胸のツボ③―兪府・彧中・神蔵・霊墟・神封・歩廊

兪府・彧中・神蔵・霊墟・神封・歩廊

胸のツボの3回目です。今回は胸骨の外側にある、今でいうところの足少陰腎経に属する、兪府・彧中・神蔵・霊墟・神封・歩廊の『明堂』復元主治条文をみていきます。

胸のツボ①―天突・璇璣・華蓋
胸のツボ②―紫宮・玉堂・膻中・中庭

目次

胸自輸府俠任脈両傍各二寸下至歩郎凡十二穴第十五

兪府

『甲乙』は「輸府」。『千金』『外台』『医心』は「兪府」。

各書の主治条文

医心主治条文
 欬逆上気喘不得息欧吐胸満不得飲食矣

甲乙主治条文
 欬逆上気喘不得息嘔吐胸満不得飲食●輸府主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)

外台主治条文
 欬逆上気喘不得息嘔吐胸満不得飲食

主治条文の比較

医心欬逆上気喘不得息欧吐胸満不得飲食矣
甲乙欬逆上気喘不得息嘔吐胸満不得飲食
外台欬逆上気喘不得息嘔吐胸満不得飲食
復元欬逆上気喘不得息欧吐胸満不得飲食

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①欬逆上気、喘不得息、欧吐胸満、不得飲食。

咳、息が苦しく、嘔吐し、胸苦しく、飲食できない。

呼吸器症状と消化器症状と分けて考えることもできますが(「欬逆上気、喘不得息」「欧吐胸満、不得飲食」)、あくまで『甲乙』にしたがって考えるならば、吐き気を催すほど息苦しく、咳がひどいことをいっているか。

彧中

『甲乙』は「彧中」。『千金』『外台』は「或中」。『医心』は「惑中」。

各書の主治条文

医心主治条文
 欬逆上気涎出多唾呼吸喘悸坐不得安

甲乙主治条文
 欬逆上気㵪出多唾呼吸哮坐卧不安●彧中主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)

外台主治条文
 欬逆上気涎出多唾呼吸喘悸坐不得安

参考
『千金』巻三十
 或中雲門 主欬逆上気㵪出多唾呼吸喘悸坐不安席(心腹第二欬逆上気)
『医学綱目』巻二十六 咳嗽 『甲乙』引文
 欬逆上気涎出多吐呼吸喘悸不得安彧中主之

主治条文の比較

医心欬逆上気涎出多唾呼吸喘悸坐不得安
甲乙欬逆上気㵪出多唾呼吸哮坐卧不 安
外台欬逆上気涎出多唾呼吸喘悸坐不得安
復元欬逆上気涎出多唾呼吸喘悸坐不得安
  • 喘悸坐不得安:『医心』『外台』『医学綱目』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①欬逆上気、涎出多唾、呼吸喘悸、坐不得安。

咳、痰が多く出て、息苦しく、動悸がし、座っていても楽にならない。

通常、呼吸困難がひどくなると寝ていられず、座った方が楽になりますが、ここでは座っていても楽になっていません。「坐不得安」が坐位でも楽にならない程、程度がひどいことをいっているのか、それとも坐位より臥位の方が楽になることをいっているのか。後者だと扁平呼吸と呼ばれるものが考えられますが、「涎出多唾」(おそらく痰のこと)が問題になっているので、前者のように咳、息苦しさが坐位になってもなかなか落ち着かないことをいっていると思われます。

神蔵

各書の主治条文

医心主治条文
 胸脇満欬逆上気喘不得息欧吐煩満不能飲食

甲乙主治条文
 胸満欬逆喘不得嘔吐煩満不得飲食●神藏主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)

外台主治条文
 胸満欬逆喘不得息嘔吐煩満不得飲食

主治条文の比較

医心胸脇満欬逆上気喘不得息欧吐煩満不能飲食
甲乙胸 満欬逆  喘不得 嘔吐煩満不得飲食
外台胸 満欬逆  喘不得息嘔吐煩満不得飲食
復元満欬逆上気喘不得欧吐煩満不能飲食
  • 脇:『医心』に従い採ります。
  • 上気:『医心』に従い採ります。
  • 息:『医心』『外台』に従い採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①胸脇満、欬逆上気、喘不得息、欧吐煩満、不能飲食。

胸、脇が脹り苦しく、咳が出て、息が苦しく、嘔吐し、胸苦しく、飲食ができない。

「兪府」と似たような症状。

霊墟

『医心』は「霊牆」。

各書の主治条文

医心主治条文
 胸脇𣛰満引膺不得息悶乱欧吐煩満不得食飲

甲乙主治条文
 胸脇榰満痛引膺不得息悶乱煩満不得飲食●霊墟一作1主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)

外台主治条文
 胸脅支満痛引膺不得息悶乱煩満不得飲食

[1] 原文ママ

主治条文の比較

医心胸脇𣛰満 引膺不得息悶乱欧吐煩満不得食飲
甲乙胸脇榰満痛引膺不得息悶乱  煩満不得飲食
外台胸脅支満痛引膺不得息悶乱  煩満不得飲食
復元胸脇榰満引膺不得息悶乱欧吐煩満不得飲食
  • 痛:『甲乙』『外台』に従い採ります。
  • 欧吐:『医心』に従い採ります。
  • 飲食:『甲乙』『外台』の字順に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①胸脇榰満、痛引膺不得息、悶乱欧吐煩満、不得飲食。

胸、脇がつかえて苦しく、痛みが胸の方まで及び、呼吸がしにくく、もだえ苦しみ、嘔吐し、胸苦しく、飲食ができない。

「神蔵」の症状がより強くなった感じでしょうか。

神封

各書の主治条文

医心主治条文
 胸満不得息欬逆乳㿈洒沂悪寒

甲乙主治条文
 胸脇榰満不得息欬逆乳癰洒淅悪寒●神封主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)

外台主治条文
 胸脅支満不得息欬逆乳癰洒淅悪寒

主治条文の比較

医心胸  満不得息欬逆乳㿈洒沂悪寒
甲乙胸脇榰満不得息欬逆乳癰洒淅悪寒
外台胸脅支満不得息欬逆乳癰洒淅悪寒
復元脇榰満不得息欬逆乳癰洒淅悪寒
  • 脇榰:『甲乙』『外台』に従い採ります。

単位条文化

①胸脇榰満、不得息、欬逆。
②乳癰、洒淅悪寒。

『甲乙』に従って単位条文化すると1条文になりますが、②は乳腺炎の類と思われるので、①②と分けて考えました。

①胸脇榰満、不得息、欬逆。

胸、脇がつかえて苦しく、呼吸がしづらく、咳が出る。

呼吸器症状。

②乳癰、洒淅悪寒。

乳房に腫物ができて、ひどく寒気がする。

おそらく乳腺炎。

歩廊

『甲乙』『千金』『外台』『医心』いずれも「歩郎」。

各書の主治条文

医心主治条文
 胸脇𣛰満鬲逆不通呼吸少気喘息不得挙臂

甲乙主治条文
 胸脇榰満髙1逆不通呼吸少気喘息不得挙臂●歩郎主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)

外台主治条文
 胸脅支満膈逆不通呼吸少気喘息不得挙臂

[1] 頭注:髙乃鬲字誤

主治条文の比較

医心胸脇𣛰満鬲逆不通呼吸少気喘息不得挙臂
甲乙胸脇榰満髙逆不通呼吸少気喘息不得挙臂
外台胸脅支満膈逆不通呼吸少気喘息不得挙臂
復元胸脇榰満逆不通呼吸少気喘息不得挙臂
  • 鬲:『医心』『甲乙』頭注に従います。

単位条文化

①胸脇榰満、鬲逆不通、呼吸少気、喘息、不得挙臂。

胸、脇つかえて苦しく、鬲が塞がって飲み込みにくく、呼吸が浅く、呼吸困難で、腕をあげることができない。

飲み込みにくかったり、呼吸が浅かったりするのは「鬲」が問題になっているからと考えているようです。

「不得挙臂」は運動器の症状なので、分けて考えることができますが、あくまで『甲乙』に従って考えますと、腕をあげる際には胸郭の動きが関わっており、喘息がひどければ当然、胸、季肋部の張りが強くなるので、それを制限することはありうるか。腕をあげるのに支障をきたす程、胸、脇が張り、喘息がひどいことをいいたいのでしょうか。

兪府・彧中・神蔵・霊墟・神封・歩廊はいずれも咳やそれに伴う息苦しさといった呼吸器症状や、胸脇部のつかえ等の、胸部の症状に使われています。
また神封は乳腺炎と思われる症状に使われています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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