耳まわりのツボ①―上関・下関・耳門・和髎・聴会

上関・下関・耳門・和髎・聴会

今回は耳まわりのツボです。
顔のツボのまとめは、耳まわりのツボと合わせてやろうかと思います。
耳の前側に位置する上関、下関、耳門、和髎、聴会の『明堂』主治条文の復元をみていきます。

目次

耳前後凡二十穴第十一

上関

各書の主治条文

医心主治条文
 耳痛鳴上歯齲痛口(噼噤)不開(𤸞)瘲沫出青盲悪風寒

甲乙主治条文
 痓●取𦃞1会及百会天柱鬲輸上関光明主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱●取五処及天柱風池腰輸長強大杼中膂内輸上窌齗交上関関元天牖天容合谷陽谿関衝中渚陽池消濼少澤前谷腕骨陽谷小海2然谷至陰崑崙主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 瘈瘲口沫出●上関主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 青盲𥌰目悪風寒●上関主之(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
 耳痛聾鳴●上関主之刺不可深(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 上歯齲痛悪寒者●上関主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)
 上歯齲痛●上関主之3(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 脣吻強上歯齲痛口僻噤不開耳痛聾齆瘈瘲口沫出寒熱痓青盲𥌰目悪風寒

参考

『千金』巻三十
上関主瘈瘲沫出寒熱痓引骨痛(風痺第四風病)
上関主瘈瘲沫出寒熱痓(風痺第四癲疾)

[1] 頭注:他本𦃞作顖
[2] 原文:少海
[3] 医統本にはこの条文なし

主治条文の比較

医心耳痛 鳴    上歯齲痛口噼噤不開瘈瘲 沫出   青盲  悪風寒
甲乙耳痛聾鳴    上歯齲痛悪寒者  瘈瘲口沫出寒熱痓青盲𥌰目悪風寒
外台耳痛聾 齆脣吻強上歯齲痛口僻噤不開瘈瘲口沫出寒熱痓青盲𥌰目悪風寒
復元耳痛聾鳴    上歯齲痛口噼噤不開瘈瘲口沫出寒熱痓青盲𥌰目悪風寒
  • 口噼噤不開:『医心』『外台』に従います。「上歯齲痛悪寒者」だと「正営」と同じになります。
  • 寒熱痓:『外台』『千金』の字順に従います。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の6条文になります。

①耳痛聾鳴。
②上歯齲痛、口噼、噤不開。
③瘈瘲、口沫出。
④寒熱。
⑤痓。
⑥青盲、𥌰目、悪風寒。

①耳痛聾鳴。
耳の痛み、難聴、耳鳴り。
耳の症状。

②上歯齲痛、口噼、噤不開。
上歯が虫歯で痛み、口が歪み、口が強ばって開かない。
虫歯がひどくなって顎関節まで影響しているか。

③瘈瘲、口沫出。
けいれん、口から泡を吹く。

④寒熱。
悪寒発熱。

⑤痓。
けいれん。

⑥青盲、𥌰目、悪風寒。
緑内障、あるいは目が病み、風にあたったり、寒さにあうのを嫌がる。
目の症状。「青盲」については「承光」あるいは「瞳子髎」参照。
「青盲」と「𥌰目、悪風寒」で分けてみました。
「悪風寒」を全身症状としてではなく、「目」に限定するならば、目が乾燥していたり、目の表面が傷ついていたり、鼻涙管が狭くなったりして涙が出て困ってる?

下関

各書の主治条文

医心主治条文
 失欠下歯齲痛耳(聾)鳴下牙痛痓口噼䪼痛悪風寒不可以嚼

甲乙主治条文
 口僻●顴窌及齗交下関主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 耳聾鳴●下関及陽谿関衝掖門陽谷主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 失欠下歯齲下牙痛䪼腫●下関主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 失欠下歯齲下牙痛䪼腫耳聾鳴痓口僻耳中有乾底聤耳有膿不可灸之

主治条文の比較

医心失欠下歯齲痛耳聾鳴下牙痛痓口噼䪼痛悪風寒不可以嚼
甲乙失欠下歯齲    下牙痛   䪼腫
外台失欠下歯齲 耳聾鳴下牙痛痓口僻䪼腫       耳中有乾底聤耳有膿不可灸之
復元失欠下歯齲痛耳聾鳴下牙痛痓口噼䪼痛悪風寒不可以嚼
  • 痓口噼:『医心』に従い採ります。
  • 悪風寒不可以嚼:『医心』に従い採ります。
  • 耳中有乾底聤耳有膿不可灸之:『甲乙』巻之三からの引用。

単位条文化

①失欠、下歯齲痛。
②耳聾鳴。
③下牙痛。
④痓、口噼。
⑤䪼痛、悪風寒、不可以嚼。

①、③、⑤の「䪼痛」は『甲乙』ではひとつの条文になっていますが、『医心』の字順に従ったため分離して上記のようにしてみました。

①失欠、下歯齲痛。
口が大きく開かず、下歯が虫歯で痛む。

②耳聾鳴。
耳鳴り、難聴。

③下牙痛。
下歯の痛み。

④痓、口噼。
けいれん、口が歪む。

⑤䪼痛、悪風寒、不可以嚼。
頬が痛み、風にあたったり、寒さにあうのを嫌がり、咀嚼ができない。
「腫」ではなく「痛」。「悪風寒」を全身症状としてではなく、「䪼」に限定して解釈するならば、三叉神経痛か。

耳門

各書の主治条文

医心主治条文
 耳鳴聾上歯齲頤頷痛

甲乙主治条文
 耳鳴聾頭頷痛●耳門主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 上歯齲●兌端及耳門主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 耳痛鳴聾頭頷痛上歯齲

主治条文の比較

医心耳 鳴聾   上歯齲頤頷痛
甲乙耳 鳴聾頭頷痛上歯齲
外台耳痛鳴聾頭頷痛上歯齲
復元耳 鳴聾   上歯齲頭頷痛
  • 頭頷痛:『医心』の字順に従い、『甲乙』『外台』に従い「頤」ではなく「頭」としました。旧鈔零本は「頭頷痛」。

単位条文化

①耳鳴聾。
②上歯齲
③頭頷痛。

『甲乙』では「耳鳴聾、頭頷痛」ですが、ここではあくまで『医心』に従いました。
②③をひとつの条文にするか分けるか迷いましたが、分けることにしました。

①耳鳴聾。
耳鳴り、難聴。

②上歯齲。
上歯の虫歯。

③頭頷痛。
頭、あごの痛み。
局所の痛み。

和髎

各書の主治条文

医心主治条文
 頭重頷痛引耳中之𦗳𦗳䏆䏆

甲乙主治条文
 頭重頷痛引耳中膿膿1嘈嘈●和窌2主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)

外台主治条文
 頭重頷痛引耳中膿膿䏆䏆

[1] 頭注:膿皆憹字誤
[2] 「窌」=「髎」

主治条文の比較

医心頭重頷痛引耳中𦗳𦗳䏆䏆
甲乙頭重頷痛引耳中 膿膿嘈嘈
外台頭重頷痛引耳中 膿膿䏆䏆
復元頭重頷痛引耳中 𦗳𦗳䏆䏆
  • 之:衍字?。
  • 𦗳𦗳䏆䏆:『医心』に従う。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭重頷痛、引耳中𦗳𦗳䏆䏆。

頭が重く、あごが痛み、痛みが耳まで及び、耳鳴りがする。

「𦗳𦗳䏆䏆」は蝉や鳥が鳴く音。次回やる「聴宮」にもあり。

聴会

各書の主治条文

医心主治条文
 聾歯痛狂驚瘈瘲眩仆瘖不能言羊鳴吐沫

甲乙主治条文
 寒熱頭痛喘喝目不能視●神庭主之其目泣出頭不痛者●聴会取之(顖会の誤り)(巻之八 五臟伝病発寒熱第一上)
 聲1耳中癲溲癲溲者若風●聴会主之(巻之十二 手太陽少陽脈動発耳病第五)
 歯齲痛●聴会及衝陽主之(巻之十二 手足陽明脈動発口歯病第六)

外台主治条文
 寒熱喘喝目視不能視目泣出頭痛耳中顛颼顛颼者若風歯齲痛(下線部:顖会主治条文)

[1] 頭注:聲乃聾字誤

主治条文の比較

医心聾         歯 痛狂驚瘈瘲眩仆瘖不能言羊鳴吐沫
甲乙聲耳中癲溲癲溲者若風歯齲痛
外台 耳中顛颼顛颼者若風歯齲痛
復元耳中顛颼顛颼者若風歯齲痛狂驚瘈瘲眩仆瘖不能言羊鳴吐沫
  • 聾:『医心』『甲乙』頭注に従います。
  • 顛颼:『外台』に従います。
  • 狂驚瘈瘲眩仆瘖不能言羊鳴吐沫:『医心』に従い採ります。参考『千金』巻三十「脳戸聴会風府 聴宮翳風 主骨痠眩狂瘈瘲口噤喉鳴沫出瘖不能言」(風痺第四癲疾)

単位条文化

『甲乙』を参考に単位条文化すると、次の3条文になります。

①聾、耳中顛颼(顛颼者若風)。
②歯齲痛。
③狂、驚、瘈瘲、眩仆、瘖不能言、羊鳴吐沫。

①聾、耳中顛颼(顛颼者若風)。
難聴、耳鳴り(風のような音)。
「顛颼者若風」は注文と考えて()としました。

②歯齲痛。
虫歯の痛み。

③狂、驚、瘈瘲、眩仆、瘖不能言、羊鳴吐沫。
精神錯乱、ひきつけ、けいれん、めまいがして倒れ、ものを言うことができず、羊の鳴くような音を発し、口から泡を吹く。
てんかん、けいれん発作。「羊鳴」は発作時のうなり声。

上関、下関、耳門、和髎、聴会は基本的に耳鳴り、難聴といった耳の症状、虫歯、歯痛といった歯の症状に使われています。上関は目に近いため目の症状に、下関は頬の痛み、耳門、和髎は頭、あごの痛みに使われています。上関、下関、聴会はけいれんなどの全身症状にも用いられています。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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