肩のツボ①―肩井・肩貞・巨骨・天髎
今回から肩のツボです。肩の上にある肩井、肩関節の後方にある肩貞、肩関節の上方にある巨骨、肩甲骨上角の上方にある天髎の『明堂』復元主治条文をみていきます。
頭のツボ⑩―頭のツボのまとめ
背中のツボ⑯―背中のツボのまとめ
顔と耳まわりのツボのまとめ
頸のツボ④―頸のツボのまとめ
目次
肩凡二十八穴第十三
肩井
各書の主治条文
医心主治条文
肩背痺痛臂不挙寒熱悽索気上不得眠卧
甲乙主治条文
肩背髀痛臂不挙寒熱悽索●肩井主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)
外台主治条文
肩背痺痛臂不挙寒熱悽索
参考
『千金』巻三十
肩井関衝 主寒熱淒索気上不得卧(熱病第五熱病)
主治条文の比較
医心 | 肩背痺痛臂不挙寒熱悽索気上不得眠卧 |
甲乙 | 肩背髀痛臂不挙寒熱悽索 |
外台 | 肩背痺痛臂不挙寒熱悽索 |
復元 | 肩背痺痛臂不挙寒熱悽索気上不得眠卧 |
- 痺:『医心』『外台』に従います。
- 気上不得眠卧:『医心』『千金』に従い採ります。
単位条文化
『甲乙』『千金』を参考に単位条文化すると、次の2条文になります。
①肩背痺痛、臂不挙。
②寒熱悽索、気上不得眠卧。
①肩背痺痛、臂不挙。
肩背が痛み、腕が上がらない。
局所の症状。
②寒熱悽索、気上不得眠卧。
悪寒発熱し、寒気がひどく、気が上って眠れない。
外感熱病(感染症)の症状。
「悽索」悽は凄の通仮字。索は懼の意。寒気がひどくびくびく震えている様。
「気上」熱が上っていることを言っているか、あるいは咳がひどいことを言っているか。
肩貞
各書の主治条文
医心主治条文
寒熱耳鳴項歴適
甲乙主治条文
寒熱項癧癧適耳無聞引缺盆肩中熱痛麻小1不挙〈一云手臂不挙〉●肩貞主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
耳鳴無聞●肩貞及腕骨2主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
外台主治条文
寒熱項歴適耳鳴無聞引缺盆肩中熱痛手臂小不挙
参考
『千金』巻三十
肩貞 主手髍小不挙(四肢第三手病)
肩貞 主寒熱項歴適〈甲乙云耳鳴無聞引缺盆肩中熱痛麻小不挙〉(熱病第五熱病)
『医学綱目』巻六 治往来寒熱 『甲乙』引文
寒熱頸瘰癧耳鳴無聞痛引缺盆肩中熱痛手臂不挙 肩貞主之
[1] 頭注:小乃痺字誤 医統本は「痺」
[2] 原文:完骨 『医心』『外台』ともに完骨に「耳鳴」なし。『医心』捥骨:「耳鳴」、『外台』腕骨:「耳鳴無聞」
主治条文の比較
医心 | 寒熱 耳鳴 項歴適 |
甲乙1 | 寒熱項癧癧適耳 無聞 引缺盆肩中熱痛 麻小不挙 |
甲乙2 | 耳鳴無聞 |
外台 | 寒熱項 歴適耳鳴無聞 引缺盆肩中熱痛手臂 小不挙 |
復元 | 寒熱 耳鳴無聞項癧適引缺盆肩中熱痛手臂麻小不挙 |
- 項癧適:『医心』の字順に従います。
- 手臂麻小不挙:『外台』『医学綱目』に従い「手臂」採ります。医統本に従えば「麻痺不挙」となりますが、同様な意味で「小」は「木」の誤りで「麻木」か。
単位条文化
『甲乙』のように1条文とするか、「肩井」と同様に『千金』を参考に2条文に分けるか迷いましたが、『甲乙』に従って1条文としました。
①寒熱、耳鳴無聞、項癧適引缺盆、肩中熱痛、手臂麻小不挙。
悪寒発熱、耳鳴りがして聞こえず、後頸部から鎖骨上部までリンパ節が腫れ、肩が熱して痛み、上肢がしびれて上がらない(「麻小」は「麻木」と解釈)。
おそらく結核性リンパ節炎。
肩は肩関節のことだけでなく、首の横から肩関節のあたりまでを言っているか。
リンパ節の炎症、腫脹がひどくなって熱感、痛みを生じ、さらに神経を圧迫しているために、上肢がしびれて上がらなくなっているか。
巨骨
各書の主治条文
医心主治条文
肩背痺痛臂不挙血瘀肩中痛不能動揺
甲乙主治条文
肩背髀不挙血瘀肩中不能動揺●巨骨1主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)
外台主治条文
肩背痺痛臂不挙血瘀肩中痛不能動揺
参考
『千金』巻三十
巨骨前谷 主臂不挙(四肢第三臂肘病)
巨骨 主肩中痛不能動揺(四肢第三肩背病)
『医学綱目』巻二十七 肩背痛 『甲乙』引文
肩背痺痛不挙血瘀肩中不能動揺 巨骨主之
[1] 原文:滑 頭注:滑乃骨字誤
主治条文の比較
医心 | 肩背痺痛臂不挙血瘀肩中痛不能動揺 |
甲乙 | 肩背髀 不挙血瘀肩中 不能動揺 |
外台 | 肩背痺痛臂不挙血瘀肩中痛不能動揺 |
復元 | 肩背痺痛臂不挙血瘀肩中痛不能動揺 |
- 痺:『医心』『外台』に従います。
- 痛:『医心』『外台』『千金』に従い採ります。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①肩背痺痛、臂不挙、血瘀肩中痛、不能動揺。
肩背が痛み、腕が上がらない。血が滞って肩が痛み、動かすことができない。
局所の症状。いわゆる五十肩のようなものか。
天髎
各書の主治条文
医心主治条文
肩痛引項寒熱缺盆中痛汗不出胸中熱満
甲乙主治条文
肩痛引項寒熱缺盆主之1身熱汗不出胸中熱満●天窌2主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
外台主治条文
肩脈中痛引項寒熱缺盆痛汗不出胸中熱満
[1] 『医心』『外台』から「缺盆中痛」の誤りと思われます。
[2] 「窌」=「髎」
主治条文の比較
医心 | 肩 痛引項寒熱缺盆中痛 汗不出胸中熱満 |
甲乙 | 肩 痛引項寒熱缺盆主之身熱汗不出胸中熱満 |
外台 | 肩脈中痛引項寒熱缺盆 痛 汗不出胸中熱満 |
復元 | 肩 痛引項寒熱缺盆中痛身熱汗不出胸中熱満 |
- 缺盆中痛:『医心』『外台』に従います。
- 身熱:『甲乙』に従い採ります。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①肩痛引項、寒熱、缺盆中痛、身熱汗不出、胸中熱満。
肩が痛んで項まで痛み、悪寒発熱し、缺盆(部位としての缺盆、鎖骨上のくぼみ)が痛み、身体が熱するが汗は出ず、胸が熱して苦しい。
感染症と思われます。結核菌が鎖骨上リンパ節を侵しているか。
肩井、巨骨は肩が痛み、挙上できないといった局所の症状に使われています。
また肩井は外感熱病で気が上ったもの(のぼせあるいは咳)にも使われています。
肩貞、天髎は結核性リンパ節炎と思われる症状に使われています。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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