背中のツボ⑧―三焦兪・腎兪

三焦兪・腎兪

背中のツボ、8回目です。今回は三焦兪と腎兪です。

背中のツボ①―大椎・陶道・身柱・神道・至陽・筋縮
背中のツボ②―脊中・懸枢・命門・腰兪・長強
背中のツボ③―大杼・風門
背中のツボ④―肺兪・心兪
背中のツボ⑤―膈兪および膈兪と膏肓について
背中のツボ⑥―肝兪・胆兪
背中のツボ⑦―脾兪・胃兪

目次

背自第一椎両傍俠脊各一寸五分至下節凡四十二穴第八

三焦兪

各書の主治条文

医心主治条文
 頭痛食飲不下膓鳴臚脹欲欧時洩注矣

甲乙主治条文
 頭痛食不下腸鳴臚脹欲嘔時泄●三焦輸主之(巻之九 脾胃大腸受病発腹脹満腸中鳴短気第七)

外台主治条文
 頭痛飲食不下腹鳴臚脹欲嘔時注

主治条文の比較

医心頭痛食飲不下膓鳴臚脹欲欧時洩注矣
甲乙頭痛食 不下腸鳴臚脹欲嘔時泄
外台頭痛飲食不下腹鳴臚脹欲嘔時 注
復元頭痛食飲不下鳴臚脹欲欧時
  • 腸:『医心』、『甲乙』に従います。
  • 泄:『医心』の「洩」は、唐の皇帝、李世民の避諱で「泄」を改字したもの。

単位条文化

『甲乙』に従って単位条文化すると、次の1条文になります。

①頭痛、食飲不下、腸鳴、臚脹、欲欧、時泄注。

「臚」は『説文解字』には「臚、皮也」とあり、『説文解字注』で段玉裁は「今字皮膚、従籒文作膚、膚行而臚廢矣」と注釈をしています。もともと「臚」だったが省略されて「膚」となったとしています。とすれば、「臚脹」=「膚脹」となります。『霊枢』水脹(57)に「膚脹者、寒気客于皮膚之間、𪔣𪔣然不堅、腹大、身盡腫、皮厚、按其腹窅而不起、腹色不変、此其候也」とあります。「𪔣𪔣然」は、多紀元簡が『霊枢識』で「𪔣字亦従鼓従空、蓋中空之義。諸註為鼓聲、豈有不堅而有聲之理乎」と注釈をしています。中空で、堅くない様を言っています。「窅」はくぼんでいること。「膚脹」は寒気が皮膚の間に滞り、堅くなくて、腹が膨満する。体がむくんで、腹を指で押さえると、離しても戻らず、皮膚の色に変化はない。圧痕性浮腫がみられることから、肝疾患、腎疾患、心疾患などが考えられます。お腹が問題となっていることから肝疾患によるもので、門脈圧が亢進し、お腹に水が溜まっているのでしょうか。

頭痛、飲食物が下らず、腹が鳴り、腹は膨らみ皮膚はむくみ、吐き気があり、時に下痢をする。

肝機能低下によりタンパク質が合成できず、低アルブミン血症となり、血管から水が出て腸管がむくみ、また下痢となっているのかもしれません。

考えすぎかもしれない。

腎兪

各書の主治条文

医心主治条文
 腰痛熱痓食多身痩両脇難心下䐜痛喘欬溺苦頭痛足寒洞洩食不化

甲乙主治条文
 熱痓●脾輸及腎輸主之(巻之七 太陽中風感於寒湿発痓第四)
 寒熱食多身贏瘦両脇引痛心下黄[1]痛心如懸下引臍少腹急痛熱而[2]急〈一作黒〉目𥉂𥉂久喘咳少気溺濁赤●腎輸主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 骨寒熱溲難●腎輸主之(巻之八 五臟伝病発寒熱第一下)
 腎脹者●腎輸主之亦取太谿(巻之八 五臟六腑脹第三)

外台主治条文
 腰痛不可俛仰反側熱痓寒熱食多身羸痩両脅引痛心下焦痛心如懸下引臍少腹急痛熱面黒目𥇀𥇀喘欬少気溺滑赤骨寒熱便難腎脹風頭痛如破足寒如氷頭重身熱振慄腰中四肢淫濼欲嘔腹鼓大寒中洞泄食不化骨寒熱引背不得息

参考

『千金』巻三十
 腎輸主両脇引痛(心腹第二 胸脇)
 腎輸主小便難赤濁骨寒熱(心腹第二 大小便病)
 腎輸章門主寒中洞泄不化(心腹第二 泄利病)
 腎輸主頭身熱赤振慄腰中四肢淫濼欲嘔(熱病第五 熱病)

敦煌本『明堂』[3]
 腎兪在第十四椎下両旁各一寸半刺入三・・・
 主要痛不可以俛仰反側熱痓寒熱食・・・
 両脅難以息心下塡堅痛心如懸下引斎少腹急痛
 熱面黒目芒々喘欬少気溺善濁出赤風頭痛如破足
 寒如氷頭重身熱振慄要中四支淫濼欲欧脈▢▢
 寒中洞泄食不化骨寒熱互引溲難腹▢▢引背
 不得息 

[1] 頭注:黄乃賁字誤
[2] 頭注:他本而作面
[3] 遠藤次郎・梁永宣「敦煌本『明堂経』の復元ならびに原『明堂経』に関する考察」『漢方の臨床』43巻9号, pp71-85, 1996年
  小曽戸洋「『黄帝内経明堂』書誌研究」『中国医学古典と日本』塙書房, pp142-174, 1996年
 

主治条文の比較

医心腰痛       熱痓  食多身 痩両脇難  心下䐜 痛                 喘欬  溺苦    頭痛  足寒                     洞洩食不化
甲乙         熱痓寒熱食多身贏瘦両脇引痛 心下黄 痛心如懸下引臍少腹急痛熱而急目𥉂𥉂久喘咳少気溺 濁 赤                                 骨寒熱  溲難        腎脹
外台腰痛不可 俛仰反側熱痓寒熱食多身羸痩両脅引痛 心下焦 痛心如懸下引臍少腹急痛熱面黒目𥇀𥇀 喘欬少気溺 滑 赤風頭痛如破足寒如氷頭重身熱振慄腰中四肢淫濼欲嘔腹鼓大寒中洞泄食不化骨寒熱  便難   引背不得息腎脹
敦煌要痛不可以俛仰反側熱痓寒熱食    両脅難以息心下塡堅痛心如懸下引斎少腹急痛熱面黒目芒々 喘欬少気溺善濁出赤風頭痛如破足寒如氷頭重身熱振慄要中四支淫濼欲欧脈  寒中洞泄食不化骨寒熱互引溲難腹▢▢引背不得息
復元腰痛不可俛仰反側熱痓寒熱食多身羸痩両脇難以息心下䐜堅痛心如懸下引臍少腹急痛熱面黒𥇀𥇀 喘欬少気溺善濁出赤風頭痛如破足寒如氷頭重身熱振慄腰中四肢淫濼欲欧鼓大寒中洞泄食不化骨寒熱互引溲難腹▢▢引背不得息
  • 以:敦煌本に従い、採ります。
  • 難以息:『医心』、敦煌本に従います。
  • 䐜堅:『医心』、敦煌本に従います。
  • 面黒:『甲乙』注、『外台』、敦煌本に従います。
  • 𥇀𥇀:『外台』に従います。𥇀=⿰目芒。𥉂、𥇀、芒は同義。
  • 善濁出:『甲乙』、敦煌本に従います。
  • 脈:敦煌本に従います。
  • 腹▢▢:残念ながら『甲乙』『外台』等から復元できず。「腹脹満」か?後述参考。
  • 腎脹:敦煌本にはないことから、採りません。『甲乙』の編者が追加したものでしょうか。これまで「肺脹」「心脹」「肝脹」「脾脹」と復元に入れていましたが、これらも『甲乙』の編者が新たに加えたもので、もともとの『明堂』にはなかったものと考えられます。

単位条文化

①腰痛、不可以俛仰反側。

②熱痓。

③寒熱、食多身羸痩、両脇難以息、心下䐜堅痛、心如懸下引臍、少腹急痛、熱、面黒、目𥇀𥇀、喘欬少気、溺善濁出赤。

④風頭痛如破、足寒如氷。

⑤頭重、身熱、振慄、腰中四肢淫濼、欲欧、脈鼓大。

⑥寒中洞泄、食不化。

⑦骨寒熱、互引、溲難、腹▢▢、引背不得息。

①腰が痛み、腰を前後屈したり、ひねったりすることができない。

②熱けいれん。

③「寒熱、食多身羸痩」感染症のために発熱、体重減少が起こっています。
「両脇難以息、心下䐜堅痛、心如懸下引臍、少腹急痛」腹壁の緊張が強いです。腹膜炎を起こしていると思われます。「少腹急痛」とあることから虫垂炎からの腹膜炎でしょうか。
「心如懸」に関して、『霊枢』経脈(10)に「心如懸若飢状」、『素問』玉機真蔵論(19)にも「心懸如病飢」とあります。『素問攷注』で森立之は「懸與絃、弦等字通用。心懸者、謂心下絃癖。心如懸者、謂心下癖気如弦亘起也」と注釈しています。「心如懸若飢状」、「心懸如病飢」はやせ衰えて腹壁が板のように硬い状態を言っていると考えられます。
「熱、面黒、目𥇀𥇀、喘欬少気」実際に顔が黒いかはわかりませんが、少なくとも顏色は悪いです。熱のために視界もぼんやりしています。呼吸も浅く、頻回。
「溺善濁出赤」下部尿路感染症。腎盂腎炎などの上部尿路感染もありえますが、腰痛なり背部痛なりの記述がないので、下部尿路感染か。あるいはミオグロビン尿。高熱で横紋筋融解を起こし、ミオグロビン尿が生じている可能性もある(追記2023.03.07)。

④頭が割れるほどの痛く、足も氷のように冷たい。風邪の侵襲が原因となっています。

⑤何かしらの感染症。頭が重く、身体が熱し、悪寒がひどく身体が震えている。「淫濼」はひどく痛んで力が入らないこと。「腰中四肢淫濼」は関節痛、筋肉痛を言っていると思われます。「欲欧、脈鼓大」と吐き気があり、脈もはやくなっています。

⑥冷えたために下痢、未消化便。

⑦「骨寒熱」腎との関連で骨と言っているだけと思われます。悪寒発熱があって、筋のひきつり(互引)があり、小便が出にくい(溲難)。
「腹▢▢」『霊枢』脹論(35)「腎脹者、腹満引背、央央然腰髀痛、六府脹」、『甲乙』巻之九 腎小腸受病発腹脹腰痛引背少腹控睾第八と、腎が病を発すると「腹満」あるいは「腹脹」が起こっています。腹の後の字数は二字あるいは三字が考えられるので、「腹脹満」か?
仮に腹脹満として、さらに背中も強張り、呼吸がしにくくなっています。
おそらく腎盂腎炎などの上部尿路感染症じゃないかと思われます。

以上の内容は、ただの趣味です。学者としての訓練・教育・指導等は受けてはいませんので、多々誤りはあるかと思いますが、どうぞお付き合いください。誤り等ご指摘いただければ幸いです。

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