お灸について―ご自宅でもできるお灸のすすめ

お灸と聞くとどんなことを思い浮かべるでしょうか?
「熱い」「悪いことをしたら据えられる」「お年寄りがする」といった感じでしょうか。

お灸は決してそんなことはなく、やり方さえわかれば非常に気持ちのいいものです。ご自身、ご家族の体調管理、養生にも使える便利なものです。

今回はお灸の効果と、ご自宅でもできるお灸のやり方をご紹介します。

目次

お灸とは

お灸は”もぐさ”を使って、熱による刺激を与えて病気やけがを治す施術法です。

別名”やいと”とも言います。お灸による焼け痕を「焼処(ヤキト)」と呼んでいて、それが変化して”やいと”になったと言われています。”ヤケド”という受動的な表現ではなく、”ヤキト”という積極的な表現(”焼きそば”、”焼き魚”とは言うけど、”焼けそば”、”焼け魚”とは言わない)からも、積極的な行為であったと考えられます。

”もぐさ”はヨモギの葉の裏にある綿毛を使ってつくられます。
ヨモギは昌蒲とともに、古くから毒気を祓う力を持つ植物として利用されていました。

ヨモギの葉の裏には、白くてふわふわした綿毛が生えています。この綿毛を集めてできるのが、お灸に使われる”もぐさ”です。
5月中旬から9月頃にかけてヨモギを刈り取ります。葉をむしり取り、天日や機械で乾燥させ、石臼で挽いて粉々にし、その粉を篩にかける工程を繰り返して葉脈や枝などの不要物と綿毛を取り除き、”もぐさ”ができます。多くの手間暇をかけて”もぐさ”はつくられています。

お灸は鍼より古い!?

鍼とお灸、どちらの方が古いのか、よく聞かれますが、現在見つかっている文献資料から判断すると、お灸の方が古い可能性が高いです。今からおよそ2200年前の墓から出土した馬王堆漢墓医書が現存する最古の医書ですが、それにはお灸による治療が記されています。鍼については書かれていません。

これはあくまで想像ですが、当時はお灸でわざと化膿させて、そこを砭石(へんせき)と呼ばれる石のメスで切るという治療をしていたのかもしれません(当時、医術の神様的な存在あるいは流派として扁鵲(へんじゃく)というものがいたのですが、扁鵲は”へんせき”とも読めます)。

先ほどの最古の医書では「灸」という字ではなく「久」の字が使われています。
「灸」は「久(つける・おしあてる)」と「火」からなる会意文字だという説もありますが、「久(キュウ)」という音符に、火の意符を合わせた形成文字とみる説の方が有力です。火熱で皮膚を焼くことを「久」というのは音からきたと考えられます。

お灸の効果

次にお灸による効果です。

  • 温熱作用
    昨年2021年の医学生理ノーベル賞で話題になりましたが、温度と触覚の受容体の一つにTRPチャネルがあります。この研究のおかげで温熱刺激の生理学的なメカニズムが解明されました。
    43度以上で活性化するTRPV1、52度以上で活性化するTRPV2、32~39度で活性化するTRPV3、27~35度で活性化するTRPV4などがあり、お灸のやり方の違いで、受容体が変わってくると考えられています。
    これらの受容体は温熱刺激だけでなく、機械的刺激、化学的刺激とも関りが深く、これらの研究により、鍼灸がなぜ効くのか、鍼灸の作用機序の解明につながることが期待されます。
  • 免疫機能の調整
    お灸により、マクロファージや樹状細胞を介したサイトカインの産生、NKキラー細胞の活性化など、自然免疫系を活性化することが指摘されています。
    お灸の研究で博士号を取り、お灸の普及に貢献し、自身へのお灸も欠かさず104歳まで現役の医師を続け、1991年に108歳で亡くなった原志免太郎という先生がいます。この先生はお灸により白血球数が増加、結核の予防にお灸が有効であるという論文を書きました。その論文に注目して、イギリスのチャリティー団体モクサアフリカ は、アフリカで灸による HIV・結核感染者の治療に取り組んでおり、自身にお灸をすることをすすめています。お灸が海外でも役立っていることは嬉しい限りです。衛生環境も早く改善されればなと思います。

他は鍼と同じように、鎮痛・血流改善・筋緊張緩和・自律神経への関与などが指摘されています。

お灸を使ったセルフケアのやり方

直接灸のやり方

もぐさは良質のものをお使いください。薄黄色で柔らかく、良く乾燥しているものです。市販品では、「最高級」「さらしもぐさ」「直接灸用」「点灸用」「透熱灸用」などの表記があります。古くても問題はありません。湿気ている場合は天日かドライヤーで乾かしてお使いください。

1.もぐさを細く伸ばす
(目安:仏壇用の線香くらいの太さ)

もぐさを小指の爪くらいにちぎり、コルク製のコースター2枚(100均で売っているもので十分です)に軽くはさんで転がします。このときコースターの重みで転がす感じです。円を描くように転がすと球になってしまいます。

小指の爪くらいの量
コースターを使って転がす
線香くらいの太さ

2.もぐさをちぎる
(目安:生米くらいかやや小さめ(半米粒大))

細く伸ばしたもぐさをちぎって、母指と人差し指の先でつまんで軽くひねって尖らせ、鉛筆の先の芯の形に作ります。線香の灰を指先につけておくとやりやすいです。多少ちぎる長さが長くなっても大丈夫です。ただ太くなるとその分熱いです。

3.もぐさをのせる

ツボへ薬指の先で、少し湿る程度に水またはハンドクリームなどをうすくつけて、もぐさがくっつきやすいようにします。もぐさはツボの中心部にまっすぐ立てます。

4.線香で火をつける

線香は火のところから3センチ位の部分を人差し指と中指ではさみ、同じ手の薬指と小指をツボの横へ立てて、火をつけるときに安定させます。
火付けは、線香を内方向に半回転させて、触れるか触れないかくらいに線香を近づけると火が付きます。火先の灰をとらないと、線香にもぐさがくっついて釣り上がることがあります。

5.もぐさの両側の皮膚をひっぱる

燃え始めたら、人差し指と親指で、もぐさの両側の皮膚をひっぱると熱さがやわらぎます。

両側の皮膚をひっぱる

6.灰を押さえて、その上に次のもぐさを置く

燃えたら指で軽く押さえ、その灰の上から続けてすえます。その方がもぐさがくっつきやすく、熱さがやわらぎます。

お灸の熱をやわらげるために、「灸点紙🄬」というものもあります。

注意事項

  • 1日1回、1つのツボに7壮が目安。
    数も多ければ早く効くというものではありません
  • する時間は、充分時間がある時で心身のゆったりしている時がいいです。
    時刻にこだわる必要はありません。
    お酒に酔っている時、食前・食後や入浴の前後30分は空けましょう。
  • できたら毎日。少なくとも1週間に1~2度。
  • 発熱時は休む。
  • 水ぶくれができた時や、化膿した時はそのツボのみ休む。
    水ぶくれはつぶさずに、平らになるまで休んでください。
  • お灸をすえているとできる”うすかわ”や”かさぶた”は、はがさないでください。

台座灸のやり方

ドラッグストアに行くと「せんねん灸🄬」というのが売っています(なかったらごめんなさい。ネットでも買えます)。底部がシールになっている台座のついた台座灸と呼ばれるものです。熱の伝わり方がじわーんと温かくなる程度で、お灸の痕が残りにくいの特徴です。
今回は台座灸の代表例としてせんねん灸🄬を説明します。ほかにも台座灸でしたら「長生灸🄬」、他にも手軽にできるものとして円筒灸というのがあり、「カマヤミニ🄬」などがあります。

せんねん灸🄬の使い方

  1. せんねん灸の底はシールになっているので、そのシールをはがす。
  2. 火をつけてからツボの上に貼る。
  3. 火が消えるまでそのままにし、台座が冷めたら取る。

注意事項

注意事項は直接灸と同じですが、以下の点は異なりますので注意してください。

  • 低温火傷になるおそれがあるので、「熱い」「痛い(ピリピリ)」と感じたら途中でも我慢せずに取ってください。
    台座のところが熱くなっていることがあるので、灰皿等を近くに置いてから取ってください。
  • すえる数は1~2個まで。
    熱さには段階があります。初めての方は一番弱いもの(ソフト、緑色)から始めてください。
  • 火事にならないように燃えカスは完全に冷めてからゴミ箱に捨ててください。

セルフケアのおすすめのツボ

養生灸として以下の三つのツボをご紹介します。

曲池

肘の横紋の外端にあるツボ。 肘を曲げたときにできるしわの外端を仮点とし、肘を伸ばして、その仮点の周囲を押して痛いけど気持ちいいところを探してください。

首肩こり、目の疲れ、口内炎、のどの腫れなどに使います。

足三里

膝の下、向こう脛の外側にあるツボ。
膝のお皿の上に親指を当て、お皿をつつみこむように握った際に中指の先が当たるところにあります。押して痛いけど気持ちいいところを探してください。

胃腸症状や、足の疲れ、むくみ、膝の痛み、病気の予防などに使う万能なツボです。先程の原志免太郎先生が自身に据えていたツボでもあります。

三陰交

うちくるぶしから指4本分上にあるツボ。すねの骨の後ろの際にあります。押して痛いけど気持ちいいところを探してください。

骨盤内の血液循環を整えます。婦人科疾患(生理諸症状・更年期症状)、冷え、むくみ、逆子などに使います。

お灸は、自分でできるところは自分ですえていただくと良く効きます。一般的に自立心をもった方は良くなっていくと言われています。そして、ご家族やご友人にすえていただく時には、感謝の気持ちを忘れないでください。感謝の心があると長続きします。

お灸のやり方などでわからないことがありましたら、気軽にご質問ください。

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