀:医統本、『外台』に従います。
- 明:『医心』に従います。参考『霊枢』寒熱病(21)「暴聾気蒙、耳目不明、取天牖」
- 洞鼻:『医心』『外台』に従います。
- 三焦病者腹気満少腹尤堅不得小便窘急溢則爲水留則為脹:『甲乙』巻之九 三焦膀胱受病發少腹腫不得小便第九にある『霊枢』邪気蔵府病形(04)からの引文を『外台』がさらに引用。採らず。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると1条文になりますが、次の「天容」は『甲乙』では8条文になっています。この「天牖」が1条文というのは違和感があります。『霊枢』寒熱病からの引用がみられるように、他文献から引用したものをつなげたと考えるならば、もう少し細かく分けるべきだと考えます。次のように分けてみました。
①肩背痛。
②寒熱、癧適、頸有大気。
③暴聾気蒙瞀、耳目不明。
④頭頷痛、涙出。
⑤洞鼻不知香臭。
⑥風眩。
⑦喉痺。
①肩背痛。
局所近辺の症状。
②寒熱、癧適、頸有大気。
悪寒発熱、頸部リンパ節腫。
「癧適」は「瘰癧」と同じと思われます。
「頸有大気」は腫れが大きいことを言っているか。
③暴聾気蒙瞀、耳目不明。
突然耳がきこえなくなり、目も見えなくなる。
突発性難聴と視力障害。同時に起こっている?
少なくとも当時の人は、耳や目などの頭部へ気血が行っておらず、それを改善するために「天牖」を使うと考えていたと思われます。
④頭頷痛、涙出。
頭、あご(側頭部?)が痛み、涙が出る。
群発頭痛のような自律神経症状を伴う頭痛か?
⑤洞鼻不知香臭。
鼻水が止まらず、においがわからない。
「洞鼻」に関して、『霊枢』に次のようにあります。
人之鼻洞、涕出不收者、頏顙不開、分気失也。
『霊枢』憂恚無言(69)
また『千金』が『素問』気穴論(58)『素問』気厥論(37)(2023.06.05訂正)にある文を、「鼻淵」を「鼻洞」に変えて次のように引用しています。
夫鼻洞、鼻洞者濁下不止、伝為鼽瞢瞑目、故得之気厥。
『千金』巻六上目病第一
「洞鼻」=「鼻洞」=「鼻淵」ならば「洞鼻」は鼻水が出て止まらないこと。「濁」とあるのでおそらく粘っこい有色の鼻水と思われます。
⑥風眩。
めまい。
⑦喉痺。
のどの痛み。
天容
各書の主治条文
医心主治条文
寒熱喉痺欬逆上気唾沫疝積胸中満耳聾頚項腫咽腫肩痛
甲乙主治条文
寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海1然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
疝積胸中痛不得窮屈胸中痛2●天容主之(巻之八 経絡受病人腸胃五臓積発伏梁息賁肥気痞気奔肫第二)
欬逆上気唾沫●天容及行間主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
肩痛不可挙●天容及秉風主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)
頭項癰腫不能言●天容主之(巻之十一 寒3気客於経絡之中発癰疽風成発厲浸淫第九下4)
耳聾䁬䁬5無所聞●天容主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
喉痺●完骨及天容気舍天鼎尺澤合谷6商陽陽谿中渚前谷商丘然谷陽交悉主之(巻之十二 手足陽明少陽脈動発喉痺咽痛第八)
癭●天窓7〈一作天容千金作天府〉及臑会主之(天容の誤り)(巻之十二 気有所結発瘤癭第九)
外台主治条文
寒熱疝積胸痛不得息窮屈胸中痛陽気大逆上満於胸中憤䐜肩息大気逆上喘喝坐伏病咽噎不得息欬逆上気唾沫肩痛不可挙頸項癰腫不能言耳聾䏆䏆無所聞喉痺癭
[1] 原文:少海
[2] 「胸中痛」医統本にはなし。重なるので医統本に従うのがよいと思われる。
[3] 明抄本は「客」
[4] 明抄本は「第十」
[5] 頭注:他本䁬皆嘈
[6] 原文:舎谷 頭注:舎乃合字誤
[7] 原文:夫窓 頭注:夫乃天字誤 天容の誤り(『外台』「天窓」に「癭」なし、“天容”あり)
主治条文の比較
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医心 | 寒熱喉痺欬逆上気唾沫疝積胸中満 耳聾 頚項 腫 咽腫肩痛 |
甲乙 | 寒熱喉痺欬逆上気唾沫疝積胸中痛不得 窮屈胸中痛耳聾䁬䁬無所聞頭項癰腫不能言 肩痛不可挙癭 |
外台 | 寒熱喉痺欬逆上気唾沫疝積胸 痛不得息窮屈胸中痛耳聾䏆䏆無所聞頸項癰腫不能言 肩痛不可挙癭陽気大逆上満於胸中憤䐜肩息大気逆上喘喝坐伏病咽噎不得息 |
復元 | 寒熱喉痺欬逆上気唾沫疝積胸中満不得息窮屈 耳聾䏆䏆無所聞頸項癰腫不能言咽腫肩痛不可挙癭 |
- 満:『医心』に従います。参考『千金』巻三十「陽谿天容 主胸満不得息」(心腹第二胸脇)
- 息:『外台』に従い採ります。参考『千金』同上
- 頸:『医心』『外台』に従います。参考『千金』巻三十「天容 主頸項癰不能言」(頭面第一項病)
- 咽腫:『医心』に従い採ります。
- 陽気大逆上満於胸中憤䐜肩息大気逆上喘喝坐伏病咽噎不得息:『甲乙』巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三にある『霊枢』刺節真邪(75)からの引文を『外台』がさらに引用。採らず。
単位条文化
『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の9条文になります。
①寒熱。
②喉痺。
③欬逆上気、唾沫。
④疝積、胸中満、不得息、窮屈。
⑤耳聾䏆䏆無所聞。
⑥頸項癰腫不能言。
⑦咽腫。
⑧肩痛不可挙。
⑨癭。
①寒熱。
悪寒発熱。
②喉痺。
のどの痛み。
③欬逆上気、唾沫。
咳込み、痰を吐く。
「唾沫」は痰のことを言っていると解釈しました。参考「肺兪」
④疝積、胸中満、不得息、窮屈。
腹に結塊があって痛み、胸が脹って苦しく、息ができず、窮屈。
「疝」は腹の痛み、「積」は腹部の塊ととりあえず解釈。「疝」とあるから腹部と考えましたが、この腹部の痛み、結塊がどう胸と関わっているか。呼吸すると腹部も刺激して痛むために苦しんでいるか。これに対して「天容」を使っていますが、「疝積」に対してというよりは、「胸中満、不得息、窮屈」に対して使っているのではないでしょうか。
参考 「積」について
黄帝曰:積之始生、至其已成、奈何。
『霊枢』百病始生(66)
岐伯曰:積之始生。得寒乃生、厥乃成積也。
黄帝曰:其成積奈何。
岐伯曰:厥気生足悗、悗生脛寒、脛寒則血脈凝濇、血脈凝濇、則寒気上入于腸胃、入於腸胃、則䐜脹、䐜脹則腸外之汁沫、迫聚不得散、日以成積。
卒然多食飲、則腸満、起居不節、用力過度、則絡脈傷、陽絡傷則血外溢、血外溢則衄血、陰絡傷則血内溢、血内溢則後血、腸胃之絡傷、則血溢於腸外、腸外有寒汁沫、與血相搏、則并合凝聚不得散、而積成矣。
卒然外中於寒、若内傷於憂怒、則気上逆、気上逆、則六輸不通、温気不行、凝結蘊裹而不散、津液濇滲、著而不去、而積皆成矣。
積は基本的に寒によって生じる。原因は大きく分けて三つ。一つ目は寒気が足から上って腸胃に行くことによって。二つ目は暴飲暴食や過度に体を動かすことによって。三つ目は感情の過度な変化によって。
⑤耳聾䏆䏆無所聞。
難聴、耳鳴りがひどくきこえづらい。
⑥頸項癰腫不能言。
頸や項に腫物ができてしゃべりづらい。
⑦咽腫。
のどの腫れ。
⑧肩痛不可挙。
肩が痛み上肢を挙げられない
⑨癭。
頸の腫物。
水突
各書の主治条文
医心主治条文
欬逆上気咽喉癰腫呼吸断気喘息不通
甲乙主治条文
欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通●水突1主之〈一作天突〉(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
外台主治条文
欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通
[1] 原文:窓
主治条文の比較
医心 | 欬逆上気咽喉癰腫呼吸断気喘息不通 |
甲乙 | 欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通 |
外台 | 欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通 |
復元 | 欬逆上気咽喉癰腫呼吸短気喘息不通 |
- 短:『甲乙』『外台』に従います。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①欬逆上気、咽喉癰腫、呼吸短気、喘息不通。
咳込み、のどが腫れ、息切れ、呼吸困難。
呼吸器症状とのどの腫れ。
天牖、天容、水突はいずれものどの腫れ、痛みといった局所の症状に使われています。
天牖、天容は寒熱といった全身症状、頸部リンパ節の腫れ、あるいは難聴、耳鳴りや肩の痛みなど局所近辺の症状に使われています。とくに天牖は耳だけでなく目や鼻、頭痛、めまいといった首から上の症状にも使われています。
また天容と水突は咳などの呼吸器症状にも使われています。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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