耳まわりのツボ②―聴宮・角孫・瘈脈・顱息・翳風

聴宮・角孫・瘈脈・顱息・翳風

前回に引き続き耳まわりのツボです。耳の前に位置する聴宮、耳の上に位置する角孫、耳の後ろに位置する瘈脈、顱息、翳風の『明堂』復元主治条文をみていきます。

耳まわりのツボ①―上関・下関・耳門・和髎・聴会

目次

耳前後凡二十穴第十一

聴宮

各書の主治条文

医心主治条文
 聾无聞若蝉鳴(瘈瘲)眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出

甲乙主治条文
 癲疾狂瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出●聴宮主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 耳聾填填如無聞膿膿𦖅𦖅1若蟬鳴頞頰鳴●聴宮主之下頭2取之譬如破聲刺此〈九巻所謂發蒙者也〉(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)

外台主治条文
 耳聾填填如無聞膿膿䏆䏆若蝉鳴鴳鴂鳴驚狂瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出

[1] 頭注:他本作憹憹嘈嘈此似誤
[2] 頭注:他本頭作頰

主治条文の比較

医心 聾   无聞    若蝉鳴      瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出
甲乙耳聾填填如無聞膿膿𦖅𦖅若蟬鳴頞頰鳴癲疾狂瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出
外台耳聾填填如無聞膿膿䏆䏆若蝉鳴鴳鴂鳴驚 狂瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出
復元耳聾填填如無聞𦗳𦗳䏆䏆若蝉鳴鴳鴂鳴 狂瘈瘲眩仆癲疾瘖不能言羊鳴沫出
  • 𦗳𦗳䏆䏆:「和髎」主治条文と同じ字を採います。
  • 驚:『外台』に従います。「癲疾」だと後の文と重なります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の2条文になります。

①耳聾填填如無聞、𦗳𦗳䏆䏆若蝉鳴、鴳鴂鳴。
②驚、狂、瘈瘲、眩仆、癲疾、瘖不能言、羊鳴沫出。

①耳聾填填如無聞、𦗳𦗳䏆䏆若蝉鳴、鴳鴂鳴。
難聴、ふさがって音が聞こえない。耳鳴り、蝉や鳥が鳴く音がする。
「鴳」はミフウズラ。「鴂」はモズ。あくまで鳥の一例を挙げているだけだと思います。

②驚、狂、瘈瘲、眩仆、癲疾、瘖不能言、羊鳴沫出。
ひきつけ、精神錯乱、けいれん、めまいがして倒れ、ものを言うことができず、羊の鳴くような音を発し、口から泡を吹く。
てんかん、けいれん発作。「聴会」にも同様の主治条文があります。

角孫

各書の主治条文

医心主治条文
 歯牙不可嚼齗腫

甲乙主治条文
 歯牙不可嚼齗腫●角孫主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 歯牙不可嚼齲腫

主治条文の比較

医心歯牙不可嚼齗腫
甲乙歯牙不可嚼齗腫
外台歯牙不可嚼齲腫
復元歯牙不可嚼
  • 齗:『医心』『甲乙』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①歯牙不可嚼、齗腫。

歯で噛み砕くことができず、歯茎が腫れている。

角孫は「在耳郭中間上※、開口有孔」(※『甲乙』には「上」がないが、『医心』『外台』に基づき補う)と、耳の傍にあるにもかかわらず耳の症状の記載がありません。もともとあったが伝わらなかった?それともやっぱりない?

瘈脈

各書の主治条文

医心主治条文
 小児癇瘛瘲歐吐洩注驚恐失精視瞻不明眵䁾

甲乙主治条文
 小児癇痓嘔吐泄注驚恐失精瞻視不明眵䁾●瘈脈主之1(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 小児癇瘈吐泄驚恐失精視瞻不明眵矒

[1] 医統本は「瘈脈及長強主之」となっていますが、明鈔本には「瘈脈主之」の傍に付記して「及長強」とあり、もともとこの三字はなく、この部分を引用する『医学綱目』巻三十六にもない。『医心』『外台』の「長強」の主治条文にもこの文に該当するものはないので、誤入と判断。

主治条文の比較

医心小児癇瘛瘲歐吐洩注驚恐失精視瞻不明眵䁾
甲乙小児癇痓 嘔吐泄注驚恐失精瞻視不明眵䁾
外台小児癇瘈  吐泄 驚恐失精視瞻不明眵矒
復元小児癇瘛瘲歐吐泄注驚恐失精視瞻不明眵
  • 瘛瘲:『医心』に従います。参考『千金』巻三十「瘈脈長強 主小児驚癎瘈瘲多吐泄注驚恐失精視瞻不明眵䁾」(小児病第九)
  • 視瞻:『医心』『外台』に従います。
  • 䁾:『医心』『甲乙』に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①小児癇、瘛瘲、歐吐、泄注、驚恐、失精、視瞻不明、眵䁾。

小児のひきつけ、けいれん、嘔吐、下痢、パニック、目がうつろで、焦点が合わず、よく見えない。

小児のけいれん発作。
「失精」夢精の意味もありますが、ここでは目に精気がないことをいっていると考えました。
「眵䁾」目やにあるいはただれ目を意味しますが、この条文ではどう解釈したらいいのか。目からの感染などにより、熱性けいれんが起こっているのでしょうか。ただ「眵䁾」とは関係なしに、小児のけいれん発作に使っていたのではないかとなんとなく思っています。

顱息

各書の主治条文

医心主治条文
 身熱頭脇痛小児驚癇喘不得息耳中鳴不聞人言

甲乙主治条文
 身熱痛胸脇痛不可反側●顱息主之(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 耳鳴●百会及頷厭顱息天窓大陵偏歴前谷後谿皆主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 小児病端1不得息●顱𩔨〈一作息〉主之(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 身熱頭脅痛不可反側小児癇喘不得息耳鳴

[1] 頭注:他本病端作驚癇此以誤 医統本「小児驚癇不得息」

主治条文の比較

医心身熱 頭脇痛    小児驚癇喘不得息耳中鳴不聞人言
甲乙身熱痛胸脇痛不可反側小児 病端不得息耳 鳴
外台身熱 頭脅痛不可反側小児 癇喘不得息耳 鳴
復元身熱 脇痛不可反側小児驚癇喘不得息耳不聞人言
  • 頭:『医心』『外台』に従います。
  • 驚癇:『医心』、医統本に従います。
  • 喘:『医心』『外台』に従います。参考『千金』「顱息 主癎喘不得息」(小児病第九)
  • 中:『医心』に従い採ります。
  • 不聞人言:『医心』に従い採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。

①身熱、頭脇痛、不可反側。
②小児驚癇、喘不得息。
③耳中鳴、不聞人言。

①身熱、頭脇痛、不可反側。
身体が熱く、頭痛、脇が痛み、身体をねじることができない。
熱病(感染症)の症状。脇が痛むのは発熱に伴う筋肉痛と思われます。

②小児驚癇、喘不得息。
小児のひきつけ、息苦しく呼吸が困難。

③耳中鳴、不聞人言。
耳鳴り、人の言うことが聞こえない。

翳風

各書の主治条文

医心主治条文
 聾噼不正失欠口(噤不開)痓瘖不能言

甲乙主治条文
 痓不能言●翳風主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 聾●翳風及会宗下空主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 口僻不正失欠口不開●翳風主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 聾僻不正失欠口不開痓不能言

主治条文の比較

医心聾 噼不正失欠口噤不開痓瘖不能言
甲乙聾口僻不正失欠口 不開痓 不能言
外台聾 僻不正失欠口 不開痓 不能言
復元噼不正失欠口不開痓不能言
  • 口:『甲乙』に従い採ります。
  • 噤:『医心』に従い採ります。
  • 瘖:『医心』に従い採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の3条文になります。

①聾。
②口噼不正、失欠、口噤不開。
③痓、瘖不能言。

①聾。
難聴。

②口噼不正、失欠、口噤不開。
口が歪み均整がとれていない。口が大きく開かない。口が強ばって開かない。
「口噼不正」は顔面神経麻痺のためか。
「失欠」の「欠」は欠伸の「欠」。

③痓、瘖不能言。
けいれん、しゃべれない。

聴宮、顱息、翳風は難聴、耳鳴りといった耳の症状に使われています。角孫は歯の症状に使われており、耳の症状の記載はありません。瘈脈、顱息は小児のひきつけ、聴宮はてんかん発作に。また顱息は熱病、翳風は顔面神経麻痺やあごのこわばり、あるいはけいれんに伴った発話困難に使われています。

瘈脈と顱息―耳間青脈

『甲乙』巻之三には次のようにあります。

瘈脈 一名資脈 在耳本後雞足青絡脈2刺出血如豆汁3
顱息 在耳後間青絡4脈 足少陽脈気所発 刺入一分 出血多則殺人 灸三壮

[1] 『医心』『外台』『千金』「後」なし。
[2] 『医心』『千金』「青脈」、『外台』「青絡」。
[3] 『医心』『外台』「汁」なし。
[4] 『医心』『外台』『千金』「絡」なし。また『外台』『千金』「耳後青脈間」。

瘈脈と顱息はどちらも耳の後ろの青脈にあり、そこから出血させていたことがわかります。

また

邪在肝、則両脇中痛、寒中、悪血在内、行善掣節、時脚腫、取之行間、以引脇下、補三里、以温胃中、取血脈、以散悪血、取耳間青脈、以去其掣(『霊枢』五邪(20))

嬰児病、其頭毛皆逆上者、必死。耳間青脈起者、掣痛。大便赤辦、飧泄、脈小者、手足寒、難已。飧泄、脈小、手足温、亦易已(『霊枢』論疾診尺(74))

耳後完骨上有青絡盛、臥不静、是癇候、青脈刺之令血出也(『千金』巻五「候癇法」)

この三つの条文から「耳間青脈」で小児のひきつけを診断し、そこから血液を出すことで治療をしていたことがわかります。

もともと「耳間青脈」が診断部位かつ治療部位でしたが、これが「瘈脈」と「顱息」の二穴に分かれたと考えられます。そのため、この二穴の『明堂』の主治症には小児のひきつけがあります。

参考 黄龍祥『中国針灸学術史大綱[増修版]』知音出版社 2002年 p502

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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