頭のツボ③ー上星・顖会および『甲乙経』のツボの配列規則

引き続き頭のツボです。

『甲乙経』のツボの記載順序および頭のツボ①―神庭
頭のツボ②―曲差・本神・頭維

目次

頭直鼻中髪際一寸循督脈却行至風府凡八穴第二

上星

各書の主治条文

医心主治条文
 風眩顔清煩欧癲(疾)面(膚腫)鼻衂頭痛引頷痎瘧熱病不汗出目痛不能視

甲乙主治条文
 熱病汗不出●上星主之先取譩譆後取天牖風池(巻之七 六経受病発傷寒熱病第一中)
 㾬瘧●上星主之先取譩譆後取天牖風池大杼(巻之七 陰陽相移発三瘧第五)
 面胕腫●上星主之先取譩譆後取天牖風池(巻之八 腎風発風水面胕腫第五)
 風眩善嘔煩満●神庭主之 如顔清〈一作青〉者●上星主之取上星者先取譩譆後取天牖風池(巻之十 陽受病発風第二下)
 風眩引頷痛●上星主之先取譩譆後取天牖風池(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾●上星主之先取譩譆後取天牖風池(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 目中痛不能視●上星主之先取譩譆後取天牖風池(巻之十二 足太陽陽明手少陽脈動発目病第四)
 鼻鼽衂●上星主之先取譩譆後至[1]天牖風池(巻之十二 血溢発衂第七)

外台主治条文
 風眩善嘔煩満顔青㾬瘧鼻鼽衂熱病汗不出目中痛不能視面腑腫癲疾凡云上星主之者皆先取譩譆後取天牖風池

[1]頭注:至乃取字誤

主治条文の比較

医心風眩顔清煩欧  癲疾面膚腫鼻 衂頭痛引頷 痎瘧熱病不汗出目 痛不能視
甲乙風眩善嘔煩満顔清癲疾面胕腫鼻鼽衂風眩引頷痛㾬瘧熱病汗不出目中痛不能視
外台風眩善嘔煩満顔青癲疾面腑腫鼻鼽衂     㾬瘧熱病汗不出目中痛不能視
復元風眩顔清煩満善欧癲疾面膚腫鼻鼽衂頭痛引頷痛痎瘧熱病不汗出目中痛不能視
  • 顔清煩満善欧:『医心』の字順に従います。
  • 頭痛:『医心』を採ります。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の8条文になります。

①風眩、顔清、煩満、善欧。

②癲疾。

③面膚腫。

④鼻鼽衂。

⑤頭痛引頷痛。

⑥痎瘧。

⑦熱病不汗出。

⑧目中痛不能視。

⑦⑧のように『甲乙』は分けていますが、「神庭」「本神」「頭維」にあるように、外邪が原因で⑦⑧の症状が生じているとすれば、ひとつの条文に解釈することもできます。

「上星主之先取譩譆後取天牖風池」

『甲乙』『外台』に「上星」の主治条文には、「上星主之先取譩譆後取天牖風池」といった取穴法があります。『甲乙』では、「㾬瘧」の時にはさらに「大杼」を取穴しています。

これに従えば先ず「譩譆」に対して施術し、次に「上星」、そして「天牖」「風池」となるでしょうか。肩背部→頭部→頸部項部の順番です。

このような取穴法があるようですが、これがなぜこのような取穴なのか、どうしてこの順番で取穴するのか、についてはわかりません。今後の課題として挙げておきます。

顖会

各書の主治条文

医心主治条文[1]
 風眩頭痛煩心顔清目泣出痓寒熱喘目不能視瘧癲疾嘔沫僵仆

甲乙主治条文
 痓●取𦃞[2] 会及百会天柱鬲輸上関光明主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱頭痛喘喝目不能視●神庭主之 其目泣出頭不痛者●聴会[3]取之[4] (巻之八 五臟伝病発寒熱第一上)
 風眩善嘔煩満●神庭主之 如顔清〈一作青〉者●上星主之取上星者先取譩譆後取天牖風池 如頭痛顔青者●顖会主之(巻之十 陽受病発風第二下)
 癲疾嘔沫暫起僵仆悪見風寒面赤腫●顖会主之(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)
 小児驚癇●本神及前頂𦃞会[5] 天柱主之(百会の主治条文)(巻之十二 小児雑病第十一)

外台主治条文
 痓風眩善嘔煩満頭痛顔青癲疾嘔沫暫起僵仆悪見風寒面赤腫
 寒熱喘喝目視不能視目泣出頭痛耳中顛颼顛颼者若風歯齲痛(聴会から補う。下線部は聴会の主治)

[1] 『医心』では「顖」の字が{四皿}を縦に並べたような漢字、右に{凸立}を縦に並べたような漢字が付記されている。いずれにせよ「囟」の字を意味していると思われる。「囟」は「顖」の異体字。
[2] 頭注:他本𦃞作顖
[3]『医心』に従い、「顖会」主治条文に改める。
[4] 「取之」:医統本「主之」
[5] 頭注:𦃞乃顖字誤 『医心』に従い、「顖会」ではなく「百会」の主治条文とする。『甲乙』のツボの配列規則※とも合う。
※これについては以下で説明します。

主治条文の比較

医心風眩頭痛  煩心  顔清           目泣出   痓寒熱喘 目不能視瘧癲疾嘔沫  僵仆
甲乙風眩  善嘔煩満頭痛顔青寒熱頭痛喘喝目 不能視目泣出頭不痛痓         癲疾嘔沫暫起僵仆悪見風寒面赤腫
外台風眩  善嘔煩満頭痛顔青寒熱  喘喝目視不能視目泣出頭 痛痓         癲疾嘔沫暫起僵仆悪見風寒面赤腫
復元風眩頭痛善嘔煩心  顔清           目泣出   痓寒熱喘喝目不能視瘧癲疾嘔沫暫起僵仆悪見風寒面赤腫
  • 「煩心」か「煩満」か:『医心』を採ります。
  • 「目泣出・・・寒熱喘喝目不能視」:『甲乙』『外台』ではひとつの条文だったが、『医心』の字順に従い、文を切って、順番を入れ替えました。

単位条文化

①風眩、頭痛、善嘔、煩心。

②顔清、目泣出。

③痓。

④寒熱、喘喝、目不能視。

⑤瘧。

⑥癲疾嘔沫、暫起僵仆。

⑦悪見風寒、面赤腫。

①②に関して、『甲乙』では「顔清」までをひとつの条文にしていますが、『医心』の字順に従い、文を切って、順番を入れ替えました。ここでは②を顔面神経麻痺の症状と考え、このように単位条文化しました。

③はひきつけ、痙攣。「痓」と「痙」は同じ意味。

⑤は「痎瘧」と同じ。悪寒と発熱を繰り返すもの。

⑥⑦は『甲乙』ではひとつの条文ですが、ここでは分けてみました。⑥はてんかん発作の症状。発作で倒れて、ちょっと起き上がっては倒れる。⑦は直訳すれば、風や寒さを嫌い、顔が赤く腫れる。おそらく冷たい風が顔に当たって、顔が腫れてしまっていると思われます。「悪見風寒」を狂犬病にみられる恐風症と考えることもできますが、「面赤腫」の扱いに困るので、「風寒」により「面赤腫」が生じていると解釈しました。

『甲乙』のツボの配列規則

黄龍祥によれば、『甲乙』巻之三のツボの配列順序と巻之七から巻之十二の各篇の主治条文中のツボの記載順序は一致します[1]。すなわち先ず頭、顔面、体幹部、次に四肢部のツボが記されます。頭、顔面、体幹部においては、頭、項、背、面、胸、腹の順に従い、方向は上から下、中央から両傍です。四肢部においては、手が先で足を後にし、手足いずれも陰経を先に記しますが、その順は太陰、厥陰、少陰であり、陽経は陽明、少陽、太陽の順に従い、方向はいずれも下から上です。

『明堂』はひとつのツボに対して種々の病名、症状を記していたと考えていますが、『甲乙』は複数穴が病症を主っていることがあります。この場合、その病症を一穴に帰属させる必要があります。

例えば『甲乙』では「唾血時寒時熱寫魚際尺澤」(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)、「痓先取太谿後取太倉之原主之」(巻之七 太陽中風感於寒湿発第四)、「霍乱泄出不自知先取太谿後取太倉之原」(巻之十一 気乱於腸[2]胃発霍乱吐下第四 )などのように複数穴が病症を主っています。これに対し『類成』ではいずれも一穴が病症を主っており、最初の条文であれば「魚際」が主治穴となっています。残念ながら『類成』は巻一しか現存していないため、「太谿」と「中脘(太倉之原)」の主治条文は正確にわかりませんが、『類成』を引用抜粋している『医心』を参照しますと、二番目、三番目の条文はどちらも「中脘」が主治穴であると考えられます。ちなみに『外台』はどうかというと、一番目の条文を「魚際」にも「尺澤」にも記載し、二番目、三番目の条文に関しても「太谿」にも「中脘」にも記載しています。『外台』に関してはまた今後述べたいと思います。

『甲乙』のツボの配列規則、すなわち巻之三のツボの配列順序と巻之七から巻之十二の各篇における病症の主治穴の順序は一致するという規則に従えば、複数穴が主治穴となっていても、前後の条文の主治穴から一穴に帰属させることができます。

先の例の「唾血時寒時熱寫魚際尺澤」の場合、この条文のひとつ前の条文は「寒濯濯舌煩(中略)少商主之」であり、ひとつ後の条文は「臂厥肩膺胸満痛(中略)太淵主之」であることから「魚際」が主治穴であることがわかります。「痓先取太谿後取太倉之原主之」に関しても、前の条文は「痓不能言翳風主之」、後の条文は「痓脊強裏緊腹中拘痛水分主之」であることから「中脘(太倉之原)」が主治穴であることがわかります。「霍乱泄出不自知先取太谿後取太倉之原」については、前の条文は「陽逆霍乱刺人迎刺入四分不幸殺人」、後の条文は「霍乱 巨闕 関衝 支溝 公孫 解谿主之」「霍乱泄注期門主之」「厥逆霍乱府舍主之」と続きます。ここにも複数穴が主治穴となっている条文がありますが、それは後で説明するとして、「霍乱泄出不自知」の主治穴は「中脘(太倉之原)」であることがわかります。

このように巻之三のツボの配列順序と巻之七から巻之十二の各篇における病症の主治穴の順序は一致するという規則に従えば、複数穴が主治穴となっていても、前後の条文の主治穴から一穴に帰属させることができます。

また『甲乙』のツボの配列規則により、前後の条文の主治穴の比較から、同名異穴の判別(頭臨泣-足臨泣、腹通谷-足通谷、頭竅陰-足竅陰、手三里-足三里、手五里-足五里)や、形が似ているため書き誤ったものの判別(少海→小海、懸釐→懸顱、然谷→陷谷、膈兪→膈関など)が可能となります。

後回しにした件ですが、「霍乱巨闕 関衝 支溝 公孫 解谿主之」や「寒熱取五処天柱 風池(中略)然谷 至陰 崑崙主之」(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)、「癲疾嘔沫神庭兌端 承漿主之」(巻之十一 陽厥大驚発狂癇第二)、「馬刀腫痿淵掖 章門 支溝主之」(巻之十一 寒[3]気客於経絡之中発癰疽風成発厲浸淫第九下[4])のように、「某穴及某穴、某穴・・・主之」あるいは「某穴、某穴、某穴・・・主之」と、とにかく主治穴を並べているものがあります。先の「寫某穴、補某穴」「先取某穴、後取某穴」が『類成』及び『医心』では一穴に主治症を帰属させているのに対し、とにかく主治穴を並べているものは『類成』及び『医心』では各々のツボに主治症を所属させています。すなわち「某穴及某穴、某穴・・・主之」あるいは「某穴、某穴、某穴・・・主之」と主治穴を並べている条文は、それぞれのツボの主治条文として採用する必要があります。

[1] 黄龍祥『黄帝明堂経輯校』pp259-260 中国医薬科技出版社 1987年
[2] 明抄本は「腹」。医統本に従う。
[3] 明抄本は「客」。医統本に従う。
[4] 明抄本は「第十」。医統本に従う。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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