胸のツボ②―紫宮・玉堂・膻中・中庭
胸のツボの2回目です。今回は胸骨正中線上にある紫宮・玉堂・膻中・中庭の『明堂』復元主治条文をみていきます。
目次
胸自天突循任脈下行中庭凡七穴第十四
紫宮
各書の主治条文
医心主治条文
胸中𣛰満痺痛骨疼飲食不下欬逆上気煩心也
甲乙主治条文
胸脇榰満痺痛骨疼飲食不下嘔〈千金作欬〉逆気上煩心●紫宮主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)
外台主治条文
胸脅支満痺痛骨疼飲食不下嘔逆上気煩心
参考
『千金』巻三十
天突華蓋 主欬逆上気喘暴(心腹第二欬逆上気)
主治条文の比較
医心 | 胸中𣛰満痺痛骨疼飲食不下欬逆上気煩心也 |
甲乙 | 胸脇榰満痺痛骨疼飲食不下嘔逆気上煩心 |
外台 | 胸脅支満痺痛骨疼飲食不下嘔逆上気煩心 |
復元 | 胸脇榰満痺痛骨疼飲食不下欬逆上気煩心 |
- 脇:『甲乙』『外台』に従います。
- 欬:『医心』『千金』に従います。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①胸脇榰満、痺痛骨疼、飲食不下、欬逆上気、煩心。
胸、脇がつかえて苦しく、痛み、疼き、飲食物が下りず、咳込み、胸苦しい。
「華蓋」にも「骨痛」がありましたが、ここにも「骨疼」とあります。実際に「骨」が痛かったり、疼いたりをいっているのでしょうか。胸をさわるとすぐ骨に触れるから、肋間を含んだ表面の痛みを「骨痛」「骨疼」といっている?あるいは「皮」「脈」「肉」「筋」「骨」というように病が深いことをいっている?
胸部の症状(呼吸器、上部消化管を含む)に使われています。
玉堂
各書の主治条文
医心主治条文
胸満不得喘息脇痛骨疼喘逆上気欧吐煩心
甲乙主治条文
胸中満不得息脇痛骨疼喘逆上気嘔吐煩心●玉堂主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)
外台主治条文
胸中満不得息脅痛骨疼喘逆上気嘔吐煩心
主治条文の比較
医心 | 胸 満不得喘息脇痛骨疼喘逆上気欧吐煩心 |
甲乙 | 胸中満不得 息脇痛骨疼喘逆上気嘔吐煩心 |
外台 | 胸中満不得 息脅痛骨疼喘逆上気嘔吐煩心 |
復元 | 胸中満不得 息脇痛骨疼喘逆上気欧吐煩心 |
- 得:この後、『医心』だと「喘」がありますが、「不得息」でひとつの病症名と思われるので採らず。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①胸中満、不得息、脇痛骨疼、喘逆上気、欧吐煩心。
胸が脹り苦しく、呼吸がしづらく、脇が痛み疼き、息苦しく咳込み、嘔吐、胸苦しい。
胸部の症状(呼吸器、上部消化管を含む)に使われています。
膻中
各書の主治条文
医心主治条文
胸痺心痛満短気欬喘不得息口不能言
甲乙主治条文
欬逆上気唾喘短気不得息口不得1言●亶中主之(巻之九 邪在肺五臟六腑受病発咳逆上気第三)
外台主治条文
胸痺心痛煩満欬逆喘唾短気不得息不能言
参考
『千金』巻三十
膻中華蓋 主短気不得息不能言(心腹第二欬逆上気)
[1] 頭注:得乃能字誤
主治条文の比較
医心 | 胸痺心痛 満短気欬 喘 不得息口不能言 |
甲乙 | 欬逆上気唾喘短気不得息口不得言 |
外台 | 胸痺心痛煩満 欬逆 喘唾短気不得息 不能言 |
復元 | 胸痺心痛煩満 欬逆上気唾喘短気不得息口不得言 |
- 煩:『外台』に従い採ります。
- 上気:『甲乙』に従い採ります。
- 短気:『甲乙』『外台』の字順に従います。
- 口:『医心』『甲乙』に従い採ります。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①胸痺、心痛煩満、欬逆上気、唾、喘、短気不得息、口不得言。
胸痺、胸が痛み苦しく、咳込み、痰が出て、呼吸が苦しく、息切れし、しゃべることが困難。
「胸痺」は病名で、心痛以下がその具体的な症状と考えました。
「心痛」とありますが、実際に「心臓」の痛みなのかこれだけではわからないので、胸の痛みにとどめています。
「唾」は「痰」のことと解釈しました。参考「肺兪」「天容」
「口不能言」しゃべることが難しいくらい息切れ、呼吸が苦しいと思われます。
中庭
各書の主治条文
医心主治条文
胸脇𣛰満鬲塞心下嚮嚮然食飲不下欧吐食入腹還出
甲乙主治条文
胸膓1榰満鬲塞飲食不下嘔吐食復還出●中庭主之(巻之九 肝受病及衛気留積発胸脇満痛第四)
外台主治条文
胸脅支満膈寒飲食不下嘔吐食復還出
[1] 頭注:膓乃脇字誤
主治条文の比較
医心 | 胸脇𣛰満鬲塞心下嚮嚮然食飲不下欧吐食入腹還出 |
甲乙 | 胸膓榰満鬲塞 飲食不下嘔吐食 復還出 |
外台 | 胸脅支満膈寒 飲食不下嘔吐食 復還出 |
復元 | 胸脇榰満鬲塞心下嚮嚮然飲食不下欧吐食入復還出 |
- 鬲:「鬲」と「膈」は同音同義。
- 塞:『医心』『甲乙』に従います。
- 心下嚮嚮然:『医心』に従い採ります。
- 入:『医心』に従い採ります。
- 復:『甲乙』『外台』に従います。
単位条文化
『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。
①胸脇榰満、鬲塞、心下嚮嚮然、飲食不下、欧吐、食入復還出。
胸、脇がつかえて苦しく、鬲が塞がり、心窩部が脹り、飲食物が下りていかず、嘔吐し、食べると戻してしまう。
「鬲塞」:「飲食不下、欧吐、食入復還出」とあるように、食べても戻してしまう現象を、鬲=横隔膜が塞がってしまっているためと考えていたと思われます。
「心下嚮嚮然」:「嚮」は「響」と通じ、胃にガスが溜まって、叩くとポンポン鳴ることをいっていると思われます。
紫宮・玉堂・膻中・中庭はいずれも胸脇のつかえ、咳、嘔吐といった胸部の症状(呼吸器、上部消化管を含む)に使われています。
以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。
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