どんな時に鍼灸をするのか。鍼灸の作用と適応について
鍼灸といったら「肩こり」や「腰痛」に対してするもの、と思われている方が多いかと思います。
確かにその通りなのですが、それだけではありません。鍼灸は少なくとも2000年以上前から行われてきた医術です。現代のように西洋医学の手法が主となる以前は、東アジアを中心とした地域では主に鍼灸と漢方薬だけで病気に対抗してきた歴史があります。鍼灸は肩こり、腰痛、膝痛などの運動器の症状に限らず、身体のさまざまな症状に幅広く対応できます。今回は、どういった場合に鍼灸治療をするのかについて書いていきます。
目次
鍼灸治療はそもそもどんなことをするのか?
治療がそもそもどこから始まっているのかと考えたら、患者さんとの電話での会話のときなり、鍼灸院に入ってきたときなり、患者さんの声や姿かたちなどの情報が入ってきている時点ですでに始まっている気がするけれども、まぁそれは置いておいて、問診や検査も終わって実際に患者さんに触れるところを今はスタート地点とします。
最初にどこに施術していくかを決めるのですが、施術者の手の平や指を使って、患者さんの体表を圧迫していきます(触れる前に目で見ているので、その時点でだいたいここだろうと目星はついていますが)。そして押して痛いところなり、他とは違うところを施術者と患者さんとでお互いに確認し合って、施術するところを決めます。この場所がいわゆるツボです。このツボに対して鍼と灸を用いて刺激を加え、生体反応を引き起こします。以下で鍼と灸について簡単に説明しますが、そうした鍼と灸を介して施術者と患者さんとがやりとりをし、ツボの反応の変化(押して痛みがなくなったり、硬かったのが柔らかくなったりなど)を確認しながら、症状の緩和や解消、体質の改善、病気の治療、予防などを目指します。
鍼とは?
鍼と一口に言っても色んな種類の鍼がありますが、一般的に鍼と言ったら毫鍼(ごうしん)と呼ばれる、極細いただの針金です。太さが0.12~0.35mm(髪の毛の太さの倍くらい)、長さが15~60mm、材質は銀や金を使う人もいますが、ステンレス製の使い捨ての鍼が今は主流です。この鍼で刺激を加えるのですが、やり方もこれまた色々あります。刺さずに触れるだけにしたり、さすったり、チョンチョンしたり、刺したとしても浅かったり、深かったり、鍼を回転させたり、上下に動かしたり、そのまましばらく置いておいたり、と色々です。
灸とは?
灸は、艾(もぐさ)と呼ばれるよもぎの葉の裏の綿毛を捻って、火をつけて燃やします。灸といったら懲らしめるために据えるものというイメージがあるかもしれませんが(ほんといい迷惑です)、そんなに言うほど熱くありません。灸に関してもこれまた色んなやり方があります。米粒くらいかその半分くらいの大きさに艾を捻って皮膚の上に直接置く透熱灸(とうねつきゅう、点灸)というやり方や、大きめに捻った艾を、燃やしきらずに熱くなるかならないかといった段階で取る知熱灸といったやり方、スライスしたニンニクやショウガ等の上に艾を置いて燃やす隔物灸といったやり方、艾を紙で巻いて棒状にした棒灸を使って温めるやり方などがあります。
鍼灸はどういった作用があるのか?
鍼灸には以下のような作用があります。
- 鎮痛
- 筋緊張の緩和
- 自律神経系、内分泌系(ホルモン)の調節
- 血流の調節
- 免疫機能の調節
- 恒常性維持機能(身体を正常な状態に保とうとする機能)の活性化 など
痛みのあるところ、こりのあるところに鍼灸をすることで、刺激した局所の鎮痛、筋緊張緩和、血行改善だけでなく、内臓の働きを調節する自律神経系や内分泌系、さらに免疫系など全身にも影響を与えます。
はじめは肩こりや腰痛で来られていても、風邪をひきにくくなった、体調がいい、食欲が出るようになった、お通じの調子が良くなった、よく眠れるようになったなど体調の変化を実感し、症状がなくなってからも病気の予防、体調管理を目的に、鍼灸治療を定期的に続けられる患者さんも多くいらっしゃいます。
鍼灸治療の適応症
では鍼灸治療の適応となるものは何かというと、これをはっきりと申し上げるのはなかなか難しいです。現代医学的病名を並べたらわかりやすいのでしょうが、実際それに基づいて治療、施術をしているわけではないです。
器質的疾患は無理だが、機能的疾患は鍼灸に適応するとよく言われますが、器質的疾患とは何か、機能的疾患とは何か。
器質的疾患とは形態が変化しているもの、臓器そのものに炎症や癌などがあり、それによって症状が出ていて、検査で症状の原因が見つかるようなものです。
機能的疾患とは、臓器そのものには異常はないけれども症状があり、検査しても症状の原因となる異常がわからないものです。
ですが、形態と機能はお互い関係しあっているものですから、形態の変化のない機能的疾患などなく、機能の変化のない器質的疾患はありません。疾患というものはそのどちらも面もあるもので、器質的側面が強いものと機能的側面が強いものがあるだけです。
器質的に問題があるものに対して現代医学には色々な手段がありますが、鍼灸治療では機能的変調を調節するという手段しか持ち合わせていません。ですが機能調整については優れています。ですからどんな疾患であれ機能的側面には有効ですし、器質的側面には直接的には働くことができません。すなわち機能的側面の大きな疾患は鍼灸に適応していますが、器質的側面の大きいものは不適応ということになります。
ですが、器質的側面が大きいからと言って鍼灸にやれることがないかと言えば、そんなことはありません。例えば癌。癌そのものは鍼灸の適応ではありません(癌やら難病と言われるものを鍼灸で治せるという人も中にはいらっしゃるかもしれません。僕も治せるものなら治したいですが、優先すべきは現代医学と考えます)。ですが、痛みや薬の副作用、肩こり、腰痛、倦怠感などに対して鎮痛、体調管理、病状の維持管理という側面から鍼灸でアプローチすることは可能です。器質的疾患は現代医学的治療を優先しつつ、その周辺症状に対して鍼灸治療を補助的に活用することができます。
鍼灸の適応を考える際には、他の治療法、とくに現代医学的治療法と比較すること、患者さんがどういった状況にあるのかを考えることが大事です。仮に現代医学的治療法が優先されるとしても、鍼灸はどんな疾患であれ機能的側面には有効なので、体調管理・疾病管理として鍼灸を活用することができます。気軽にご相談いただければと思います。
体調管理・疾病予防・身体のケア
鍼灸の適応症を簡単にまとめますと次のようになります。
- 痛み、痺れ
- こり
- 自律神経失調症状(機能的疾患、検査で原因が特定できないが症状があるもの)
- 一部の炎症症状(関節炎や慢性気管支炎など)
- 体調管理・疾病予防・身体のケア
- リハビリ・疾病管理(完治こそしないが、悪化はせず、日々の生活を送ることができる)
鍼灸治療の主たる対象は体調管理・疾病予防・身体のケアだと思います。眠れないとか、食欲がないとか、便通が悪いとか、体がだるいとか、頭が重いとか、肩がこるとか、腰が痛いとか、病気とは言えないけれど日常生活を送る上で不愉快な症状が鍼灸で改善でき、こういった症状は疾病の前段階なので、これらを解消することが疾病の予防にもつながります。治療としてだけでなく、日々の生活を快適に過ごすため、日常生活の質を高めるために、身体のケアとしても鍼灸を活用していただければ幸いです。
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