肩のツボ③―肩外兪・肩中兪・曲垣・缺盆・臑会

肩外兪・肩中兪・曲垣・缺盆・臑会

肩のツボの3回目です。今回は肩甲骨の内側の上方にある肩外兪、肩中兪、肩甲骨の上部にある曲垣、鎖骨上窩にある缺盆、上腕にある臑会の『明堂』復元主治条文をみていきます。

肩のツボ①―肩井・肩貞・巨骨・天髎
肩のツボ②―肩髃・肩髎・臑兪・秉風・天宗

目次

肩凡二十八穴第十三

肩外兪

各書の主治条文

医心主治条文
 肩甲中痛熱而寒至肘

甲乙主治条文
 肩胛申1痛而寒至肘●肩外輸主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)

外台主治条文
 肩甲中痛熱而寒至肘

参考
『新雕孫真人千金方』巻三十
 肩外兪 主肩胛痛熱而寒至肘(舌病肩背痛)

[1] 頭注:他本胛申作胛甲此誤

主治条文の比較

医心肩甲中痛熱而寒至肘
甲乙肩胛申痛 而寒至肘
外台肩甲中痛熱而寒至肘
復元肩胛中痛而寒至肘
  • 熱:『医心』『外台』『新雕孫真人千金方』に従い採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①肩胛中痛、熱而寒至肘。

肩甲骨が痛み、熱して冷え、肘の方までそうした症状がある。

『甲乙』では巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五に置かれていることから、局所の症状と思われます。
「熱而寒」の「而」を順接読めば、熱感があって、後に寒気を感じている。逆接に読めば、肩甲骨は熱感があるが、肘の方は冷える。ただ後者の場合、肩甲骨と肘を対立させたいのだから「肘寒」と書くと思われるので、前者の方が妥当でしょうか。
だとすれば炎症があったために熱があったのが治まったということ?

肩中兪

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱厥目不明欬上気唾血

甲乙主治条文
 寒熱厥1目不明欬上気唾血●肩中輸主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)

外台主治条文
 寒熱厥目不明欬上気唾血

[1] 頭注:他本厥作癧 医統本は「癧」

主治条文の比較

医心寒熱厥目不明欬上気唾血
甲乙寒熱厥目不明欬上気唾血
外台寒熱厥目不明欬上気唾血
復元寒熱厥目不明欬上気唾血

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①寒熱、厥、目不明、欬上気、唾血。

悪寒発熱、厥、目が見えず、咳込み、唾や痰に血が混じっている。

大迎でも触れましたが、「厥」については正直よくわかりません。気が逆上したり、偏在したりすること、気の流れの異常。現代医学でいうところのショック状態のように思えます。おそらくこの条文においても全身状態としては悪いことを言っていると思われます。

曲垣

各書の主治条文

医心主治条文
 肩甲周痺

甲乙主治条文
 肩脾1周痺●曲垣主之(巻之十 手太陰陽明太陽少陽脈動発肩背痛肩前臑皆痛似抜第五)

外台主治条文
 肩痛周痺

[1] 頭注:脾乃胛字誤 医統本は「胛」

主治条文の比較

医心肩甲周痺
甲乙肩脾周痺
外台肩痛周痺
復元周痺
  • 胛:医統本に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①肩胛周痺。

肩甲骨の周囲が痛む。

局所の症状。

缺盆

各書の主治条文

医心主治条文
 寒熱胸中熱満肩痛引項臂背不挙喉痺欬唾血

甲乙主治条文
 寒熱癧適胸中満大気1缺盆中満痛者死外漬2不死肩引項不挙缺盆中痛汗不出喉痺欬嗽血●缺盆主之(8-1下)

外台主治条文
 寒熱歴適胸中満有大気缺盆中満痛者死外潰不死肩引項臂不挙缺盆中痛汗出喉痺欬嗽血

[1] 頭注:他本作有大気 医統本は「有大気」
[2] 頭注:詳此義漬宜作潰 医統本は「潰」

主治条文の比較

スクロールできます
医心寒熱  胸中熱満              肩痛引項臂背不挙       喉痺欬唾血
甲乙寒熱癧適胸中 満 大気缺盆中満痛者死外漬不死肩 引項  不挙缺盆中痛汗不出喉痺欬嗽血
外台寒熱歴適胸中 満有大気缺盆中満痛者死外潰不死肩 引項臂 不挙缺盆中痛汗 出喉痺欬嗽血
復元寒熱癧適胸中大気缺盆中満痛者死外不死肩引項 不挙缺盆中痛汗出喉痺欬
  • 熱:『医心』に従い採ります。
  • 有:医統本、『外台』に従い採ります。
  • 潰:医統本、『外台』に従います。
  • 痛:『医心』に従い採ります。
  • 臂:『医心』『外台』に従い採ります。
  • 不:『甲乙』に従い採ります。
  • 唾:『医心』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①寒熱、癧適、胸中熱満、有大気、缺盆中満痛者死、外潰不死、肩痛引項、臂不挙、缺盆中痛、汗不出、喉痺、欬唾血。

悪寒発熱、頸部リンパ節が腫れ、胸に熱感があり苦しく、缺盆が腫れて痛むものは死に、腫れが潰れるものは生きる、肩が痛んでそれが項まで及び、腕が上がらず、缺盆が痛み、汗は出ず、のどが痛み、咳が出て唾や痰に血が混じっている。

おそらく結核性リンパ節炎。結核菌が鎖骨上リンパ節に及んでいます。頸部、鎖骨上リンパ節の腫脹のために肩や項の痛み、腕が上がらないといった症状が生じています。肺結核も合併しているためか、のどの痛み、咳、血痰といった呼吸器症状が生じていると思われます。

臑会

各書の主治条文

医心主治条文
 癭気腠 注云癭頸腫疾也腠膚理也

甲乙主治条文
 腠理気●臑会主之(巻之十 水漿不消発飲第六)
 癭●天窓1〈一作天容千金作天府〉及臑会主之(巻之十二 気有所結発瘤癭第九)

外台主治条文
 癭臂気腫腠理気

参考

『外台』内閣文庫 江戸医学館精写本
 項癭気瘤臂痛気腫腠理気

『千金』巻三十
 臑会申脈 主癲疾腠気(風痺第四癲疾)
 天府臑会気舍 主瘤癭気咽腫〈甲乙云天府作天窓〉(癭瘤第六癭瘤)
 

[1] 原文:夫窓 頭注:夫乃天字誤 天容の誤り(『外台』「天窓」に「癭」なし、「天容」あり)

主治条文の比較

医心癭 気 腠
甲乙癭   腠理気
外台癭臂気腫腠理気
復元癭  腠理気
  • 気:『医心』『千金』により採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①癭気。
②腠理気。

①癭気。
頸の腫物。おそらく頸部リンパ節の腫れ。

②腠理気。
皮膚の腫物、発疹。
「腠理」は皮膚のきめ。
「気」は「邪気」のことで、何かしらの余計なものが皮膚にあることを言っていると思われます。おそらくできものなり発疹のことを言っているか。
『甲乙』では巻之十 水漿不消発飲第六に置かれていることから、浮腫のことかとも考えましたが、黄龍祥は錯簡ではないかと述べています(黄龍祥校注『黄帝針灸甲乙経(新校本)』中国医薬科技出版社 1990年 p486)。「臑会」は「隠白」の次で、最後に書かれており、『甲乙』のツボの記載順序と合わないこと、この篇題と臑会の主治条文の内容とが合わないこと、『聖済総録』巻193 治水飲不消灸刺法にこの条文が引用されていないこと(他の条文は引用されている 参考https://www.digital.archives.go.jp/img/4106130/14)から、錯簡ではないかと考えています。

水漿不消發飲第六
溢飲脇下堅痛●中腕1主之
腰清脊強四支解墮善怒欬少気鬱然不得息厥逆肩不可挙馬刀痿身瞤●章門主之
溢飲水道不通溺黄小腹痛裏急腫洞泄體痛〈一云髀痛〉引骨●京門主之
飲渇身伏多唾●隠白主之
腠理気●臑会主之

[1] 医統本は「中脘」

鍼灸甲乙経 明藍格抄本 巻之十

①②と分けずにひとつの条文、ひとつの病態から起こっている症状と考えるならば、風疹あるいは麻疹の類かもしれません。(追記2023.7.13)

肩外兪、曲垣は肩甲骨周囲の痛みといった近隣の症状に使われています。
肩中兪は悪寒発熱、咳、血痰といった感染症の症状で、それが悪化して全身状態が悪いものに使われています。
缺盆は結核性リンパ節炎と思われる症状に、臑会も頸部のリンパ節の腫れに使われています。また臑会は、どういった機序かわかりませんが、皮膚のできものと思われる症状にも使われています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次