ツボについて② ツボの分類とどこのツボがどこに作用するか

前回、ツボの実体について、ちゃんとしたことはわかっていないけれども、臨床上どのように考えられるかについて述べました。

今回はその続きです。やや専門的な内容で、『明堂』の話はマニアックな内容です(全部マニアックか?)。

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ツボの表情

ツボはさまざまな表情をしています。

凹み、弛み、硬い、張り、冷たい、熱い、ザラザラ、カサカサ、湿り、色が赤い、黒い、褐色、毛穴が開いている、産毛が多い、産毛が渦巻いている、圧痛、感覚が鈍い、かゆい、くすぐったい、などなど。

このまま扱ってもいいのですが、分かろうとするには分ける必要があり、また他の人と情報を共有するためにも分類します。すべての情報を拾うとなると雑多になり、とてもじゃないけど扱いきれないので、いくつか情報を取捨選択します。どれも重要な指標ですが、人によって何を重視するか、施術のやり方、得意なもの、考え方などが当然違いますので、分類の仕方もいろいろあります。

ここでは僕が研修を受けた愛媛県立中央病院漢方内科鍼灸治療室(旧愛媛東洋医学研究所、略して愛媛東医研)の分類をご紹介します。

ツボの分類(愛媛東医研の分類)

愛媛東医研ではツボを5つに分類しています。

  1. 圧過敏性陷下
  2. 圧過敏性膨隆
  3. 圧過敏性浮腫
  4. 充血
  5. 細絡

「圧過敏性」というのは、触ったり押したりして、痛かったり、嫌な感じがしたり、心地よい感じがしたり、色味が変化したり、とただ触ったり、押したりしたときの反応が他とは違うようなことを言います。

この分類は『霊枢』九針十二原篇の一文と臨床経験に基づいています。

虚則實之,滿則泄之,宛陳則除之,邪勝則虚之

『霊枢』九針十二原篇に「凡用鍼者,虚則實之,満則泄之,宛陳則除之,邪勝則虚之」という一文があります。書き下しますと「凡そ鍼を用うる者、虚なれば則ち之を実し、満つれば則ち之を泄し、宛陳すれば則ち之を除し、邪勝れば則ち之を虚す」となります。「宛陳(うっちん)」の宛はうっ滞の意、陳は陳旧の意、血液がうっ滞しふるくなったものと、解釈します。

一般にこの文章は虚実・補瀉について述べていると解釈され、「虚則實之」が虚の状態に対して補法を用いよ(ざっくりいうと虚は正気が弱っている、補法は元気にする)、「満則泄之,宛陳則除之,邪勝則虚之」が実の状態に対して瀉法を用いよ(ざっくりいうと実は邪気が盛ん、瀉法はそれを取り除く)と解釈されることが多いです。

ですが、これを「虚則實之・邪勝則虚之」と「満則泄之・宛陳則除之」とに分けて、前者が「気」について言っており、後者が「血」について言っていると解釈します。

この分け方は『傷寒論』の太陽病に関して述べている一文にある「頭項強痛」の解釈に則っています。この「頭項強痛」は「頭痛」と「項強」と分けて解釈します。このような表現が古い文章にはよく出てきます。

同様にして「虚則實之,滿則泄之,宛陳則除之,邪勝則虚之」を「気」「血」に関して二つに分け、これをツボに拡大解釈し、そこに圧過敏性浮腫を追加しました。

ツボの分類とそのイメージ

なぜ圧過敏性浮腫を追加したのか。それは臨床上しばしば見られるものであり、漢方理論に従えば「気」「血」「水」の三つで考えるので、ツボにも「水」を追加したかったからです。

また炎症というものを考えると、やはり圧過敏性浮腫は追加すべきであり、時間的変化を推測することができます。

炎症―生体の恒常性を維持しようという反応

炎症とは、異物や死んでしまった自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持しようという反応です。

炎症の経過を3つに分けることができます。

  1. 血管が広がって局所への血流が増え、血管の壁がゆるくなって漏れやすくなり、血液の成分が血管外に流出します。
  2. 白血球が血管外に出ていき、異物や死んでしまった組織を食べて取り除きます。
  3. 毛細血管が新しくでき、線維芽細胞が増殖し(線維化)、損傷した部位を修復します。

炎症がうまく働くと異物が追い出され、傷ついた細胞が修復され、生体は元の状態に戻ります。炎症は一過性であることが普通です。

ところがこれがだらだらと続いて慢性化することがあります。例えば、動脈硬化なら動脈の壁で、アトピー性皮膚炎なら皮膚で、喘息なら気道で、それぞれ炎症がだらだらと続いています。炎症が慢性化すると、一時的に起こるはずの線維化が止まらなくなり、線維化が進み、その結果、組織が硬くなり柔軟性が失われ、その機能が低下します。

これをツボにもあてはめて考えることで、時間的変化を捉えることができます。

ツボの初期の反応としては、圧過敏性膨隆、圧過敏性浮腫(パーン)、充血(毛細血管の拡張、色鮮やか)といったものが考えられます。次に慢性的になってきますと、圧過敏性浮腫(ブヨブヨ)、圧過敏性陷下(線維化)、充血(くすんだ色)、細絡(新生した毛細血管)といったものが考えられます。

ツボの時間的変化

身体の場所によって起こりやすい反応はもちろんありますが、損傷した部位をなおそうと血流が増加し、それが長引くと水分が失われていく、という時間的変化を考慮に入れることは、このツボの状態になるまでどのぐらい負担が続いたのかという患者理解や、これをよくするのにはどのくらいかかりそうなのかという予後などの判断材料のひとつになるので、臨床上役に立つのではないかと思います。

ただしこうした分類は、はじめに言ったようにいろいろあった反応を取捨選択したものであり、当然枠から外れたものがあります。便利なものですが、あまりこの枠にとらわれすぎると、その枠の中のものしか見えなくなってしまう恐れもあります。

どのツボがどこと関連しているか―明堂に基づいて

どのツボがどこと関連しているかの経験則を、『明堂』に基づいて簡単に述べたいと思います。

『明堂』とは

『明堂』とはツボに関することが書かれた古典です。ツボの位置や刺激量、どういった症状に使うか(主治症)が書かれています。時代としては『素問』『霊枢』と同じ頃と考えられています。残念ながら現代には伝わっておらず、その内容が『鍼灸甲乙経』『備急千金方』『明堂類成』『外台秘要方』『医心方』に伝わっています。「その内容が」とわざわざ言うのは、『明堂』をそのまま引用しているのではなく、編纂者の意図によって各々形式が違っているためです。

その内容を伝える文献から『明堂』を復元したものがいくつかあります。が、漢字の羅列で理解しづらく、臨床に活かしにくいです。活かすにしても問題があります。その内容をざっくり言いますと、ほとんど感染症に伴う症状ばかりです。当時一番困ったものが感染症だったことがよくわかります。感染症に対して鍼灸で対処していた時代があり、内科系の問題ばかり書かれております。現代の世間一般の鍼灸のイメージのような筋骨格系の問題はほとんど書かれておりません。

なのでそのまま感染症に対する鍼灸として読んでしまっては、現代には活かしづらいです。基本、感染症は現代医学で対応しましょうというのが一般です(ただの風邪程度だったら寝て休むのがいいです)。

『明堂』を今に活かすには

では、どうしたら『明堂』を今の臨床に活かせるのか。

僕が出した答えはどこのツボがどこに作用しているのか、場所が大事なのではないかということです。

鍼灸と漢方とを比較した場合、鍼灸はどこが問題となっているのか、病の位置が大事で、漢方の場合は寒熱、虚実といった病の性質が大事だと考えます。鍼灸の場合も寒熱虚実は考えますが、どちらかというと手技、手段の話になり、どのツボを使うか、選穴の場合は病位が大事だと考えます(ツボに補気や清熱、去風といった生薬と同じような作用があると考える穴性というものもありますが、その考えはとりません)。

このように考えて、どこのツボがどこに作用するのかに着目して、ツボを各部位(頭部、体幹部は部位別、四肢は経脈別)に分類し、復元した『明堂』主治症の各症状を身体の各部位に分類しました1, 2

結論だけ簡単に言いますと、頭部と体幹部のツボは各部位の局所、近隣の症状に対して用いられます。四肢のツボは局所だけでなく遠隔部の症状に対しても用いられます。
手陰経は胸部(呼吸器系、循環器系など)に、手陽経は首から上で、手陽明は前、手少陽は横、手太陽は後に作用し、足に関しては、足太陰は消化器系、足厥陰は泌尿生殖器系、足少陰は全身状態が悪いものに、足陽明は心(神)と面等の体の前、足少陽は脇等の体の横、足太陽は頭項腰等の体の後に作用する、と当時考えられていたことがわかりました。

どこのツボがどこに作用するか

四肢のツボがどうして遠隔部の症状に効果があるかについては詳細はわかりませんが、経験則として以上のようになっています(理屈云々をこねくり回してより、臨床経験に基づいて記したものがおそらく多いと信じたい)。もともと経脈とか絡脈というようなものはこのような四肢と遠位部とのつながり、関連性を言っていただけだと思われます。例えば手のツボの合谷は歯痛に効果があったという経験から、そこと歯が何かしらつながっていると古代の人たちは考えたと思われます。それをただ線で結んだだけです。その後、その線上の症状や、また別のところ症状がよくなったりして、線が延長したり、枝分かれができたり、また営衛(循環)の考えが入ったり、陽経も腑と関係づけたり(腑というのももともと管腔臓器ではなかったと思う)など、当時の考えをいろいろ取り入れて苦心してまとめた結果、『霊枢』経脈篇ができあがったと考えられます。複雑にしすぎだろ…と思ってしまいます。

あくまで『明堂』に基づいて取穴、選穴するならば、まず病の位置、問題がある場所を特定し、その局所、近隣のツボ、そしてその場所に作用する四肢のツボを取穴することになります。手足を重視するか、体幹を重視するかの違いはあるとは思いますが、結果として皆同じようなことをやっているのではないかと思っています。

まとめ

以上二回にわたってツボについて書きました。まだ書きたいことや説明不足なところもありますが、雑多になるので、とりあえずここでひとまず終えたいと思います。

  • ツボは、日々の生活の中で受けるさまざまな刺激に反応した結果、体表に現れる変化です。
  • ツボは、鍼灸治療をする上で重要なもので、診断にも使い、治療にも使うところです。
  • ツボの反応はさまざまあります。分類として愛媛東医研のものを紹介しました。
  • どこのツボがどこに作用しているのか、場所に着目するのが大事なのではないか。


1)2020年 第28回日本鍼灸史学会学術大会 一般演題 「手三陽経の『明堂』主治症の比較」
2)2021年 第29回日本鍼灸史学会学術大会 一般演題 「『明堂』主治症の身体部位による比較」

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